「なるほど、やめとこうか……」
ㅤここに至るまで約30分、まっしろにしては大分短い時間で至った結論に頭を抱えた。銀行で用意したのだろう、ピン札で揃えられ封もされた札束は、見本品のように整った形を保っている。確かに実用性においてこれの右に出るものはそうそうない、ないけれども。
ㅤ生々し過ぎる……。
ㅤ悪いとは言わない。まっしろなりに深く考えた結果だし、役立つという見方なら花丸だ。でもなあ。数ヶ月かけたチョコの返礼に現ナマ単品。報酬の振込か?ㅤもう少し華があってもいいんじゃないか……?ㅤ一応ホワイトデーなんだし……。
ㅤまああの日常侵食型怪異なら気にしないとは思うけど。まっしろから贈られたものなら地面にへばりついたガムでも喜びそうだし……でも、だからといってそれで済ませていいかは別の話か。
「駄目でしょうか、良い考えではと、思ったのですが、人への贈り物というのは、難しい、経験の少なさが、出ていますね、もう当日ですが、今から別のものは、浮かぶでしょうか、さて、どうしましょう」
「いや、今の全部伝えた上で渡したら喜ぶと思うけど、現ナマは生々し過ぎるから……」
「生々しい」
「そうだな、花とか添えるのはどう?ㅤ彩りを加えよう」
ㅤスマホを覗いて連絡が来ていないか確認する。今日は特に予定もないし、たまには付き合うのもいいだろう。ほっとくと少し心配なのもあるけど。
ㅤ「ちょっと歩くけど、結構大きい花屋があるんだよ。連れてったげる」と言ったら、黒目を少し大きくして二、三度頷いた。嬉しそう。こういう素直な反応するところは結構可愛いよな……。
ㅤ3月も中旬、まさに花の季節だ。きっと彩りも華やかに揃っているだろう。良いのが見つかるといいね。
「これは聞き流していただいていいんですけど、バレンタインにチョコレートを、もらったので、そのお返しの花を、買いに来ました、曰く、本命との、ことです、確かに手がかかっていた、ありがたいことです、なので、それに見合うものを、返したいと思いました、私はあまり花には、詳しくないので、返礼に相応しいものを、選んでいただきたく、思います、よろしくお願いします」
「まあ……!」
「すみません、さっきの注文はなしでお願いします」
ㅤまっしろの凝視と語り口に最初は少し怯えていたものの、注文を聞いた途端目を輝かせながら赤の薔薇を選び始めた店員を慌てて止めた。そのチョイスだと花束がメインになっちゃうから……!ㅤ持つ意味が、強過ぎる……!ㅤホワイトデーに赤い薔薇の花束と札束。金を積んでプロポーズする男の出来上がりだ。凄い!ㅤ傍から見たらろくでもないし実態的には墓穴を掘るどころの話じゃない!ㅤ全方向に大惨事だ。止まってくれ。
ㅤ店員は何も悪くない。ホワイトデー当日にこんな注文をしてきたら誰だってそうだと思う。俺だって何も知らなかったらハート型のカードとか添えただろうし。そしてまっしろも、本人としてはただ事実をそのまま伝えただけだ。つまり予想できなかった俺の負け。命がかかってないと予想の精度が落ちるな……気をつけないと……。
ㅤ「俺が選んでもいい?」と聞いたら了承を得られたので、店内を見渡す。春の花が多めではあるが、夏や秋に咲く花も取り揃えられていた。普通の花屋ではあまり見かけない花もあって、品揃えの良さに感心する。評判がいいわけだ。
「んー……これとこれと……あとこの辺かな」
ㅤいくつか選んで、あとはおまかせにした。選んだ花で方向性は決まってるから、大体想像通りの雰囲気になるだろう。まっしろの延々と続く感想と雑学がミキサーにかけられた読経のような語りをBGMに店内の花をしばらく眺めていたら、完成したと声をかけられた。
ㅤ出来上がったのは、黄色を主体に白を添えた花束だ。明るくて可愛い感じ。文字通り華を添える役目としては十分だろう。
「『友情』をテーマに選んでみた。どう?」
ㅤミモザ、黄色の薔薇、ライラックは黄色に合わせて白のものを。どれも「友情」の花言葉を持つ花だ。あの怪異、花言葉とかも知ってそうなタイプだからな……今のところまっしろの意志を優先してるから、これなら特別何かしら事を起こしたりすることはないんじゃないか。多分。
ㅤ
「ありがとうございます、なるほど、素晴らしい、花言葉、そういうものも、ありましたね、友情、確かに我々に、相応しいものかと、思います、友達なので」
「うんうん、お前から渡せばきっと喜ぶよ」
ㅤ花束にリボンがつけられるらしい。何色にするか聞いたら、少し考えた後「ではこれを」と白いリボンを選んでいた。模様も縁どりもない真っ白のやつ。メインは黄色だけど白の花も入ってるから、まとまった印象になっている。
「いいんじゃない。ホワイトデーだもんな」
「……ああ、はい、そうですね、何となくで、選びましたが、確かにそれにもかかっている、ちょうどいい、ならば問題なく、では、こちらで、お作りいただければと、思います、よろしくお願いします」
ㅤあれ。選んだ理由、ホワイトデーだからじゃないのか?……ふーん?
ㅤ花束を眺める顔は、いつもの真顔より少し雰囲気が柔らかく見えた。
ㅤ後日、まっしろが報告も兼ねて会いにきた。とても喜んでくれたらしい。雰囲気がふわふわしてる。結果がわかってても喜んでもらえると嬉しいよな。わかるよ。
「いつも笑顔の人ですが、あれほど嬉しそうな顔は、初めて見たと、思います、渡した時最初首を傾げていましたが、ホワイトデーの存在を、失念していたそうで、『受け取ってくれただけで嬉しかったから』と、あの人は、なんというか、欲がないのか謙虚なのか、時折不思議なほど、自身に関して、無頓着になる、見返りを求めるということをしない、考えていないような、そんな振る舞いをします、この間も、傘を置き引きされた人に、自分の傘を渡してしまったらしく、全身ずぶ濡れで、帰ってきてましたね、はい、あの土砂降りの雨が降った日です、連絡をくれれば、迎えに行ったのに、与えるばかりで、求めない、悪いとは言いませんが、もう少し欲を出したり、頼ったりしてくれても、いいのになと、思うんですよ、友達なので、友達の役に立てるのは、嬉しいことです、何の話でしたっけ、ああ、お返しは喜んでもらえました、という話でした、はい、あれほど喜んでもらえたら、渡した甲斐があるというものです、元々の贈り物がその実用性を発揮するかは別の話になっていそうですが、まあ、渡した後どうするかは本人の自由なので、いいでしょう、花も、喜んでくれました、何故かあかりさまのアイデアということはバレてましたが、たくさん考えてくれたことが嬉しいと、言っていました、お礼を言っておいてほしいとの、事でしたので、お伝えしますね、私からも、改めて、言わせていただきたく、ありがとうございました」
「いいよ。上手くいって良かったね」
「ただ」
「?ㅤ何、どうかした?」
ㅤこいつが言い淀むのって珍しいな。何かあったのか?
「とても、はい、とても喜んでくれたのは、いいんですが、『保存加工してまっしろくんルームに飾るね!』と、仰いまして」
「…………」
「『まっしろくんルーム』って、何だと思いますか」
「……世の中には知らない方がいいものってあると思う……」
ㅤどうにかそれだけ返して、会話は終わった。寒の戻りかな?ㅤ何だか背中が寒くなってきたな……今日は温かくして寝よう。一旦全部忘れて。
わっふるさんからいただきました!
(まっしろにチョコを渡した胡乱な女)
なぜこの男の喋り方を完璧に書けるのか(二回目)。今度恩義に報いてまっしろが延々と語り続けるだけの動画をだすね。常識を覆すえこひいきが今はじまろうとしている。
男主はめんどくせえ人間が好きなので、まっしろのこのトークをちゃんと聞いたうえで健康被害を得て嘔吐したりするけど、まったく嫌いにならないので無限に好かれ続けるという地獄の関係になります。ふたりは楽しそうだし胡乱な女も「まっしろくんが楽しそうでうれしい」とまともな人間っぽいこと言うんだろうな……こわいな……。
