アビディアの森を抜けたところで、道端の野良猫に話しかけている男を見つけた。
しゃがみ込んで何をしているのかと思えば、猫の前足に付着した泥を眺めながら、ずいぶん熱心に話しかけている。猫の方も満更ではないらしく、尻尾を立てて男の周囲を歩き回っている。
「おや、ずいぶん綺麗な毛並みだねえ。どこかのお宅で飼われているのかな? それとも生粋の野良猫かい? ああ、そんなに近寄ってくれるなら撫でてもいいかな。嫌だったら遠慮なく逃げておくれよ」
聞いているこちらまで笑ってしまいそうな口説き文句だった。道を行く商人が何事かと振り返っているけれど、当人はまるで気にしていない。猫の方も相手をしてくれる人間を見つけて嬉しいのか、差し出された手に頬を擦りつけている。
あの調子なら、しばらくは動きそうにない。
ティナリは足を止め、荷物を持ち直した。
猫に夢中になっているのは、スメールシティで働く知人のラズミルだ。教令院に所属しているわけではないけれど、植物や動物に関する知識はなかなか豊富で、雨林の保護活動にも協力してくれている。ガンダルヴァー村にもよく顔を出すし、以前はコレイの勉強を見てくれたこともあった。多少のお節介が玉に瑕ではあるものの、仕事を頼む相手としては申し分ない。
ただ、どうにも気になるところがあった。
ラズミルは動物が好きだ。それはもう、誰の目にも明らかなほどに。
野生動物と出会えば危険のない範囲で近寄ろうとするし、飼い主のいる動物には必ず許可を取ってから触れる。動物について話し始めるとずいぶん饒舌になるし、相手が人間でも髪型を褒めるときに「いかした毛並みじゃないか」なんて冗談を言うくらいだ。
ところが、ティナリに対してだけは違った。
初対面のときから、耳やしっぽについて一度も何も言われたことがない。
もちろん、珍しがって触ろうとする人間を相手にするのは面倒だし、そういう意味では礼儀正しい相手なのだろう。けれど、これまでの付き合いを思い返してみても、ラズミルの視線が耳の辺りに向いた瞬間、決まって不自然な動きをすることが気に掛かっていた。
昨日など、書類の説明をしている最中に目が合った途端、慌てて窓の外を向かれてしまった。別に睨んだ覚えもないのに。
「……おや、ティナリさんじゃないか。こんにちは。今日はシティまで?」
こちらに気づいたらしく、猫を撫でていた手が止まった。名残惜しそうに離れていく猫を見送ってから、立ち上がって服についた土を払っている。
「こんにちは。薬草の買い付けと、教令院に提出する報告書の件でね。君もちょうど仕事帰りかな? その猫にずいぶん気に入られたみたいだけど」
「ええ、もう最高に可愛い子でしたよ。見てください、この手についた毛! つやつや! 腹いっぱい食べてる証拠! いやあ、いいものを触らせてもらった。今日は実にいい日です」
心底嬉しそうに笑っている。指先についた猫の毛を見せられても、こちらとしては感想に困るところだ。
猫の毛並みについて熱心に語る顔を眺めているうちに、ふと思いついて耳を動かしてみた。
案の定、視線がそちらへ向いた。
しかし、すぐに目を逸らされる。
今度は道の反対側にある店の看板を眺め始めたので、さすがに少し呆れてしまった。
「……僕の毛並みも、なかなかのものだと思うけど?」
「ひえっ!? はい! まるでビロードのような艶やかで魅力的な耳と尾です!!」
まさかそこまで褒められるとは思わなかった。おまけに、声までひっくり返っている。別に怒っているわけでもないのに、どうしてそんなに怯えるんだろう。これではこちらが無理やり褒めさせたみたいじゃないか。
「ラズミル。君、僕に何か言いたいことでもあるのかな? 遠慮する必要はないよ。普段はあんなにお喋りなんだから」
「えっ、いえ、何も! そんな、ティナリさんに言いたいことなんてありませんよ。ああ、そういえば今日は用事があるんでした。そろそろ失礼しますね!」
随分と早口だった。大して急いでいるようにも見えなかったのに、挨拶もそこそこに立ち去ってしまう。何か気に障ることを言っただろうか。少々口が悪い自覚はあるけれど、今の会話に限っては、そこまで攻撃的な発言をした覚えもない。はず。
足早に遠ざかっていく背中を見送り、首を傾げた。
動物が好きだからといって、自分の耳やしっぽまで気に入るとは限らないし、別にそこを褒めてほしいわけでもない。ただ、あそこまで露骨に目を逸らされると、さすがに気になる。猫にはあんなに愛想がいいのに、随分な違いじゃないか。僕は猫ではないけど。
まあ、人にはそれぞれ好みがある。今度会ったときも同じ調子なら、一度きちんと聞いてみよう。そう決めて、買い物の続きを済ませることにした。
その日の夕方、ランバド酒場に立ち寄ったのは、予定していた仕事が思いのほか早く片付いたからだった。
ガンダルヴァー村へ帰る前に夕食を済ませてしまおうと思っただけで、特に誰かと会う約束をしていたわけではない。酒場は相変わらず賑わっていて、仕事帰りの学者や商人たちがあちこちで話し込んでいる。注文を済ませて席を探していると、奥の方から聞き覚えのある声が耳に入った。
「……いや、俺は本当に動物が好きなんだよ。それはもう、子供の頃からさ。うちの親父なんか、俺が拾ってきた怪我した鳥を見て、とうとう家の中が動物園になるんじゃないかって嘆いてたくらいで」
ラズミルだった。どうやら仲間と飲んでいるらしく、テーブルには空になった酒瓶が何本か並び、椅子の背に上着を引っ掛けている。普段はきちんと整えている髪も乱れていて、顔を真っ赤にしながらグラスを傾けていた。
もう十分に酔っているように見えるけれど、まだ飲むつもりなのだろうか。
「でもさあ、それが問題なんだよ。俺は動物が好きで、動物を見れば可愛いと思うし、触らせてもらえたら嬉しい。だけど、好きな人に対して同じことを思っちゃいけないだろ? だってその人は人間なんだからさあ……」
誰に聞かせるでもなく、ぶつぶつと話している。
ティナリは近くの席に腰を下ろしかけて、思わず動きを止めた。
好きな人。
どうやら恋愛相談のようなものらしい。
それなら聞かない方がいいだろうと考えたものの、次に聞こえてきた言葉が、その場から立ち去る機会を奪ってしまった。
「耳としっぽがさあ……そりゃあ素敵なんだよ。見ればわかるだろ、あんなの。だけど、それを理由に好きになったなんて思われたらどうするんだ。そういうところも含めて素敵だと思ってるけど、それはそれとして、動物みたいに可愛いとか、毛並みがいいとか、そんなこと言ったら失礼じゃないか! ……でも、俺が言ったらぜったい意味が変わっちゃうんだよなあ~~……日頃の行いがさぁ……偏ってるから……」
なるほど。思い当たる人物が、ひとりだけいる。
少し考えてから店員に水を注文し、持ち歩いている薬草の中から適当なものを選んで、手早く調合してグラスに加えた。飲みやすさについては、まあ、今は考えなくてもいいだろう。
店員の目の前でいきなり薬の調合を始めるという、なかなか怪しいことをしているのに、特に何も言われなかった。日頃から信用を稼いでおいてよかった。別に怪しい薬を盛っているわけじゃないんだけど。単なる酔い覚ましなんだけどね。
出来上がったものを持って隣に腰を下ろすと、ラズミルがぼんやりと顔を向けてきた。いつの間に外したのか、眼鏡がテーブルの端に置かれている。
「ずいぶん飲んだみたいだね。よかったら、これを飲んでおきなよ。明日の朝、頭痛で動けなくなっても知らないよ」
「……おやあ、親切な人だ。ありがとうございます。でも、俺、もう酒は飲めませんよ。さすがにちょっと飲みすぎちゃったんで」
「お酒じゃないよ。酔い覚ましの薬草水さ。お金はいらないから、遠慮せず飲んでごらん」
「ええっ、奢りですか? いやあ、世の中には優しい人がいるもんだなあ。ありがとうございます、いただきますね」
疑うこともなくグラスを受け取り、ひと口飲んで盛大にむせた。
予想通りの反応だったので、つい笑ってしまった。
「うええ……苦い。なんだこれ、ものすごく苦い……。あっ、いや、せっかくいただいたのに失礼しました。ありがとうございます。身体には良さそうですね……」
「苦いのは仕方ないよ。薬効に関係する成分を全部取り除いたら、ただの水になってしまうからね。ほら、一気に飲まなくてもいいから」
涙目になりながら、ちびちびと薬草水を飲んでいる。苦いなら一気に飲んでしまえばいいのに、律儀に味わっては顔をしかめていた。
よほど目が悪いのか、これだけ近くに座っていても正体に気づく様子はない。酒で判断力まで鈍っているのだろうが、声くらいは聞き覚えがありそうなものなのに。これで普段の仕事に支障はないのだから、不思議な話だ。
頬杖をついてその様子を眺めているうちに、ちょっとした悪戯心が湧いてきた。
せっかく本人が目の前にいるのだから、もう少し詳しく聞いてみてもいいだろう。
「ところで、さっきから随分と悩んでいるみたいだけど、好きな人でもいるのかな? 話を聞くくらいならできるよ」
「いやあ、それがねえ……すごく素敵な人がいるんですよ。俺なんかが好きになっていいのかってくらい、素晴らしい人でね。責任感が強くて、誰にでも優しいんだけど、駄目なことはちゃんと駄目って言ってくれるんです。相手が誰だろうと、必要なことは遠慮なく言える。俺はそういうところが好きでねえ……」
軽く促しただけで、グラスを両手で抱え、うっとりと語り始めた。
誰にでも優しい、という部分には多少の異論があるけれど、責任感が強いと評価されるのは悪い気分ではない。いや、まだ自分のことだと決まったわけじゃない。耳としっぽがあって、責任感が強くて、言いにくいことも遠慮なく口にする人物なんて、彼の生活範囲の中を探せばほかにもいるかもしれないし。
それはともかく、ラズミルがその人物にすっかり夢中なのは確からしい。
「へえ、なかなか立派な人なんだね。仕事でもそういうところが頼りにされているのかな? 君がそんなに褒めるなんて、僕も会ってみたくなったよ」
「そりゃあもう、立派なんてもんじゃないですよ! うちの親父が腹を壊したときなんか、食べたキノコの特徴を聞いただけですぐ原因を突き止めてくれてね。適切な薬草も用意してくれたし、おまけに家族全員に毒キノコの見分け方まで教えてくれたんです。親父なんか今でも先生って呼んでますよ。いやあ、あのときは本当に助かった」
ああ、あの件か。どうやら本当に自分のことを話しているらしい。
ラズミルの同行者たちも察したようで、額に手を当てる者もいれば、苦笑いを浮かべている者もいる。余計なことを言われては困るので、人差し指を唇に当てて合図を送ると、全員が心得たように口を閉じた。ありがたいことに、当の本人だけは何も気づいていない。
確か、以前に雨林の外れで採ったキノコを食べ、腹痛を起こした男性がガンダルヴァー村へ運ばれてきたことがあった。重症ではなかったものの、また同じ間違いを繰り返されても困るので、似た毒キノコの見分け方まで教えて帰した覚えがある。あれがラズミルの父親だったのか。
付き添っていたラズミルからも礼を言われたけれど、まさか今になって、こんなところで当時の話を聞くことになるとは思わなかった。
「うんうんなるほど。ほかにも好きなところがあるのかい?」
「ありますとも! いや、これは本当にたくさんあるんですけどね。普段は柔らかい顔をしてるのに、弓を持つと雰囲気ががらっと変わるんですよ。狙いを定めたときの目なんか、もう、すごく格好よくて……。俺、弓はあんまり得意じゃないんで、余計に憧れちゃうんですよねえ」
思いがけないところを褒められて、少しばかり驚いた。
弓の扱いについて評価されることは珍しくないけれど、そんなところまで見られていたとは知らなかった。以前、巡回中に魔物と遭遇したときのことだろうか。ラズミルはその場に居合わせていたし、戦闘が終わった後もずいぶん熱心に弓を眺めていた。てっきり武器の構造に興味があるのだと思っていたけれど。
「ふふ、ずいぶん夢中みたいだね。ちなみに、いつからその人のことが好きなんだい? 長い付き合いなら、きっかけなんて覚えていないかもしれないけど」
「覚えてますよ、そりゃあ! 一目惚れだったんですから。初めて会ったとき、すっごく綺麗な人がいるなあと思って……。その人がこっちを見て、にこって笑ってくれたんですよ。あんなことされたら誰だって好きになるでしょう? まあ、向こうは初対面の挨拶をしてくれただけなんですけどね。俺にとっちゃ大事件でしたよ」
一目惚れ。
まさか、そんなことを言われるとは思わなかった。初めて顔を合わせた日のことなら覚えている。ガンダルヴァー村に届け物を持ってきたラズミルが、村の入り口で道を尋ねてきたのだ。挨拶を交わし、目的の建物まで案内しただけで、特別なことをした覚えはない。あの日は仕事が立て込んでいたし、ゆっくり話す暇もなかったはずだ。
そういえば、別れ際に何か言いたそうにしていた気がする。こちらが続きを待っていると、結局何も言わず、妙にぎこちない挨拶をして帰ってしまったのだった。
あれが一目惚れした直後の態度だったのかと思うと、なんだか可笑しくなってきた。もう少し愛想よくしてあげればよかったかな。
「……なるほどね。でも、君の話を聞いていると、その人には動物と同じ耳やしっぽがあるんでしょう? もしそういう特徴がなかったら、好きにならなかったかもしれないね」
少々意地の悪い質問だとは思う。けれど、ここまで聞いてしまったからには、どう答えるのか確かめたくもなるじゃないか。
それまで酒の勢いに任せて楽しそうに喋っていたラズミルが、ぴたりと口を閉じた。グラスを握る指に力がこもり、こちらを見る目つきまで変わっている。おや、これは怒らせてしまったかな。
「んなわけあるか! あんた、何を聞いてたんだよ。ティナリさんは中身が一番素敵なんだぞ! 耳としっぽがなくたって、俺は絶対にあの人のこと好きになってたよ!」
酔っ払った勢いとはいえ、ずいぶんな剣幕だった。
近くの席にいた客が驚いて振り返ったので、軽く手を上げて問題ないことを示しておく。
「あはは、ごめん、ごめんね。君がそこまで言うなら、きっとそうなんだろうね。僕もちょっと失礼なことを聞いたかな」
「そうですよお……。ああ、でも、俺が言うのも変な話ですよね。耳も尻尾も素敵だと思ってるのは本当なんです。だけど、そういうのが好きだからって、本人にも同じようなことを言っていいのかどうか……。だって、俺が勝手に可愛いと思ってるだけで、向こうはそんなふうに見られたくないかもしれないし」
そこで言葉を切り、残っていた薬草水を飲み干した。最後の一口まで苦かったらしく、空になったグラスを置くなり、ひどい顔をしている。随分と律儀な酔っ払いだ。せっかく貰ったものだからと、無理をして全部飲んだのだろう。そんなところまで真面目なのに、肝心の酒の量はどうして加減できないのかな。
テーブルの端に置かれていた眼鏡を拾い上げると、片方のレンズに指紋がついていた。おまけに細い縁にも何やら汚れが付着している。これでは掛けたところでろくに見えないだろう。手持ちの布で軽く拭ってから、持ち主へ差し出した。
「まあ、そういうことなら本人に聞いてみればいいんじゃないかな。自分の耳やしっぽをどう思われたいかなんて、本人にしか分からないことだしね。ほら、眼鏡を返すよ。ずいぶん酔いも醒めてきたみたいだし、そろそろ帰った方がいいと思うよ」
「いやあ、そう簡単に聞けたら苦労はしないんですけどねえ……。あ、ありがとうございます。すみません、眼鏡まで拭いていただいて。何から何まで本当に親切な方で……」
眼鏡を受け取り、鼻梁に掛ける。
そこで、ようやく目が合った。
「…………」
ラズミルの口がゆっくりと開いた。何か言いたそうにしているものの、声は出てこない。こちらも急かさずに待っていると、おもむろに眼鏡を外し、掛け直し、また外した。今度はレンズを念入りに拭ってから、恐る恐るこちらを見ている。
何をしているんだろう。
気持ちは分からなくもないけれど、さっき拭いてあげたばかりじゃないか。それに、いくら眼鏡を掛け直したところで、目の前の人間が別人に変わるわけでもない。いっそこちらから名乗ってあげた方が親切だろうか。
「……あの、ティナリ、さん……?」
「ようやく気づいたのかい? さっきからずっと話していたのに、まるで分かっていないようだったからね。眼鏡を外すとそこまで見えなくなるなら、酒場でもちゃんと掛けておいた方がいいよ」
答えてやると、今度こそ完全に固まってしまった。ちょっと面白い。
目の前で手を振ってみても反応がない。顔色だけは刻々と変わっていくので見ていて飽きないけれど、そろそろやめておいた方がよさそうだ。先ほどから呼吸までおかしくなっている。ストレスによるものか、それとも興奮しているのか。まあ、両方かもしれない。これ以上からかって、本当に倒れられても困る。
ひとまず今日はこの辺にしておこう。椅子から立ち上がり、椅子に掛けていた荷物を手に取った。
「とりあえず、今日はもう帰って寝なよ。酔っ払った君を相手にしても仕方ないし、僕もそろそろ村に戻らなくちゃいけないからね」
「あ……は、はい。そうですよね。遅くまで引き止めてしまって……。あの、本当に、今日はありがとうございました」
「どういたしまして。ああ、それから、明日はガンダルヴァー村にいるから、時間があるなら顔を出してくれるかな。僕も君に聞きたいことができたんだ」
ラズミルの顔が引きつった。
「……明日、ですか? その、どういったご用件で……?」
「分からない? さっきまでずいぶん熱心に話していたじゃないか。僕としては、ああいう大事な話は本人から直接聞きたいんだけどね」
わざと首を傾げてみせる。
随分と困った顔をしているけれど、嫌だとは言わないようだ。
「明日、言いにおいで。待っているから」
返事を待たずに席を離れた。背後で椅子が軋み、何か言いかける声も聞こえたけれど、振り返らずに階段を下りる。今夜はこれくらいにしておこう。あの様子では、これ以上からかったところでまともな返事も期待できそうにない。
酒場を出ると、スメールシティはすっかり夜の装いになっていた。街灯に照らされた石畳を歩きながら、明日の予定を頭の中で組み直す。午前中に巡回と薬草の整理を済ませれば、午後には少し時間が取れるだろう。
せっかく村まで来てもらうのだから、お茶くらいは用意してあげたい。今日の薬草水は散々な評判だったし、今度はもう少し飲みやすいものにしてあげようかな。
そんなことを考えながら歩いていると、すれ違った女性がこちらを見て笑った。何だろうと思ったけれど、すぐに理由がわかった。どうやら先ほどから、しっぽが随分と機嫌よく揺れているらしい。
まあ、別に構わないだろう。
あんなに熱心に口説いてくれたのだから、明日はぜひとも素面でもう一度聞かせてほしい。さて、あの青年はどんな顔をしてやって来るのかな。
ほんの少し浮ついた心を落ち着かせながら、ガンダルヴァー村への帰路についた。今日はきっと、良い夢が見られそうだ。

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