暴力沙汰で停学を受けたし、他称番長なんていう妙なものになっているので進学は絶望的だろうなと思っていたがそんなことはなかった。
俺は俺の知らないところで教師からの評価がすこぶる良かったらしい。
デュースのような孤立して暴れるタイプの不良をまとめて、ある程度学校に戻して世話を焼く。「今回の番長は面倒見がいいなあ」とあたたかく見守られていたらしい。見守るな。それは教師の仕事だ。
……まあ、そんな前提があったので俺の停学も「問題児の暴走」じゃなく「やむを得ない一件」として扱われ、やたら手厚くフォローされていたらしい。暴力沙汰は暴力沙汰だが、俺をフォローしてくれる同級生の嘆願も複数出ていたらしい。登校を再開した時に「大変だったな」と声をかけてくれるクラスメイトに囲まれて、胸が熱くなった。
正直、クラスメイトとこういう関係になれたのは後輩のおかげだと思う。与えるばかりではない、俺だってあいつに助けられている。
そのあとにあった人命救助だのなんだの、ぜんぶまとめて評価ポイントに乗っかった結果、内申点はマイナスどころかむしろ大きくプラスになっていたという。
一応、無遅刻無欠席で、成績も自分で言うほど悪くはない。
そのへんも含めて、進路指導で「どこにでも推薦状出せるよ」と穏やかに告げられた。
こんなに軽くていいのだろうか。いいんだろうな。特に何も頼んでなかったのに、俺の右手にはナイトレイブンカレッジへの入学届けがある。
ある日突然、真っ黒な馬車が校門前に止まり、そのまま校長室に届けを置いていったらしい。
へえ……名門校なのに、受験とかないんだ。
向こうが「欲しい」と判断した生徒を一方的に指名していくシステムなのか……。
そして俺の左手にはロイヤルソードアカデミーの入学届けもある。
こっちは真っ白な馬車が、ある日突然校門前に止まって、同じように校長室へ届けを置いていったらしい。
なるほど、黒と白でお揃いか。演出に凝りすぎだろ。
こっちも、向こうから選ぶスタイルなんだな……。
一応、「どっちを選ぶか」もしくは「どっちも断って別の道に行くか」の選択権は、俺にあるという。
我が校始まって以来の快挙だと妙に盛り上がっていたが、正直なんでそこまで持ち上げられているのかはよく分からない。
後輩周りの問題も解決して、俺の卒業も近い。両親からは「好きな道を選べ。お前一人育てる分の蓄えはある」と言われた。
進学したらある程度自分で稼いで親の金に頼らないで生きたいし、それを考えると生徒のほとんどが金持ちのロイヤルソードアカデミーは生活がしにくいだろう。
あとシンプルに制服が似合わない。本当に、ビックリするくらい白が似合わない。俺が何を着ても褒めてくれるデュースも、さすがに苦笑いするだろう。そのレベルであの制服は似合わない。
村にナイトレイブンカレッジの卒業生がいるという心強い実績もあって、進学先はそっちに決めた。
どの寮になるかは分からないが、オクタヴィネル寮は海の中にあるらしいし、うまくいけば漁も続けられそうだ。
使用宣言した『なんでもいうこと聞く券』は、『諸事情につきあと1回使えます』と言われたので遠慮なく使う。
陸に来て、ミドルスクールに通って、いちばん親身になってくれた大人はデュースの母親だった気がする。
─────俺は進学を選んだ。ナイトレイブンカレッジに行こうと思う。
でも、それをデュースには言わないで欲しい。
あいつは俺の後を一生懸命追ってきて、俺もそれが可愛くて何も言わないままでいたけど。
ミドルスクールを卒業したらあとの選択は人生に直結する。その選択を俺という異物で曇らせて欲しくない。
自惚れじゃないと思うんだ。たぶん、俺がどこに行くって分かったら「俺も」って付いてこようとするから。せっかく夢が出来たんだから、ちゃんと自分で考えて選択して欲しい。
そういうことを『なんでもいうこと聞く券』と一緒に伝えると、一言『パピーウォーカー?』と返された。
なぜ俺が、人間への信頼を持ってもらうために子犬を大事に育てて、最終的には手放すボランティアの人ポジションなんだ……と思ったが、
冷静に考えたら、結構的確だった。
俺はあの柴犬みたいな後輩を大事に育てて、ちゃんと手放そうとしているのだから。
教師にも口止めをした。大々的に進路実績としてアピールしたかったらしく、信じられないほどごねられたが、最終的には折れてもらった。
卒業して2年後なら言っていい、なんなら卒業者の写真とか載せていいから……協力出来ることは協力するから……と俺が大幅に妥協した形だ。2年後までに在籍してる教員全員違うところへ移動していてほしい。
デュースにも「言わない」ということを説明した。誰にも言わないと嘘をついた。お前の母親だけは知ってるんだが、内緒だ。
本当に何も言わないで姿を眩ませたら、それはこいつに対する裏切りになる。
「お前が進学したら、また会おう。変わるんだろ? 俺を驚かせてくれよ」
「うう”~~、ナマエ先輩、留年して……」
「呪うな」
「ずっといっしょにいてえよぅ……」
「泣くな」
べそべそ泣く頭をがしがしと撫でて、ナマエ先輩ナマエ先輩と俺の名を繰り返すだけの声にうんうんと頷く。
小さな声で「俺、ナマエ先輩がびびるくらいの優等生になります」と言うので、「お前なら出来る」とだけ返した。
そして卒業式当日。
俺は制服のボタンを上から下まで見事に毟り取られ、ついでにズボンのボタンまで奪われた。
せいぜい第二ボタンくらいだろうと思っていたら、ワイシャツのボタンまで総ざらいでいかれた。誰がそんな文化教えた。
教室の外では、野郎共によるボタン争奪戦が繰り広げられている。
その喧噪の中で、デュースの
「俺はぜってえ、ナマエ先輩に恥じねえ男になる!!」
という雄叫びを背中に浴びながら、俺はずり落ちそうになるズボンを必死に片手で押さえ、ほぼ半裸状態でマジカルホイールに跨がり、村まで帰ることになった。
……ほんと、しんみりさせてくれないんだよなあ、あいつ。
