転生して二年未満バブ期くらいで気づいたんだけど、これおしまいかもしれん。
たまにやってくる不審な巨人が父親であるということは理解してたのだが、あれって轟炎司……テレビに出てるエンデヴァーってやつと同一人物だよな……?
国民的コミックの世界へ転生、というものを果たした興奮より、年子の弟が燈矢であることで詰んでる。いまはまだ元気にあぶあぶいいながら俺の指を掴んでるベビの燈矢も、あと数年後には毎秒SAN値減らしていまはまだ生まれていない夏くんに、地獄のウザ絡みをするようになっちゃうんすね……。
「燈矢は陽火に懐いているな」と、まだ俺にも燈矢にも個性が出てないからこそ優しい実父に抱き上げられつつ、将来を悲観するしかなかった。どうなっちゃうの俺、どうなんの未来。
俺がスーパーさいきょーつよつよ転生者ならなんやかんやハッピーエンドじゃない?! と思ったが、そもそも俺、ヒロアカ全話は見ていない……! 友達の付き合いで映画は見た……! あと、作者の過去作が好きだったからギャングオルカだけは記憶に残ってる……! 嘘だろもっと適任いただろ。
この流れならギャグマンガ日和あたりに転生させて貰えませんか? アニメもコミックも全部見てたんです。基本1話完結だからダメか……名探偵うさみちゃん世界とかで良かったんですけど……。
俺がどうしようもないことで悩んでる間も、バブの燈矢は元気いっぱいに成長した。成長速度が俺とは段違いらしく、高速ハイハイで部屋を制圧していたかと思えば、気づけば二足歩行をマスターしている。個性出現前から将来の夢は「お父さんみたいなヒーロー!」だし、将来有望過ぎる。
対する俺は、のんびりしている子として心配されていた。それはね、比較対象が生き急ぎ幼児の燈矢だからですね。
そんな生活の中、俺にも“個性”が出現。ワンチャン、こういう転生もので在り来りな【さいきょーつよつよ転生者個性】なんじゃないか!? と期待したが、そんなことは無かった。
火は出るが炎は出ない。ポッと灯るような灯火を出せるだけで、父さんはめちゃくちゃ落胆していた。俺が純粋な子供だったらトラウマになるような手の平返しだ。
あの人、不器用なくせにこういうことするからいけない。しかも本人に悪気はほとんど無いのが余計に厄介で、「戦闘能力のない子に無理をさせない」という、歪んではいるが一応“善意”ですらあるのだから質が悪い。出来ないくせに、そういう配慮だけは一般人並みに持ち合わせているせいで、その空気を吸って育った燈矢が、見事にねじ曲がっていった。
かつて「にいちゃ、にいちゃ」と無邪気に懐いていた一つ下の弟は、今では自分の炎を誇示するように燃やしながら、「陽火くん、こういうの出来ないだろ。俺は出来るよ!」と得意げに自慢してくる。
何度でも言うが、俺が本物のガキだったら、ここで性格がひん曲がって荒れていただろう。本当に良かったな、俺に成人男性の記憶があって。大人の目で見ると、この言動の裏側に「すごいでしょ」「だから褒めてほしい」という、年相応であまりにも健全な欲求が透けて見える。クソ生意気ではあるが、可愛いねえと思えなくもないものだ。もちろん本人にそんな自覚は一切ないので、俺が「燈矢は凄いな」と頭を撫でると、「だろ」とフフンと鼻を鳴らして胸を張っていた。素直に育っているんだよな。こいつ。
俺はまあ、特にヒーローへの興味も無かったので、将来は前世のスキル引き継ぎでどこかに就職しようかと思っていた。別にこの世界だってヒーローとヴィランだけでできている訳ではない。
前世はインフラ関係の仕事に就いていたので、この世界でも需要は高いだろう。毎日どこかがぶっ壊れて大暴れされてる世界だ。むしろ前世より需要はあると見ていい。なんだっけ、掘削ヒーローとかいただろ。似たような個性でヒーローにはならなかった人材は絶対いるだろうし、そういう人と仕事ができたら楽しそうだ。
一方燈矢は「俺がヒーローになった時に、陽火くんを雇ってやってもいいよ。陽火くんはヒーローになれないけど、ヒーロー関係の仕事やりたいだろ。だから、俺の手伝いさせてあげていいよ」と、俺のことを全く見てない上から目線の『させてあげていいよ』を連発していたが、これには適当に「ありがとう、就職失敗したら頼むわ」と受け流していた。
燈矢はやっぱりフフンと鼻を鳴らして「陽火くんは弱っちくてダメダメだから、俺がちゃんと面倒見てやんなきゃだもんな」と偉そうに言う。何度も何度も言いますが、俺が普通の子供だったら気が狂っていたと思うし、たぶんお前のこと嫌いになってたからな。
「頼れるなあ」と頭を撫でたら「調子乗んな!」と手を叩かれた。普段鍛えてるのに、全く痛くない。手加減がちゃんとできるくらいには優しいんだよな、こいつ。
あれ? これって原作どう進むんだっけ。燈矢が順風満帆だったら別に問題なくないか?
呑気極まれり。俺の原作知識がスッカスカだったせいで、これから起こることについて全く現実感がなかった。ある日から、なんとなく両親が……というか、燈矢たちがピリついていた。
その頃には冬美も夏雄も生まれていたので、ピリつく家の空気に怯える二人を「俺がでかいのはお前たちをしまっちゃう為で~~す」と抱えて、押し入れの奥に安全地帯を作って隠れていた。身長の伸びの良さだけは父親譲りなものでね、年齢にしては大きく育ったのでこういう時に役に立ちます。
家の中が不安定なら、安心できる場所があった方がいいだろう。それが例え使っていない部屋の埃臭い押し入れの奥でも、だ。俺の“個性”は何の役にも立たないけど、押し入れの奥で小さくなる弟妹たちを「ほら、きらきら」と小さなあかりで宥めることくらいは出来る。
本当はここに燈矢も突っ込みたいけど、あいつは渦中の存在だからなあ。何があったんだろう。俺が聞いても、親に向かうはずの反抗期が全部俺に向かってきているのでわからない。
「陽火くんは初めっから何も持ってないから分かんないだろ!
お父さんに期待されない、ダメダメなお兄ちゃんなんだから、俺に余計なこと言うなよ! 役立たずなんだからあっちいってろ! 陽火くんなんて大嫌い! いなくなればいいんだ!」
と怒鳴って、夏雄が泣きながら「陽火にいに酷いこと言うなよ! 謝って! 謝れよ!」と飛びかかろうとするのを取り押さえる。勝てん勝てん。お前にゃ勝てん。あと、燈矢はお前のことをかわいがってるから俺の味方しちゃだめ。燈矢もこれで自分が言ってること理不尽って分かってるから、夏にまで責められると自己嫌悪でパニックになっちゃうから……ほら「夏くんまで俺が悪いっていう!!」って泣いちゃった……。普段泣く時はしくしく泣く冬美も、男兄弟の喧嘩が怖いのかわんわん声を上げて泣いてるし、どうしてくれるんですか両親! あんたらの管轄ですよ子供たちのメンタルケアは!!
弟妹が全員わんわん泣いてるので1人ずつ抱き上げて「だいじょうぶだいじょうぶ」と背中をポンポン叩く。夏と冬はぎゅうっと抱きついてきて可愛いというのに、燈矢は無理やり逃げようとして叩いてくるから痛い。痛いくらいで済んでるから、やっぱり手加減してくれてる証拠だ。これ、父さんがやるべきものでは? 少なくとも、燈矢は俺より父さんの方がいいだろ。いつの間にか火傷が増えた腕を撫でて押さえ込みながら、「大丈夫、大丈夫」と繰り返した。何が大丈夫かなんて俺も知らん。大丈夫であれという願いくらいしかない。
「陽火くんなんてだいきらい!」と泣きじゃくりながら、最後には手を離しても離れないほど強く抱きついてくる燈矢は、痛々しいくらいに哀れだった。
そして子供たちがこんな状態なのに、新たな生命誕生! 出来るんですか!? 家がこの状態で子作り!!
冬美と夏雄は素直に新しいきょうだいを楽しみにしているが、燈矢は“自分を見限った”と感じとったのだろう、荒れに荒れている。俺は前世の記憶があるので『これって実父による多産DVじゃないですか?』と気付きたくないことに気付きかけてしまっている。この世界のことを知るにつれて……あの……これって個性婚で当たりが出るまで子供でガチャしてますよね……? ちょっと、四番目から五番目にかけて年齢が開いてるのって……燈矢の個性にガタが来てから、新しいガチャを引くノリで……?
俺は十月十日、母の腹から生まれてくる子が、普通の……そこそこ強いくらいの子であることを願っていた。夏雄くらいの。確かに強いけれど、実父の理想にぴたりとは嵌まらないくらいの、評価の外にいられる子。称賛も落胆も過剰に浴びせられず、期待の天秤に乗せられない子。
この時点で、俺は原作のことを半ば忘れていた。轟焦凍という名前も、設定も、知識としては頭に残っているのに、それが今まさに母さんの腹の中で心臓を動かしている存在だという実感がどうしても湧かなかった。知っているはずの未来と、目の前の日常が、まだ繋がっていなかったのだと思う。
燈矢は燈矢で、まるで祈るみたいな声で「無個性だったら可哀想だから、俺が可愛がってやるんだ」と何度も繰り返していた。
無個性くらいじゃないと、可愛がってやれないということだろう。たぶん、本人にその自覚はない。ただ、強い個性を持つということが、何かを奪われる行為だと、もう肌で理解してしまっているのだろう。
「陽火くんもそう思うだろ? 無個性は可哀想だから。そしたら、意地悪しないでやろうな」
そう言って、勝手に俺を自分の側に引き込み、同意を求めてくる。
俺はといえば、基本的に弟妹には優しくしてきたので、正直なところ個性がどうとかはどうでもよかった。
燈矢だって、本来は弟妹を可愛がるタイプのお兄ちゃんだ。実際、夏雄や冬美には優しい。だから余計に分かってしまう。問題は、個々の性格じゃない。
やっぱり、環境が悪いな、と。
子供がこんな祈り方を覚えなくちゃいけない時点で、もうだいぶ詰んでいる。
しかしそんな燈矢の願いなんて、原作は叶えてくれない。焦凍は普通にまるまると元気に誕生し、紅白めでたいカラーリングの髪に、炎と氷の間の子を求めていた実父が大喜び。そしてその顔を、燈矢が見てしまったという地獄のコンボが決まった。一応、一応な、察してはいたのでタイミングをずらそうとはしたんだ。だけど俺ってか弱くって……! 普段から鍛えてる一つ下の弟が本気で突き飛ばしてきたら、たとえ身長差が30cmあろうとも普通に壁にぶつかるんだわ……。
この頃には、燈矢が個性を出せば出すほど中身が燃えて火傷が発生するデバフがあると、家族間で共有されるようになった。毎日泣きながら新しい火傷を作って、お父さんお父さんと後追いしてるから。
こうなると、冬美も夏雄も燈矢を怖がる。たまにみんなで遊ぶ時はまともだけど、火傷まみれになりながら自主鍛錬している時も、父さんに追いすがってる時も、異常過ぎるからだ。泣いて喚いて、そのあとケロッとした顔で「遊んであげる、ボール遊びしよ」と弟妹に声をかけるの、普通に怖いだろ。たぶん、『お父さんがみんなと遊べと言った』という命令を守ろうとしているんだろう。父さん! あなたの気遣いが命令として受け入れられてますよ!!
あの人の不器用さ本当になんなんだ、たぶん、本当に、命に関わるデバフだから……という理屈なんだろうけど、生まれてからずっと期待されてきたのに突然見放されたらこうなっても仕方ないだろうが……。ただでさえ、素の性格が面倒な子なのに……。
燈矢がブチ切れて焦凍を焼き殺しかけたのは、それからすぐの事だった。そして本邸と離れで住処を分けられたんですが、父さん!!? あなたの子供って実は焦凍以外にもいるんですよ!!? 忘れちゃった!!?!
夜な夜な燈矢は夏雄の布団に乗っかって泣きじゃくり恫喝を繰り返し、そんな夏雄を助けるために「はいはいお兄ちゃんがお話聞きますよ」としがみついてる布団ごと持ち上げて引き離す日々が始まった。
「陽火くんは役立たずなんだからあっちいけ!」と怒鳴られつつも回収し、台所に連れて行ってホットミルクを作って渡すと、燈矢は素直にそれを受け取って大人しく飲む。
さっきまでの勢いはどこへやら、肩はまだ小さく震えていて、涙がボタボタと白い液面に落ちていくが、それを気にする様子もない。感情が先に溢れて、細かいことを見る余裕がもう残っていないのだろうと思いながら眺めていると、「俺もコーヒーがいい」と、今度は俺が飲んでいるカップを奪いにかかってきた。ちょっとだけ泣くのをやめているので、まあ良い事だろう。
「燈矢はカフェイン効くタイプだから寝らんなくなるだろ。あと背ぇ伸びなくなるぞ」
「……陽火くん、コーヒー飲んでるのに大きいじゃん」
「体質ですねえ。ほら、蜂蜜いれたろ」
「ガキ扱いすんな!」
「ちび扱いです~~」
わざと上から頭を抑えるように撫でると、やめろやめろと文句を言いながらも、手を払いのけることはしない。こういう時だけ、抵抗の仕方が中途半端になる。最後に「もう寝る」と言って両手を広げるから、そのまま抱き上げた。たったひとつしか違わない兄弟なのに、甘え方だけが妙に幼い。これが可笑しい状況だと誰かが教えてくれることはないし、自分から自覚もできない。燈矢が本当にこうしてほしい相手は俺じゃない。そこはどう足掻いても代替不可能なので、まあ仕方ないか、といつもの結論に落とす。
背中をポンポンと軽く叩いてから布団に転がし、「おやすみ」と言うと、燈矢は目を閉じる直前に「あかり、ちっちゃいのだけつけてって」と注文をつけた。はいはい、豆電球は点けておきますね……と立ち去ろうとすると、消え入りそうな声で「ちがう……」と聞こえた。
「陽火くんの個性のやつ、あれ見せて」
「これ?」
“灯火”にしかならないちっぽけな火でも、間接照明くらいにはなるか。今は何もいけていない硝子の花瓶に灯火だけをいれて、枕元に置いた。一応『火』だから可燃性のあるものに近づけるなよ、と言ったそばからもぞもぞと布団の中に引き込んでいく。言うこと聞かねえなこのちび。
仕方ないので掛け布団を剥がして、燈矢の秘密基地を破壊。文句を言い出す前に抱き上げて、後ろから抱え込む。
小さな灯りを指で包むようにして、燈矢の胸元へそっと押し当てる。服越しでも分かるくらい、心臓の音が早い。
「ほら、“灯火”な」そう言って、火をそのまま胸に沈めるみたいに、ゆっくりと消す。じいっと火を見つめていた燈矢に「身体の中に入れたから、これでずっと一緒だ。あったかいだろ」と言うと、一瞬きょとんとした顔をして、それから少し眉を下げた。騙されてくれたのか、騙されたふりを選んでくれたのかは分からない。ただ、「……あったかい」と繰り返すように小さく言って、しばらく黙ったあと、湿った声で「陽火くん、俺とずっといっしょ?」と確認するみたいに聞いてきた。指先が服の裾を探るみたいに動いて、最後は俺の指をぎゅっと掴む。離れないか確かめる力だ。ふと、燈矢が赤ん坊だった頃を思い出した。いつもこうやって、俺がはなれないように指を掴んでくるやつだった。
「俺は燈矢のお兄ちゃんだからな。一緒がいいなら、一緒にいてやるから」そう返すと、燈矢は驚くくらい素直に「……うれしい」と答えた。鼻をすする音がして、体重を預けるみたいに背中へもたれてくる。嘘みたいに力の抜けた重さだ。小さく丸まった身体がぴったりくっついて、離れる気配がない。これはもう、部屋に戻れなさそうだな、と内心でため息をつきながら、逃げ場を失ったまま、もう一度だけ燈矢の胸の上をポンポンと叩いた。
燈矢が“死んだ”のは、その日から数日後だった。
父さんの期待から外れて落胆された時も、燈矢が個性のデバフで苦しんでる時も、焦凍が生まれた時すらも、なんとなく他人事だったのは事実だ。なんとなく、まだ現実感がなかった。
いつだって俺たちは、問題の外側に置かれていて、何か起こったあとにだけ、どうしようもなくなった時にだけ結果が伝えられる。燈矢がどこで亡くなったのかも、子供たちにだけは伝えられなかった。俺だけが知っていた。
「お父さんに見てもらうんだ。瀬古杜岳で、俺がどれだけ強くなったか見てもらう。そうしたら、また俺と特訓してくれるだろ。俺がヒーローになんなきゃ、陽火くんだって雇ってあげられないから。陽火くんも、困っちゃうだろ」
あれが最後だったなんて思わないだろ。思わなかった。他人事だった。それがどれだけ酷いことか、終わったあとに気づいてしまった。
瀬古杜岳の斜面には、火が走った痕跡が残っていた。
風に撫でられても色を取り戻さない草は、先端だけが黒く丸まり、ところどころで地肌が覗いている。燃え広がったというより、点々と舐めるように焼けた跡だ。高温が一瞬通って、すぐに引いた。そんな燃え方だった。
土の上には、線が残っている。靴底で踏み固められた真っ直ぐなものではない。左右にぶれて、途中で途切れ、また続く。何かが体重を預け、引きずり、諦めきれずに前へ進もうとした形。人が立って歩いた軌跡とは、決定的に違う。
その脇を横切る、規則正しい足跡がいくつもある。深さが揃っていて、間隔も一定だ。捜査班のものだろう、と前世の自分が言う。役に立たない知識ばかりが口を出しやがる。
先に見た線が、彼らの足跡で上書きされていく。そうして現場は、少しずつ“整えられて”いった。
焦げ臭さが、まだ消えていない。煙の匂いではない。油でも木でもなく、もっと嫌な、喉の奥に貼り付く匂いだ。湿った草を踏むたびに、青い汁の匂いが立ち上り、それと混ざって、鼻腔の奥で絡み合う。息を吸うたびに、思い出させるためのように長く残る。
事実はそれだけで、理由も経緯も、もうどうでもよかった。
風が吹く。草の焦げた先が、かすかに揺れる。そのたびに、匂いがまた立ち上る。消えない。洗っても、踏み固めても、時間が経っても、ここにいたという証だけが、嫌になるほど粘り強く残っている。
あの言葉を思い出す。「見てもらうんだ」と言った声。未来の話をしていた口。ここには、未来の残骸しかない。俺の弟が、ここで、焼けた。自分の炎で、ひとりで。
原作が、とか。燈矢は荼毘になって生き残っているとか、正直どうでもよかった。焼けたら痛い。それだけは揺るがない事実で、理屈も設定も後付けの神様の言い訳みたいなものだ。
燈矢は本当に面倒な性格をしていた、手のかかる厄介なやつだったのも事実だが、同時にどうしようもなく可愛いところがあるやつでもあった。甘え方が致命的に下手で、俺がこの世に普通に生まれてた子供だったら速攻で心を病んでいたくらいにはヤバいやつだ。距離感は最悪、要求は一方的、愛情確認は執拗で、害悪弟ムーヴのフルコースみたいな存在だった。
それでも根っこにあったのは『俺を見て、褒めて、構って、見限らないで』────ただそれだけを、正しい言葉にできないまま暴れていただけのやつだった。
何が悪い? 何が悪かった? 個性か? 才能か? 努力か? 違うだろうがよ。全部まとめて、機能不全家庭のせいだろうがよ。
過剰な期待は条件付きの愛情として目に映るし、突然手を離されたら失望されたと思うだろう。それでもまだ父親の背中を追っていた。燈矢は素直な奴だった。お父さんが好きで、ヒーローになりたくて、努力を厭わない。燈矢はそういうやつで、俺はそれを知っていた。それだけで、十分すぎるほどだったのに、なんで何もしなかったんだ俺は。
出来ることを、しなければ。
最悪、世界には壊れていただく。原作、ちょっと壊れてくれないか? いいだろうもう、うちの家だって壊れてるんだから世界の1つ2つ一緒に心中してくれ。
俺というノイズでめちゃくちゃになれ世界! 出来ることをやります! 冬美と夏雄、お兄ちゃんとメンタルクリニックに行こうね……。焦凍も鍛錬する毎に病院いこうね……診断書取ろうね……。
お兄ちゃんね、本を出そうと思うんだ。タイトルは【No.2の長男に生まれて】ってやつで……。ちょっと……本気出して行く。
いつでも弟妹と母の扶養ができるくらいに、証拠と金を積み上げておくから……。父さんと弁論バトルで殴り合いするね……。
ちなみに俺は1発殴られたら速攻血反吐はくくらいには弱いし、“可哀想”アピール上手いから。燈矢が荼毘になる前に、帰ってくる時に、ちゃんと「おかえり」が言えるように、家の中をどうにかしておく。それを謝罪と反省にかえさせていただく。さーて、とりあえずまとまった金つくっか~~!!
