褒めて育てた甘い毒

ミョウジ先輩って獅子の獣人ッスよね。じゃー高位貴族なんじゃないッスか?」

 と、口の周りにクリームを付けてラギーが言うので、ハンカチで拭ってやりながら「夕焼けの草原ではほとんど平民だよ」と答える。確かにライオンの獣人は王族を筆頭に高位貴族に多い。というか、王族からの系譜と言おうか。
 クリームたっぷりの金持ち向けドーナツを頬張る。ラギーはシンプルなドーナツの方が好みらしいが、これはこれで美味いしカロリーも取れるからどっちでも幸せらしい。
 小さくて可愛いので彼の事は甘やかしがちだ。こいつも分かってて可愛こぶってるので、たまにレオナが拗ねるくらいで大きな問題は無い。

「その言い方、夕焼けの草原以外ではなにかあるんスね?」
「輝石の国のどこかで王位継承権はあるらしいな。もう第35位くらいだと思うけど」
「35位ならワンチャンあるっスよ! やりましょ、簒奪!」
「気軽に言ってくれるなあ」

 俺のひいおばあ様が夕焼けの草原でひいおじい様に惚れて、ほぼ家出のような形で嫁いだらしい。ホワイトライオンの獣人は少ないので、他国で同種と出会えたこの幸運逃がせない……! と襲いかかる勢いで来たというのは我が家では有名な話だ。
 ひいおばあ様亡き後は、もう輝石の国の生家とも関わりがないので本当に書類上の継承権しかないだろう。そもそも輝石の国に行ったことも無いしな。

ミョウジ先輩、オレに甘いから卒業後に宰相とかに引き上げてくれるかなって」
「やめとけやめとけ、うちの宰相まだ若いのに心労で死にかけのジジイみたいになってるぞ。大人しく俺の同僚になればいいさ」
「……もしかしてオレのこと好き?」
「弟みたいに思ってるよ。扉の方見てみろ」
「ギャッ」

 ネコ科の獣人特有の気配の消し方でこちらをじっと見ているレオナに気付き、ラギーが垂直に飛び上がった。
 おいでと手招くと不機嫌そうな唸り声を上げながら、俺の腿を枕に広いベッドの端っこで丸くなる。怒りを体現したように伏せられた耳を優しく抑えて気持ち程度音を遮断した。本当は余裕で聞こえているんだろうが、これでも気に入っているものには心が広いので「聞いてねえ」という事にしてくれる。

「俺がいなくなるとレオナが泣いちゃうからな」
「そうッスね……泣きますね。というか、ミョウジさんってオレとレオナさん、同じような感じにみてるんスか? 弟みたいな」
「その理屈じゃ俺、弟とセックスしたってなるな」
「え、オレ抱かれる?」
「あっはっはっは!」
「待って答えて! ちょ、レオナさん! 聞こえてますよね!? これお二人だけの事で、『弟みたいな存在は抱ける』って意味じゃないッスよね! ちょっと! 何笑ってんスか肩震えてんの見えてるんスよ!! ねえ!! ちょっとぉ!」

 相変わらず面白い子だな。発言がツボに入って笑いが止まらないし、レオナも人の腹に顔を当てて「くっくっくっ」と悪人みたいに笑っている。

「ようオニイチャン、兄弟を増やす気か?」
「この場合レオナに弟が増えるなあ。ラギー、いつレオナのことお兄ちゃんって呼ぶ?」
「嫌っスよ!! オレのこと弄ばないで!」
「ごめんごめん」

 あまり警戒するから面白くなってしまった。大丈夫、冗談だって分かってるからレオナも笑ってるんだし、こいつが自分のものを他人と共有するわけがないだろ。その場合俺もラギーも砂になって終わるぞ。嫌だ嫌だ言っていたラギーがふと思い出したように「あ、でも」と言葉を続けた。

「襲われそうになった時に勝手にミョウジさんの名前出してるんで、許されたいな~~って思ってます。いいっスよね? 設定上オレとレオナさん竿兄弟ッスけど」
「あっはっはっは! 俺、爛れた上級生にされてんの! レオナ、弟出来たなあ」
「……くくっ、ふ、ははっ」
「大爆笑じゃないッスか」

 つまり今みたいにレオナの部屋で3人でだらだら喋ってるのは、ラギーを襲ったやつ視点で爛れたインモラルライフを満喫中って事か。というか、そんなものを「そういえば」みたいなノリで言うな。
 こいつ、自分が許されると思って言ってるから可愛いんだよな……。俺は正面から可愛がってるし、レオナも身の回りの世話を許すくらいに気に入ってる。頭も要領も良いし、愛嬌がある。

「本当に可愛いやつだよ。レオナの分のドーナツも食べな」
「やったあ!」
「おい」
「お前は俺が毒味した方を食うんだよ」

 そんなに食べたくない癖に、俺がラギーを優先した途端に不機嫌になった口に、一欠片食べて安全を確認したものをいれる。
 アップルシナモンの味はお気に召したのか、尻尾がご機嫌に揺れてぱすんぱすんとベッドを叩く。機嫌が悪いとバスッバスッとホコリが飛ぶくらいに尾がベッドを殴るので、意外とわかりやすい。

「ラギーの事だから大丈夫だとは思うけど、俺の名前なんていくらでも使っていいからちゃんと逃げ切るんだぞ。てか誰だ? お礼参りってことで殴りに行こうか」
「自分で始末付けたんで問題無いッス。ま、お二人みたいなでっかい獣人の中にオレが一匹混じってたら悪目立ちして『勝てそ~』て思われても仕方ないッスよ。オレ、小さくて可愛いんで」

 ばちん。音が鳴るような見事なウインクをしたラギーに俺とレオナは同時にドーナツを噴き出した。「もったいねえ!!」という悲鳴が聞こえるが、いや、これはラギーが悪いだろう。

「おいナマエ、お前が甘やかした結果だぞ」
「俺が育てるとこうなっちゃうんだよ」

 お前だって『世界で一番可愛い俺だが?』って顔して甘えに来るだろうが。可愛い可愛いって褒めて育てると、みんなこうなっちゃうんだな。