とりあえず一つ食べれば?

バレンタインSS。まっしろさんの男主への相談。


季節が変わる度に思いますが、この国は本当に、イベント事が好きですね、ええ、わかりますよ、世間から浮いていると思われるでしょうし実際その通りですが、人の賑わいは、わかります、スーパーやコンビニなどでね、1ヶ月以上前からコーナーができたり、CMもそれに合わせたものが流れたりすると、ああそんな時期なんだなって、思いますよ、まあそれが自分に縁があるものかどうかは、また別の話ですが、まだ実家にいた時は、クリスマスとかはね、やりましたよ、ケーキも食べました、チキンも、本来は七面鳥ですか、まあそこまではやりませんでしたが、鳥の丸焼きは、見たことがあります、ええ、プレゼントもいただきました、良い思い出ですね、縁のあるイベントは、はい、楽しい記憶があります、どうすれば良いかも、なんとなく、わかります、ですが、未体験のものは、わからない、これだけ世間に広まりながら、それに関わったことがあるかが、明確に区別されている、勝者と敗者ですか、元はお菓子業界の戦略が、いつの間にかこの国では、明暗を分ける一つの基準となってしまいました、ええ、勿論、敗者で暗の方でしたよ、私はこうですから、診断を受けるまでは、「普通」の真似をしていましたけど、それでもやはり、「違う」のはわかるんでしょうね、基本的に遠巻きにされていました、当然、渡してくる人もいません、クラス全員に配ってる人は、いましたか、それもカウントに入れれば貰えたことになるんでしょうか、しかしそれは、挨拶とかそれこそ義理のようなものなので、やはり今回のこれとは、別だと思うんですよ、ええ、母親からも貰いましたが、それもこれとは違う、きっと、情という点で言えば少しは近いのでしょうが、同じとは流石に、私も言いません、恐らく私は、鈍いとか鈍感とか、そう言われる類の人間ではありますが、これがどういった感情をもって、私に渡されているかは、わかります、だって初手で言われましたので、「本命だよ!」と、誤解のしようがない、いつも直球ですね、行動も、言葉も、明確です、迷いがない、逃げ場もない、いえ、彼女のことですから、言えば用意してくれるのでしょう、でもそれを言った途端、何かが終わるような気もして、どうにも言いづらく、そもそもそこまで困ってはいないので、いいのですけど、何の話をしていたんでしたっけ、ああそうそう、チョコレートを貰ったんですよ、既製品と、手作り、両方です、彼女から二つ、いただきました、二つです、何故両方用意したのかというと、「手作りが苦手だった場合を考えて」だそうです、気遣いですね、「いらなかったら捨てていいよ」とも言われましたが、いらなくはありません、ありがたいと思います、甘いものは嫌いではありませんし、手作りも、気になりません、地面に落ちた豆を鳩と分け合うこともありますので、大丈夫です、それに、あの人のことですから、私の味覚に合わせたものを、用意しているのでしょう、信頼ですね、私でも気づいていない私の嗜好に、気づいていることがある、私の知らない私の好みを、知っていることがある、たまにゾッとしますが、悪い気はしません、好意はありがたいものです、私のようなものにとっては特に、得難いものですし、未だに何故そこまでとは思いますが、何の話でしたっけ、そうそう、チョコレートを貰ったんです、二つ、貰ったのであれば、お返しが必要でしょう、少なくとも私は捨てる気も返却する気もないので、ならばひと月後に、ホワイトデーですね、これもまたイベントですか、それに参加する権利が、ある意味では義務が、生じたわけです、ここで疑問なのですが、バレンタインのお返しは三倍返しというのが、この国ではよく言われている、基本とも言えるのかもしれません、なら私は、果たしてどれだけのお返しを、用意すれば良いのでしょう、既製品ならある程度の予測はできました、問題はもうひとつの、手作りの方です、3ヶ月程前から彼女に会うと、ほろ苦いような、しかしどこか甘い香りがしていまして、ええ、チョコレートですね、なんでもカカオ豆から作ったそうで、数ヶ月、砂糖やカカオバター等の配合を考えたのだとか、数ヶ月です、何も知らなければ一時間にも満たない時間で食べ終わってしまう、この数粒に数ヶ月、知らないというのは恐ろしい、念の為聞いて正解でした、さて、私はその数ヶ月に、何を返せば良いのでしょう、三倍ともなると、最早想像もつきません、なにせこれが初めてでもありますので、基本もわかっていない、まあ、わかっていなくても、彼女にとっては、問題はないのかもしれませんが、多分あの人は、私が何を贈っても、喜んでくれるんですよ、きっと、それこそ路傍の石だろうと、喜んでくれる、でもですね、それとこれとはやはり、話が別なんです、だって、心を尽くされたのなら、同じように心を尽くしたものを、返したいと思うじゃありませんか、そうでしょう、ですからひとつ、知恵を賜りたいのですが、どうでしょうか、私一人で考えるよりは、良い答えが得られるのではないかと、思いまして、お忙しいところ申し訳ないのですが、お力を貸してはいただけませんか。
 

 

わっふるさんからいただきました!

(まっしろにチョコを渡した胡乱な女

なぜこの男の喋り方を完璧に書けるのか。こうしていただきものコーナーに確実にこの謎の女を侵食させていただきたい。まっしろは言動と信じた神がおかしいだけで本人は医者の太鼓判がおされた“普通”の人間なので……そして押しに弱いし他者からの好意もちゃんと断れないので、一生負け続けそう。この胡乱な女が好きな人には比較的穏当な手段をとる狂人なお陰で困惑はあれどストレスは無さそうなのでよかったね。