対象ヴィランネーム: フォージャー
判明氏名: 分倍河原 陽火
関連組織: ノーカウント / ヴィラン連合
作成部署: 対ヴィラン広域連携調査班
本書は、対ヴィラン一斉作戦中に死亡した“フォージャー”について、遺体鑑定、居住拠点の捜索、押収端末の解析および関係者聴取によって判明した事項を、機密書類 k-2488at に追記するものである。
対象は、ヴィラン“トゥワイス”こと分倍河原仁と同一戦域で交戦中、ホークスの個性【剛翼】による攻撃を受けた。遺体には羽刃によると見られる多数の切創があり、左下肢は離断。腹部の損傷が致命傷となった。現場映像では、対象は負傷後も分倍河原仁の遺体に向かって移動している。左足を失った状態で地面を這い、分倍河原仁の顔に手を伸ばしてまぶたを閉じたのち、その身体に寄りかかるように崩れた。死亡直前、ホークスに対して「よってたかって、ひでえな。こっちはふたりきりなのに」と発言している。音声は複数の装備記録に残っており、聞き違いの可能性は低い。
分倍河原仁と対象は、互いへの依存が極めて強かった。事前の現場評価でも、片方のみを先に拘束または撃破した場合、残された側が即座に報復へ移り、被害が拡大する危険が指摘されていた。対象の拘束は分倍河原仁の個性の大量行使を招き、分倍河原仁への攻撃は、対象による武器、弾薬、医療物資の投入およびノーカウントへの動員を招くと見られていたため、両者は同一戦域で、できる限り時間を置かず無力化する必要があった。実際には分倍河原仁の死亡がわずかに先行し、対象はその直後、後方支援位置を離れて生身で前線へ入っている。対象の個性は直接戦闘に適したものではない。現場からは対象が使用した拳銃が回収されており、分倍河原仁の救出を目的とした行動だった可能性が高い。
遺体の推定年齢は十四歳から十六歳。骨、歯牙、身体発育の状態から判断したもので、十七歳以上とする所見は出ていない。生前の犯罪規模や交渉記録から、調査班は対象を成人と見積もっていたが、この評価は誤りだった。戸籍、出生届、就学記録、予防接種記録、保険診療記録は、死亡後の再照会でも発見されていない。対象の氏名は、分倍河原仁が使用していた居住拠点から発見された幼児の似顔絵によって判明した。画用紙の表には、黒い衣服を着た成人男性と思われる人物と、子供の字で「パパだいすき」と書かれている。人物の服装、髪型および顔の描き方は分倍河原仁の特徴と一致する。裏面には、分倍河原仁の筆跡で「陽火」と記載されていた。既存資料との筆跡照合でも、分倍河原仁本人が書いたものと判断されている。
遺伝子検査の結果、分倍河原仁と分倍河原陽火の間には生物学上の親子関係が認められた。これにより、従来資料に記載されていた弟子関係、疑似親子関係、個性の類似による結びつきとの推定は訂正する。分倍河原仁は対象の実父である。母親に該当する人物は特定できていない。分倍河原仁が未成年であった時期の生活記録と、対象の推定年齢には大きな矛盾がなく、対象が乳児期から分倍河原仁に養育されていた可能性が高い。
同拠点からは、対象が幼少期に使用した衣類、靴、食器、玩具、工作品、描画物が多数発見された。いずれも廃棄物として一か所に積まれていたものではなく、箱やファイルに分類され、年齢または大きさの順に整理されていた。保存状態は良好で、最近まで出し入れされていた形跡がある。紙類の一部は補修され、衣類は洗濯後に畳まれ、防虫剤とともに保管されていた。工作品の欠けた箇所を接着し直した跡もある。捜索に入った複数の職員が、個別の所見欄に「愛された子供の部屋に見えた」と同じ趣旨の記載を残している。
壁面の写真立てには、小売店のレシートと、その裏に貼られたプリクラが収められていた。プリクラには複数の若年女性と、中央で抱かれている乳児が写っている。レシートには「あなたの子です」と手書きされていた。女性らの身元は捜査中であり、乳児が対象本人であるとの確定には至っていない。ただし、分倍河原仁がこれを対象に関する品として保管していたことは明らかである。写真立てには汚れや破損がほとんどなく、壁面から外して清掃していたと見られる擦過痕が残っていた。
対象の個室は整頓されていた。最新型のゲーム機、複数の携帯端末、高性能のパソコン、プリンター、写真用紙があり、ゲームおよび情報収集に日常的に使用していたと見られる。壁や棚には、分倍河原仁、ノーカウント構成員、ヴィラン連合構成員と対象が写った写真が多数飾られていた。貼りきれない写真は複数のアルバムに収納されており、壁面の日焼け跡、画鋲穴、アルバム内の空き位置から、定期的に写真を入れ替えていたことが分かる。犯罪計画や取引現場を記録したものだけではなく、食事、ゲーム、移動中の車内、誕生日と思われる集まり、寝ている者を勝手に撮影したものなど、私的な写真が多い。
対象が単独で写っている写真も相当数残されている。幼少期のものには、裏面に分倍河原仁の筆跡で日付と短い文章が書かれていた。五歳前後と見られる対象が床に座り、撮影者を見上げて笑いながら片手を伸ばしている写真には、「パパのたからもの」とだけ記載されている。年齢が上がるにつれ、写真裏面の記録は対象本人の筆跡に変わっている。対象もまた、ノーカウントやヴィラン連合構成員の写真に日付、場所、その日の出来事を一言ずつ書き残していた。対象が写真を撮影し、印刷して手元に残すことを好んだ背景には、幼少期から分倍河原仁が同じ方法で成長記録を残していたことが影響した可能性がある。
端末解析では、対象が死柄木弔およびスピナーと、両名がヴィラン連合で行動を始める以前から、国外運営のオンラインゲームを通じて接触していたことが確認された。これまで把握できなかったのは、国内事業者への照会では記録が出ず、アカウント名も対象の既知の通称と一致していなかったためである。現在は端末内の保存データとゲーム側のアカウント記録を照合している。
死柄木弔とのメッセージは、ゲームの攻略、対戦結果、更新内容、日常的な不満に関するものが多い。死柄木側からは、他者への攻撃的発言、責任を相手側へ求める発言、自身の要求が通らなかったことへの長文の不満が繰り返し送られている。対象はこれに対し、正面から否定せず、一部に同調しながら話題を変える、次のゲームへ誘う、相手の優位を認めるなどして、機嫌を損ねないよう応答している。ヴィラン活動に関する隠語が含まれていた可能性は残るが、現段階では、内容の大半がゲームと他愛のない会話である。
スピナーとのやり取りは、対戦の約束、使用キャラクター、食事、睡眠時間など、通常のゲーム仲間同士の会話が中心である。一度だけ、スピナー側からフレンド関係を解消する旨の連絡が送られている。その直後、対象から音声通話が発信され、以降は従来と変わらない頻度でやり取りが続いていた。フレンド解除の連絡が送られた日は、ヴィラン“ステイン”が拘留された日と一致する。スピナーがステイン信奉者であったことを踏まえると、同日、ヴィラン連合へ加わる決意を固め、対象を巻き込まないため一度関係を切ろうとした可能性がある。ただし、通話内容は端末に残っておらず、これは日付とその後の行動からの推測にすぎない。
対象死亡時刻の直後、複数のノーカウント構成員の端末へ一斉に通知が送られている。送信経路は複数の中継先を経由しており、現時点で発信元の機器は特定できていない。時刻の一致と対象側端末に残された設定情報から、対象の死亡または一定時間の応答停止を条件として作動した自動送信と見られる。通知を受け取った構成員のうち、作戦各所で交戦中だった年長者複数名が突然行動を停止した。対応中のヒーローが警戒して接近し、拘束へ移ろうとした一瞬に、自ら口腔内へ銃口を向けて発砲する事例が相次いだ。事前に相談していた形跡は確認できていないが、方法と時機がほぼ一致している。
死亡者の中には、過去の聴取記録にある少年も含まれる。拘束時の記録と指紋が一致した。同少年は個性【人魚】を有し、水への長時間接触によって下半身が尾びれ状へ変化する。自発的な制御はできなかったと見られる。生前の所持品には複数の靴、雨具、タオル、湯沸かし器が含まれており、いずれも対象から与えられたとする構成員証言がある。少年が聴取中に語った「俺のための靴」「雨宿りできる寝床」「身体を洗うためのお湯」という内容は、所持品と生活拠点の状況により裏付けられた。
一連の自死を至近距離で目撃したヒーロー、警察職員、救護担当者の中には、睡眠障害、反復想起、食欲低下、任務復帰への抵抗を訴える者が出ている。銃器を取り上げる時間がなかったこと、拘束直前まで会話していた構成員が目の前で死亡したこと、自分の接近が引き金になったと受け止めている者がいることから、通常の事後面談だけでは不十分と判断する。関係者には継続的なカウンセリングを実施する。
年少のノーカウント構成員の一部は保護された。多くが本名、年齢、親族関係について黙秘しており、食事や衣類を受け取る際にも「あとで返せと言うのか」などと確認する。福祉職員、警察官、ヒーローへの不信は強い。対象の死亡を伝えると激しく抵抗する者、虚偽だと主張する者、会話を断つ者、強いストレス反応を起こす者がおり、ノーカウントや対象との関係を一律に洗脳、搾取、支配と説明した際には状態が悪化した。施設間の移送や構成員同士の分離も、“奪われる”と受け取られる可能性がある。本人の安全確保を優先しつつ、接触者を短期間で交代させない、説明なく所持品を処分しない、食事の提供を交渉材料にしないなど、通常より慎重な対応を要する。
死亡後の調査により、対象が未成年であり、分倍河原仁の実子として幼少期から養育されていたことが判明した。一方、対象がノーカウントへの武器供給、偽造流通、ヴィラン連合の補給に関与していた事実に変更はない。現在必要なのは、対象への評価を一文で修正することではなく、死亡によって途切れた供給網、残存する複製品、送信済みの指示、保護児童の所在、未確認の代理役を個別に洗い直すことである。特に、対象の死をきっかけとする構成員の自死が今後も起こる可能性は否定できない。ノーカウント関連の端末を確保した場合は、通常の証拠保全と並行して、予約送信、自動通知、死亡確認を示す文面の有無を直ちに確認すること。
以上。

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