道端で拾ったシーツおばけくんを先日拾った毛むくじゃら(名前は『アレ』というらしい。絶対偽名)と慰めながら「心肺停止、かなしいですが、心肺停止」「ママを下ろそうね……。泣かないでね……」と背中に背負ってる成人女性の死体を下ろさせようと奮闘していたところ、先日俺が怪しい毛むくじゃらを拾ってきた事に危機感を覚えて帰りがちょっぴり早くなっていた燈矢くんがドアを開けた瞬間にビクッとしながら俺たちをみた。
全くもって正しい反応です。拠点に帰ってきたら不吉な泣き声をあげる死体担ぎシーツおばけがいるんだもんな、びっくりだと思う。
「陽火くん、友達は選んだ方がいい」
「自分では結構厳選してるつもり」
いや、絶対こいつも原作キャラだろ! 普通に生きてて泣き叫び死体担ぎシーツおばけが野良でいると思うか? 意味しかないだろこの出会いは。
シーツおばけくんは風の音のような泣き声の合間に人の声で「ママにひどいこといっちゃった」「俺のせいだ」「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返している。死体には首に縄が着いたままなので、自殺かなあ……。少なくともこいつが殺したものでは無い。
アレのたどたどしいけど誠実な説得が、彼の心に何かを届けたのか。ついにシーツおばけくんは、そろり、と死体を背中から降ろした。
よりによって、敷きっぱなしにしていた燈矢くんの布団の上に。
どすん、と音を立てて転がった死体は、あらゆる物がだらしなく飛び出していて、現実の重さがそこにある。何も知らない実兄は、火傷の影響であまり表情が変わらないはずなのに、明らかに「うわ……」という顔をしていた。まるで雨に打たれる猫のようにギュム……とした顔。ある意味すごい。表情筋が動かないなら動かないなりに全力で拒絶の意志を示してる。
わあわあと泣きじゃくる声だけが聞こえるが、早めに帰ってきたおかげでまだ体力が残ってる燈矢くんをこれからこき使おうと思います。
「アレ、『ママ』つれてきて。とやくん手伝って、おばけくんも行くよ」
「陽火くんお願い俺にも説明して、何すんの」
「そりゃ人が死んでるんだからやる事はひとつよ」
真顔で言い放ちつつ、俺はさっさと車のキーを取って玄関へ向かった。というわけで、我ら一行は俺の運転で、最近行方不明者が多くて危ないと噂される山へと向かう。ちなみに燈矢くんがよく鍛錬に使ってる山でもある。そういう意味では安心できるね、助手席に犯人が乗ってるので。
人は死んだら毎秒腐っていくし、今は夏だ。もう明日には人の形を失うくらいと思った方がいい。ママのことぐっちゃぐちゃのグロにしたい? と丁寧な説得をしたおかげで、シーツおばけくんの了承もとれた。
燈矢くんに任せたのは一瞬で燃やしてくれるからだ。俺だって燈矢くんの火力が低くてじっくり丹念に焼かれてようやく骨になるよ……♡という流れだったら、埋めよっか……という方を提案する。一瞬で焼いて一瞬で灰にしてくれるので、精神衛生上良い方だろ。慈悲深い行いじゃないだろうか、生きてても死んでても痛みは感じなさそうだし。
「とやくん」
「なに……?」
「これが、『荼毘に付す』といいます。遺体を火葬して弔うことだね」
「へえ……」
完全に理解した。こういう事なんだろ、原作……。原作の燈矢くんもなんやかんやあって、このシーツおばけくんのママを火葬して、『荼毘』という言葉を脳に焼き付けたんだな……?
燈矢くん、結構面倒見がいいから原作でもシーツおばけくんと擬似きょうだいみたいな間柄になっていたんじゃないだろうか。可愛い弟枠のピンチかもしれない。気合い入れて可愛こぶらないとな。
「陽火くん、もう変なの拾ってくるのやめて」
「そんな、ちゃんと世話するから」
シーツおばけくんは俺の『灯火』のメンタルケアが無いと死にそうだし、せっかくちゃんと拾えた原作キャラのフラグは大切にしたい。
原作までのあと数年、俺は絶対に燈矢くんを原作通りの『荼毘』にすると決めているんだ。俺という存在が足を引っ張ることはあってはならない。拾えるフラグは全て! 拾う!
俺が気合いも新たに心に誓いをたてていると、燈矢くんはちょっと諦めたような声で「陽火くんがたのしそうでよかった」とだけ言った。意味は分からないけど悪いことでは無いだろうから気にしないでおく。待ってろ原作! 曇れよ実父! うおー!
