実家から芋が送られてきたので、ちょうどいい火種がないかと探した結果、午前中にフロイド・リーチから押し付けられた手紙状の何かを燃やして芋を焼くことにした。
白い封筒に赤いハートのシールなんぞ貼ってあって見るからに胡散臭かったし、なにより微妙に魔力の気配がしたので、天下のナイトレイブンカレッジで日々命の危険と隣り合わせに生きている学生としては至極まっとうな処分方法だったと思う。
紙はよく燃えた。芋も順調に焼けている。そこまではよかった。
その結果、なぜか現在フロイド・リーチが俺の真横で膝を抱え、長い身体を無理やり小さく丸めながらびゃあびゃあと泣きじゃくるに至ったんだが、何がどうした? さっきまで「なんでラウンジ来ねぇんだよ」と物騒な顔で怒鳴りながら歩いてきていたくせに、焚き火を見るなり足を止め、次の瞬間にはこの有様である。
人魚ってこんなに涙出るんだな。知らなかった。しかも声がでかい。陸の人間とは肺活量から違うのか、泣き声が中庭の石壁に反響して、下手すると校舎の向こうまで届きそうだ。
うるせえ。とはいえ五分も十分も隣で泣かれると、さすがに俺だって多少は気まずくなる。仕方なく火箸で灰の中からちょうどよく焼けた芋をひとつ拾い上げて差し出した。
「ええ……芋、食べる? 」
かなり譲歩したつもりだったのに、フロイドは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げたかと思うと、
「いらねぇし!! 」
と、俺の手から芋を全力で叩き落とした。せっかく皮が焦げる寸前までいい具合に焼けていた芋は、ぽーんと情けない放物線を描いて焚き火の真ん中へ戻っていき、ぱちぱち爆ぜる薪の間へ転がり落ちた。なんてことするんだこの野郎。火箸で目ん玉突くぞ。
フロイドとは一年の時に、廊下を歩いていたら突然後ろから肩に顎を乗せられて、「歩くの飽きた!! お前、運んで!! 」と謎の宣言を受け、その場で足を掴んで引きずり倒し、目的地まで連れて行ってから妙に懐かれた仲だ。
どう運べとは一言も指定されていなかったので、石造りの廊下だろうが階段だろうが遠慮なく踵からずるずる引きずってやった。階段なんか足から逆さまにして一段ずつ頭が落ちない程度の速度でのぼったし、途中から長い腕が床を擦っていたが、知らん。初対面の人間に平然と無茶振りしてくる奴は、若いうちに多少痛い目を見ておいた方がいい。
「頭ぶつかってる!! もっと優しくしろよ!! 」
「優しいから運んでやってんだ、ありがとうって言え! 」
「あんがと! 」
「どういたしまして!! 」
これで懐かれるとは普通思わないだろ。後からジェイドに聞いたところによると、本当は歩くのに飽きたんじゃなく、慣れない陸の靴で靴擦れを起こして踵が酷いことになっていたらしい。
意地張って歩き回った挙げ句、本当にもう一歩も動きたくなくなっていたとかなんとか。つまり結果だけ見れば困っていたクラスメイトを助けたことになる。
納得いかねえな。俺としては、初対面でいきなり「運べ」なんぞとワガママぶっ込んできた野郎に対する、気軽な制裁くらいのつもりだったんだけど。
それなのに翌日からやたら絡まれるようになった。一時期なんて、俺の顔を見るたび水草ばっかり食ってそうな妙な海獣の名前で呼んできたので徹底的に無視した。
肩を掴まれようが後ろから頭を上から押さえつけられようが頬を引っ張られようが全部無視していたら、三日目くらいでとうとう痺れを切らしたらしく、真正面から顔を覗き込んできたので、俺はロブ・ファイスだ、二度と適当なあだ名つけるなよ……と低い声で威嚇。
するとフロイドは一瞬きょとんとして、それから妙に楽しそうに歯を見せて笑い、次から本当に「ロブ」と呼ぶようになった。なんでだろうな。わからん。
ともかく、陰謀、欺瞞、詐欺、邪智暴虐あたりを寮訓に掲げていても誰も疑わないオクタヴィネル寮で、アズールやジェイドとつるんでいるような男の癖に、なぜか俺にはそこそこ当たりが柔らかい。
これは正直かなり助かっている。フロイド・リーチという男、機嫌がいい時は人懐っこい大型犬みたいにじゃれついてくるくせに、気分が落ちれば本人にも理由がわからないまま周囲まで巻き込んで荒れるので、普通の生徒なら顔色を見て宥めるところだろうが、俺はそんな面倒なことをしたくない。
廊下を歩きながら露骨に舌打ちを繰り返していた時にも、「俺がお前の機嫌を取ってやる筋合いは無いので……」と言い残して普通に置いていった。すると十歩もしないうちに背後からばたばたと追いかけてきて、「もーー!! なんでえ!! そこはどうしたのって聞けよお!! 」と背中に寄りかかってきたので、こいつは機嫌が悪いというより構ってほしいだけなんだろうと思っている。
ちなみに後日、俺がやっていたのを見て「なんだ、フロイドって放っとけばいいのか」と勘違いした別の生徒が似たような対応をしたところ、ものすごい音がして廊下の壁まで吹っ飛び、肋骨を何本か持っていかれていた。
なんで俺の時と違うんだよ。怖えよ。
考えてみれば俺もこれまで二、三回くらい殺されていてもおかしくなかった気がする。やっぱり一年の最初に足から逆さまにして階段を引きずり上げておいてよかった。人間関係というものは最初が肝心である。
そんな感じなので、俺はフロイド・リーチにとって、気が向いた時にちょっかいを出すとそこそこ面白い、友人寄りの知人くらいなんだろうなあと思っている。
廊下ですれ違えば肩に腕を回されるし、授業中に後ろから髪を引っ張られるし、食堂では俺の皿から勝手に肉を取るが、フロイドなんてだいたいそんなもんだろう。たぶん。
俺以外に同じことをしているところをあまり見たことがない気もするが、細かいことを気にしてはいけない。これくらいの人間関係が一番気楽でいい。互いに機嫌を取る必要もないし、向こうが突然どこかへ行っても追いかけなくていい。
たまに廊下の角や柱の陰からススッと寄ってきたジェイド・リーチに、「ロブさん、今後ともフロイドをよろしくお願いしますね」などと妙に含みのある笑顔で頼まれることもあるが「荷が重いからイヤ」と普通に断っている。
それで次の日に俺が海底へ沈められているわけでも、モストロ・ラウンジの裏で契約書に判を押させられているわけでもないので、たぶんこれでいいんだろう。
フロイドもやばいけど、ジェイドも方向性が違うだけで相当やばい。こっちが断るほどむしろ楽しそうに笑う。あいつ、他人が思い通りにならない時ほど『盛り上がってまいりました』みたいな顔をするから怖い。
それで、今日の午前だ。二限と三限の間だったか、教科書を抱えて廊下を歩いていた俺の背後から、聞き慣れた足音がものすごい勢いで近づいてきた。
振り返るより早く肩へ腕を回され、ほとんど体当たりみたいな勢いでフロイドがくっついてくる。今日は機嫌がいいらしい。いや、それにしては妙にそわそわしてんな。俺の顔を見て、逸らして、また見て、制服のポケットをがさがさ弄っている。なんだ。拾った虫でも見せる気か。
「ねーねー、陸ってこういうのやるんでしょ。ロブにあげる」
そう言って胸元へ押し付けてきたのは、虫ではなく白い封筒だった。
「いらん」
「なんで!! いいから受け取れよ!! ワガママばっかり言うのやめろ!! 」
「遺憾の意だわ。今この瞬間だけはお前に言われたくない。なにこれ、こわ……」
「怖くねえから! 普通のやつだから! あげたからな!! 」
「いや待て、説明を」
「じゃあね! 昼は絶対ラウンジ来いよ!!! 絶対だからな!! 」
押し付けるだけ押し付け、質問する隙も与えずフロイドは廊下の向こうへ走り去っていった。足がなげえから速い速い。なんだあれ。秒速何キロ? 角を曲がる寸前に一度だけこっちを振り返った気がしたが、すぐ見えなくなった。
残された俺の手には、やけに丁寧な白い封筒。赤いハート型のシールが貼られ、洒落たレタリングで俺の名前まで書いてある。
はぁ……? 怪しい。
そもそもフロイド・リーチが俺に理由もなく物をくれる時点で警戒するだろ。あいつが「これあげる」と寄越してくるものなんて、拾った貝殻か食いかけの菓子か、下手すりゃ今しがた誰かから取り上げてきた何かだ。それが今日は封筒。しかもハート。怪しさしかない。
念のため人目の少ないところまで移動して、開封する前に簡単な魔法解析を掛けてみる。すると、薄い。かなり薄いが、確かに魔力反応が返ってきた。
俺は封筒を持ったまま固まった。……てめえこの野郎、やりやがったな。
俺は自分で言うのもなんだが、授業はそこそこ真面目に受ける方だ。
一年の時、古代呪文語の授業で「書かれた内容を認識した時点で発動条件を満たす」類の術式を習ったのを覚えている。封を開けただけでは何も起こらず、文字を読んだ瞬間に術者の魔力が作用するやつ。悪用すれば暗殺にも使えるから実用厳禁だと教師が念を押していた。
これだろ。ぜって~~~これ。それ以外ある? 白い封筒、赤いハート、妙な魔力反応、渡してきたのがフロイド・リーチ。役満だろ。は? 読んだら死ぬ系のやつじゃん。
てめ~~~!! 何が「陸ってこういうのやるんでしょ」だよ。陸の文化に殺人予告混ぜんな。
という訳で開封することなく鞄へ突っ込み、そのまま放課後まで持っていた。ちょうど実家から大量の芋が届いていたので、夕方になって中庭の隅で小さく火を起こし、焚き付けになる紙を探したところで例の封筒が目に入った。魔力反応のある怪文書をいつまでも持っていたくないし、普通に捨てて誰かが拾って読んでも困る。なら焼却が一番安全だろう。
紙はよく燃えた。封筒の端へ火を近づけた途端、赤いハートのシールがくるりと縮み、白い紙が茶色く焦げ、あっという間に炎へ飲まれていった。よし。危険物処理完了。
あとは芋が焼けるのを待つだけだ。
そう思っていたら、しばらくして遠くからものすごい足音が聞こえてきた。
「ロブーーー!! なんでラウンジ来ねえんだよ!! 」
声だけで誰かわかる。見るからに不機嫌なフロイドがこっちへ歩いてきた。昼に来いと言われたことは覚えていたが、危険物を渡してきた奴の指定した場所へわざわざ出向くほど俺も馬鹿じゃない。来なかったから探していたらしい。随分暇だな。
いつものように文句のひとつやふたつぶつけられるだろうと思っていたら、数歩手前でフロイドがぴたりと止まった。
その視線が俺ではなく焚き火へ落ちる。薪の上では白い紙の最後の切れ端が黒く丸まり、赤いシールだったものが灰になって崩れるところだった。
あ。これか。見られたか。まあいい、本人にもちゃんと処分したと伝わった方が──と思った瞬間、フロイドの顔からさっきまでの怒気が全部消えた。目を見開いて、口が少し開いて、それからみるみる眉が下がる。
「……ひどい」
ぽつりとそれだけ言ったかと思えば、俺の隣まで来てどすんと座り込み、長い脚を折り畳んで体育座りになった。でかい。邪魔だ。そして数秒後、泣き始めた。そして今に至る。
最初は鼻を啜るくらいだったのが、だんだん呼吸が震え、肩が上下し、しまいには両膝へ顔を埋めてわんわん泣いている。
ええ……何がどうした? さっきまで俺を締め上げそうな顔で歩いてきてたじゃん。情緒どうなってんの? 何を聞いても答えない。時々「ひどい」と呟いて、また泣く。
火種にした紙なんてとっくに灰になったのに、芋が焼けてもまだ泣いている。途中で一回止まったから終わったかと思えば、焚き火を見てまた泣き始めた。長えよ。そんなに泣くことある? 焼けた芋の甘い匂いだけが妙に平和に漂っている。
なに? やっぱ芋食う? わざわざ帰らず俺の真横で泣いているあたり、どう考えても慰め待ちなんだろうけど、俺は絶対慰めねえからな。そもそも説明もせず怪しい手紙押し付けて逃げたのお前だろ。
「や、焼かなくて、いいじゃん! 受けとんなきゃ、良かっ、た、じゃん! 」
「断る間もなかっただろ」
「断んなよ~~~!! わぁーーーん!! 」
「ええ……うるさ……」
「わ゛ーーーーーーーん゛!!!! 」
「やめろやめろ、わざと人魚の声帯使って音を拡散させるな」
膝へ顔を埋めたまま、フロイドは俺の制服の袖を片手で掴んでいる。耳が痛い。中庭じゅうに泣き声が響き渡り、通りかかった一年生がびくっと肩を跳ねさせて、そのまま無言で引き返していった。賢明だな。俺も帰りたい。
仕方なく横で芋の焼け具合を確認していたら、途切れ途切れの泣き声に混じって、俺頑張って書いたのに、ラブレター、書いたのに、好きって書いたのに、と恨み言が流れてきた。
ん?
今なんて言った?
フロイドはもう完全にぐっちゃぐちゃで、涙で頬は濡れているし鼻まで赤いし、いつもの余裕も威圧感もどこかへ消えている。そこから何度も繰り返される単語を拾い集めてみたところ、どうやら俺が呪いの手紙だと判断して芋と一緒に焼却したアレは、ラブレターだったらしい。
ラブレター。
へえ。
ラブレターね。
……なんで?
お前、俺のこと好きだったの?
いや待て。じゃあ今まで俺だけ締め上げられなかったのも、機嫌悪い時に置いていったら追いかけてきたのも、ジェイドが妙に「よろしくお願いします」とか言ってきたのも、そういう意味だったの? お前の俺に対する甘さって好意だったの?
はあ~~~?
知らんかったわ。言えよ。
いや、だから手紙に書いたのか。
じゃあ俺が燃やしたせいじゃねえか。
ちょっとだけ申し訳なくなってきたな。
一度限界まで声を張り上げて力尽きたのか、フロイドはやがて泣き声を小さくし、体育座りのまま膝へ顎を乗せてぐずぐずと鼻を啜るだけになった。時々こっちを恨めしそうに睨むが、目元が真っ赤なので迫力はない。
俺は焚き火の脇へ落ちていた灰を少し集め、指先で触れた。まだ熱い。紙だったものはとっくに形を失っているが、時間的にはぎりぎり間に合うだろう。
魔力を流す。
灰がふわりと浮いた。散っていた欠片が集まり、黒く縮れた繊維がほどけ、焦げた端から白い紙へ戻っていく。最後に赤いハートのシールが形を取り戻し、俺の手の中にはさっき燃やしたはずの封筒が収まった。
「ふーん。『ロブ・ファイス様へ、あなたの事が好きです』」
「……は? 」
鼻を啜っていたフロイドが固まった。目だけがゆっくり俺の手元へ向く。
「『卒業したら一緒に海に行きましょう。私のつがいになって、ずっと一緒にいてください』……重くね? 」
「は、え、なんで、だって燃やしてたじゃん」
「不思議だなあ」
俺が続きを読もうと紙を持ち直した瞬間、封筒の端が赤く光った。次の瞬間には白い紙へ火が走る。
「うわっちぃ! ギリセーフだったか……」
慌てて指を離すと、手紙は俺たちの間へ落ち、燃えながら丸まり、数秒でまた灰へ戻った。フロイドは口を半開きにしたまま、それを呆然と見つめている。
たいしたものじゃない。物を一時間前の状態へ戻す。それだけのユニーク魔法だ。
壊れた物を直すくらいなら便利で済むが、使い方を考えればいくらでもろくでもないことができる。だからオクタヴィネルの連中には黙っていた。
特にこいつとジェイドには絶対教えたくなかった。知られたらいつか「ちょっとお願いがありまして」と笑顔で完全犯罪の片棒を担がされる未来しか見えない。
今回戻せたのは、【今】から一時間前の状態までだからだ。手紙を燃やしたのがだいたい五十分前。あと少しフロイドが泣き続けていたら、戻したところで燃えている最中だったかもしれない。危ねえ。泣きすぎなんだよ。
「なんでこれに魔力込められてたんだよ」
俺が灰を指でつつきながら聞くと、フロイドはしばらく瞬きをして、それから気まずそうに視線を逸らした。
「だって、陸の本に、血をインク代わりに使ったら恋が叶うって書いてた……」
「は? 」
「ちょっとだけだし。指切って、混ぜただけ」
「お前、エレメンタリースクールで一度は流行るやべえおまじないの本読んだだろ。捨てろ」
「やべえの? 」
「やべえよ。血なんか魔力通しやすいに決まってんだろ。だから芋と一緒に焼かれたんだぞ」
人魚の血なんか使ったら、そりゃ魔力も篭もるわ。しかもフロイドは魔力量も多い。本人に呪う気がなくても、解析魔法が引っ掛かる程度には残っていたらしい。
俺の判断、間違ってないじゃん。
結局とんでもないものを渡されたことには変わりない。ラブレターという分類だっただけで、危険物には違いない。
「じゃ、血ぃ使わなかったら、燃やさねぇ? 」
「おう」
「ちゃんと読む? 」
「読む読む」
「俺があげるって言ったら、ありがとうって言ってくれる? 」
「言ってやる言ってやる」
フロイドはそこでようやく膝から顔を上げた。目元はまだ濡れているが、さっきまでの絶望しきった顔ではない。唇を尖らせ、じっと俺を見る。
「謝って」
「ラブレター燃やしてごめんなさい」
素直に謝ると、フロイドは数秒だけ黙った。それから突然立ち上がる。
「ぜって~~~許さねえ!! ばーーか!!! 」
「てっめ」
秒速何キロ? の勢いで走り出したフロイドは俺の事をバカバカ言いながら笑っていた。あいつが弱ってるとなんか落ち着かないんだよな……。
足元には二度燃えた手紙の灰が残っていた。しゃがみ込み、指先で軽く撫でる。さらさら崩れた灰は土へ混じり、すぐにどこにあったかわからなくなった。
よし。証拠隠滅。
俺は焚き火から残りの芋を取り出し、火傷しないよう紙で包んで立ち上がった。さっさと部屋へ帰ろう。今日はもう疲れた。
……とは思ったものの、数歩進んだところで足が止まった。
俺頑張って書いたのに。
ラブレター、書いたのに。
好きって書いたのに。
あんなに泣くほど頑張ったなら、まあ、返事くらいはしてやってもいいか。
口で言うのは面倒だし、向こうも手紙だったんだから同じ方法で返せば文句はないだろう。
部屋へ戻って机の引き出しから便箋を一枚取り出し、ペンを握る。
「ええと、『フロイド・リーチ様へ』……」
書き始めたものの、ラブレターなんぞ今まで書いたことがないので正解がわからない。さっきフロイドのを一瞬読んだが、「好きです」の次がいきなり「つがいになって海で一生暮らしましょう」だった。あれを参考にすると人生が急展開しすぎる。
仕方ないので思ったことをそのまま書く。
フロイド・リーチ様へ。
あなたの事が好きかどうかはまだわかりませんが、泣いているのを見ると申し訳なくなります。
そこまで書いて、少し考える。
いや、好きか嫌いかなら普通に好きなんだよな。嫌いな奴と何年も付き合わないし、勝手に皿から肉を取られたらもっと怒るし、泣いてても放って帰る。
じゃあ、まあ。
好きです。
つがいとかよくわかりませんが、あなたと海に住むのは楽しそうだと思いました。
これは本当だ。海の中で暮らせるのかは知らないが、フロイドが育った場所を見るのは面白そうだし、卒業したあともこいつが隣にいる未来を想像して嫌ではない。むしろ結構楽しそうだ。
ラブレター燃やしてごめんなさい。
これもラブレターということで燃やして手打ちにしてくれませんか。
そこまで書いてから手が止まった。
……いや、せっかく書いたのに本当に燃やされたら俺も腹立つな。
この手紙は大事にしてください。
矛盾している気もするが知らん。
最後に名前を書いて、少しだけ悩む。ラブレターならこういう締めでいいだろう。
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フロイド・リーチ様へ あなたの事が好きかどうかはまだわかりませんが、泣いているのを見ると申し訳なくなります 。好きです 、つがいとかよくわかりませんが、あなたと海に住むのは楽しそうだと思いました ラブレター燃やしてごめんなさい 。
ロブ・ファイスより 愛を込めて |

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