無断外泊手前で成立

「俺は最悪だ! 悪かった……!!」

「なあに、どうしたの……?」

 すよすよと気持ちよく昼寝をしていただけなのに、なんかやたら切羽詰まった声がするなあと思って目を開けたら、友人がベッド脇で土下座せんばかりの勢いで頭を下げていた。

 寝起きの頭では状況がまるで飲み込めない。なあに……え……俺の飼ってるグッピー殺した……? その場合は許さんけど……?

 ぼんやり水槽の方を見れば、少なくとも見える範囲では今日も元気にひらひらしている。よかった。じゃあそこまで怒ることでもないかもしれない。たぶん。

 何を言っても頑として頭を上げないので、仕方なく身体を起こして無理やり下から覗き込むと、普段はきりっと吊り上がっている眉が情けなく下がり、精悍な顔が雨に打たれた子犬みたいにあわれっぽいことになっていた。狼なのに。

 頭の上の耳までぺたんと伏せているし、いつもなら機嫌よくとは言わないまでも力強く揺れている尻尾も、今日は完全に床へ落ちている。

 どうしたの……そんな顔すんなよ……三匹までは誤差だから許してやるよ。泣くなぁ? いやまだグッピーの話とは決まってないけど。

「はいはいハグハグ。どしたん、ジャックが意図して悪いことするなんて思ってねえよ。餌やりたくて沢山入れちゃったとか?」

 腕を伸ばして大きな身体を引き寄せると、鍛えた胸板が妙に固い。抱きしめられたジャックは抵抗こそしなかったものの、罪人が刑の執行を待っているみたいに全身を強張らせたまま、俺の肩口で息を詰めた。

 サバナクローの連中の中ではだいぶ真面目な方だとは思っていたけれど、今日は真面目の針が振り切れている。

「餌? いや、違う……俺、俺が……っ」

「うんうん」

 背中をぽんぽん叩く。筋肉がすごい。これだけ鍛えている男が俺の腕の中でしおしおになっているの、状況だけ見ればだいぶ面白いな。本人があまりにも本気なので笑えないけど。

 ジャックは一度ぐっと歯を食いしばり、何かとんでもない罪を告白するみたいに拳を握った。

「俺がブラディにセクハラしてたんだ……!」

「初耳だわ。気付いてないしなんなら今の俺の方がセクハラ判定くらいそうだからどうでもよくね?」

 言いながら普通に腰まで抱いていたので、一応ちょっと手を上へずらした。俺が気にしてないなら終わりでよくない? と思うのだが、ジャックにとってはそういう話ではないらしい。勢いよく顔を上げた拍子に伏せていた耳までぴんと立ち、けれど次の瞬間にはまた罪悪感に負けたみたいにへにゃりと倒れた。

「俺は俺が許せねえ!!」

「真面目だねえ……」

 知ってたけど。知ってたけどここまでとは思わなかった。俺の肩を掴んで今にも己を裁き始めそうな友人を眺めながら、とりあえずもう一回頭を撫でた。
 髪の間から出た狼の耳がぴくっと動く。こんなに分かりやすく落ち込んでいるやつを前にすると、何をされたのか聞くより先に、まあ座れ、なんか食うか、という気分になってくる。

 セクハラの被害者だという俺本人が一番話についていけていないのだが、ジャックの中ではもう完全に有罪判決まで出ているらしかった。 

 

 ジャック・ハウルとは入学した頃から妙に気が合って、お互いの部屋を行き来したり、そのまま泊まったりする仲だ。

 といってもジャック自身はびっくりするほど健康優良児なので、夜になって眠くなれば遊びの途中だろうが何だろうが「もう寝る」と自分の部屋へ帰っていく。
 サバナクロー寮生とは思えない規則正しさである。ベビちゃんかよ、と思うけれど、翌朝は誰より早く起きて走り込みへ行くので、たぶん俺の方が生活習慣について口を挟める立場ではない。

 問題は俺がジャックの部屋へ遊びに行った時で、二十二時を過ぎる頃にはもう本人が半分くらい寝ているため、じゃあ俺もそろそろ帰るかと腰を上げるのだが、そのたびにベッドの中から妙な声がする。

「ぴぃ……」

 最初に聞いた時は何の音か分からなかった。窓の外に鳥でもいるのかと思って見回したくらいだ。しかしどうやら発生源は、毛布に半分埋もれた身長百九十近い狼の獣人である。
 本人は目もほとんど開いていない。耳なんかもう力なく横へ寝ていて、尻尾も布団からちょっとだけはみ出している。それなのに俺が扉へ近づくと、また小さく、今度はさっきより少しだけ悲しげに鳴く。

「ぴぃ……ぃ」

「部屋に帰るだけだから」

 ベッドまで戻ってそう言い聞かせると静かになる。よし、と離れる。

「ぴぃ……」

「明日もまた会えるから」

 頭を撫でる。黙る。離れる。

「ぴぃ……」

「…………」

 これを三回くらい繰り返したところで、俺は自室へ帰るのを諦めた。

 別にジャックは起きて引き止めるわけでもないし、服の裾を掴むわけでもない。ただ寝ながらピィピィ鳴くだけである。なんの害もない。なんの害もないのだが、その声がまあ、なんというか、見事に後ろ髪を引かれる類いの悲しげな声なのだ。
 これを置き去りにして平然と部屋へ帰ったところで、俺はたぶん『雨の日に、泣いて縋る子犬をダンボールへ押し戻してそのまま立ち去った人間』くらいの罪悪感を抱えて眠れない。

 寝不足になるくらいならここで寝た方がいいな、と早々に結論を出し、それ以来ジャックがこの状態になった日は適当にその辺へ転がって寝ることにしている。

 本人は翌朝になると当然のように俺がいるので、俺が自主的に泊まっていると思っている節すらある。お前が鳴くからだぞ。覚えてねえだろうけど。

 ちなみにジャックはでかい。とにかくでかい。鍛えているせいで厚みと立派な尻と胸板まであるので、一人用のベッドへ二人で入る余地なんかほぼない。
 俺が無理に潜り込めばたぶん寝返り一発で壁へ押し潰されて、翌日にはぺったんこの俺が誕生している。したがって床で寝るしかないのだが、そういう時に限って同室者どもはやたら楽しそうである。俺が床へクッションを並べている横で、吹けもしない口笛をぴふぉー、ぴふぉー、と鳴らしながらニヤニヤしている。

「なんだよ」

「ぴふぉー」

「口笛下手すぎんだろ」

「ぴふぉーぴふぉー」

「腹立つなこいつら」

 事情を説明しても誰一人ジャックを起こそうとはしないし、「ブラディが帰ると寂しいんじゃねえの」とか意味ありげなことを言って笑うだけだ。
 ただしクッションと毛布は貸してくれるし、冬場には床が冷えるからと敷物まで寄越してくれるので、比較的人の心は残っている方だと思う。サバナクローにしてはかなり上等である。

 朝、まだ空が白み始めるかどうかという時間に、健康優良児ジャックくんは当然のように目を覚ました。
 俺は当然のようにまだ床に転がっていた。薄暗い部屋の中、ベッドから起き上がったジャックが寝癖のついた頭でこちらを見下ろし、数秒ほど考え込んだあと、本気で不思議そうに眉を寄せる。

「泊まったのか?」

 そうね。不思議ね。俺とお前の部屋、隣だもんな。わざわざ床で寝るくらいなら自分のベッドまでちょっと歩けばいいだけだもんな。でもお前がそれを問うな。昨日の夜、俺が扉へ向かうたびに悲痛な声を上げて引き止めた張本人がよ。

「お前のそのピィピィ言うやつなに? 帰んない方がいいのかなって思って泊まったわ」

「鳴いてねえ」

 即答だった。しかもムッとしている。耳までぴんと立てて、何言ってんだこいつ、みたいな顔をするな。
 俺だってできれば夢だったと思いたいよ。百九十近い大男が毛布の中からピィピィ鳴いていたという事実を、朝一番から改めて受け止めたくはない。

 俺たちが喋っていたせいで起きたらしい同室者の一人が、布団の中から「うるせえ……」と地の底みたいな唸り声を上げ、それからのそのそ身体を起こした。
 寝起きで半分死んだ顔のまま枕元の端末を手に取り、何も言わずジャックへ画面を向ける。俺の位置から映像までは見えなかったが、音量を絞り忘れていたらしく、薄暗い室内へ小さな音声だけが漏れた。

『ぴぃ……』

 ジャックが固まった。

『ぴぃ……ぃ』

 耳が伏せた。

『明日もまた会えるから』

『……ぴぃ』

「あ、俺の声も入ってんじゃん」

「消せ!!」

 次の瞬間、朝イチとは思えない勢いでジャックが跳んだ。
 ベッドが軋み、床が鳴り、動画を持っていた同室者へほとんどボディスラムみたいな勢いで突っ込む。その騒ぎで残りの連中まで起きて、「なんだ!?」「いてえ!!」「端末踏むな馬鹿!!」と一瞬で部屋が戦場になった。

 最終的にジャックは証拠映像を持っていた全員を物理的に昏倒させ、目の前でデータを消させていた。朝っぱらから元気だねえ。俺は毛布に包まったままその光景を眺めていた。昨日床で寝たせいで背中が痛いので参戦する気はない。

 いや、それよりそのピィピィ、獣人の中ではどういう意味があるんだよ。そこまで必死になって消すようなもんなの?

 動画を完全消去したところまで確認したジャックは、耳を伏せたまましばらく俺と目を合わせようとせず、最終的にはものすごく渋い顔で「ガキみてえなことして悪かった」とだけ言った。
 なるほど。なんかベビちゃんムーヴしたんだな? そこまでは分かった。俺は人間なので、それ以上はよく分からない。
 獣人には獣人で、本人たちにしか分からない恥ずかしいポイントがあるんだろう。人間だって寝言を録音されて聞かされたら嫌だし、たぶん似たようなものだ。種族ごとの文化差というやつである。

 ただ、一個だけ純粋に疑問が残った。

「でもジャック、鳥の獣人ってわけじゃないのに、なんでピーピー言ってんだろうな」

「ピーピー言ってねえ!!」

「いや動画に残ってたじゃん」

「忘れろ!!」

 無茶言うなよ。こんな立派な身体した狼の獣人が、寝ながら友達が帰る気配を察知するたびにピィピィ鳴くんだぞ。忘れろと言われたせいで余計に忘れられなくなったわ。

 

 ジャックにはもう一つ、前からよく分からない癖がある。

 俺がシャワールームから戻ってくると、なぜか無言でタックルしてくるのだ。別に廊下の向こうから助走をつけて突っ込んでくるわけじゃない。部屋へ戻った俺を見つけると、すっと立ち上がって近寄ってきて、そのまま胸から肩の辺りをぐいっと押しつけてくるだけである。

 だけ、と言っても相手はジャック・ハウルだ。身長も筋肉も俺とはだいぶ規格が違うので、こっちが「あ、来るな」と察して足を踏ん張っていても普通に位置がずれる。

「ぐふぉ、止めろ。百九十センチがやっていい戯れじゃないだろコレ。見てみろよ、初期値から二十センチずれてんぞ」

 床の目地を指差して抗議しても、本人は悪びれもしない。むしろ何が悪いんだ、みたいな顔をしている。尻尾なんか機嫌よさそうに一度だけ揺れていたりするから、たぶん本人なりに遊んでいるのだろう。ムカつくので俺も負けじと数歩下がって構え、

「ちくしょうオラァ!」

 と肩から突っ込んでみたことがあるが、ピクリともしなかった。俺だけが跳ね返されて終わった。

 なに? 山? 大木? お前ほんとに同じ学生か? こっちはそこそこ本気だったんだけど。
 ジャックは俺がぶつかったところをちらっと見下ろしたあと、「何してんだ」とでも言いたげに眉を寄せただけだった。理不尽である。お前が始めた遊びだろ。

 とはいえ、これだって別にセクハラと呼ぶようなものではないと思う。仲の良いトモダチ同士の戯れじゃないか? 男同士で肩をぶつけたり、プロレスごっこしたり、意味もなく相手の進路を塞いで押し合ったりする延長線上だろう。少なくとも俺はそう思っている。

 

「だから別に気にしてねえって。あれだろ? じゃれてただけじゃん」

「違う……俺は……知らなかったとはいえ……っ」

「何をだよ」

 被害者───らしい───俺がどれだけ言葉を重ねても、ジャックは頑として納得しない。それどころか、さっきから目元を真っ赤にして、でかい拳を膝の上で握りしめたまま男泣きしている。いや泣くほど? 俺、今のところ何をされた被害者なのかすら把握してないんだけど。

「悪かった……本当に……俺、そんなつもりじゃ……」

「許すよぉ。だから泣くなよ~~」

 仕方がないのでまた頭を撫でる。耳がぺったり伏せている。肩まで落として、普段なら何人かまとめて薙ぎ倒せそうな体格の男が俺の前でしおしおになっているせいで、傍から見たら完全に俺がジャックを泣かせたみたいになっている。
 違うからな? 俺まだ何にもしてないからな? むしろさっきまで昼寝してた側だからな?

「なんかこれ、俺がめちゃくちゃいじめっ子みたいじゃん。引きこもって寝てて良かったあ」

「そういう問題じゃねえ……!」

「俺にとっては結構そういう問題なんだよ。ジャック・ハウル泣かせてるところ見られたら、明日から俺どういう顔して歩けばいいんだ」

 しかも本人はこっちが許すと言うたびに余計つらそうな顔をする。なんなの。俺が許すほど罪が重くなるタイプの裁判なのこれ。こっちはタックルされて二十センチずらされてたことくらいしか覚えてないぞ。

「種族的な認識の違いがあると思うから、擦り合わせていこ。じゃないと俺、何に謝られてんのかわからんよ。ぽっけからハンカチ出しな、拭いてやるから。な?」

 そう言って手を差し出すと、ジャックはしばらく俯いたままもぞもぞと制服のポケットを探り、きっちり畳まれたハンカチを一枚寄越してきた。綺麗に洗濯されていて、皺もほとんどない。性格出るなあ。

 受け取ったそれで、座っていてもなお俺より高い位置にある顔を拭ってやる。目尻から頬にかけて濡れているところを適当に押さえると、ジャックはされるがままになっていた。俺のハンカチ? そんなもんねえよ。手なんか制服か隣のヤツで拭うもんだ。そもそも毎日ハンカチを持ち歩くという発想がない。ジャックはそういうところまで健康優良児というか、とにかく俺とは文明レベルが違う。

 

 ひとまず泣き止ませながら、途切れ途切れに出てくる言葉を拾って繋いでいく。どうやら発端はラギー先輩からのおはなしだったらしい。

「ジャックくん、オレからこういうの言われるの嫌だと思うんスけど、マーキングはつがいと二人っきりの時にして欲しいんスよね。ちょっと目立ってるんで、さすがにね」

 たぶん、だいたいこんな感じだったんだと思う。実際その場にいたわけじゃないから細かい言い回しまでは知らないけど、ラギー先輩なら言いそうだ。俺もそうだが、ジャックもこれまで何も考えていなかったので、たぶんそこで素直に首を傾げたのだろう。

「……? なんの事ですか」

 そしてその返答がどうやら完全にアウトだったらしい。

ブラディくんの事っスよ。仲良いのはいいことですけど、『俺のだ、手ぇ出すな、近づくな』って勢いでベッタリにおい付けされると、こっちも居た堪れないんスよ。しゅーだん生活してるんで、そこらへん自重してください! ちなみに無意識でやってんならマジの指導いれますからね。獣人から人間へのセクハラッスよ」

「セ、セクハラ!? 俺はそんなことしてねえ!」

「ですよねえ。だったらいいんスよ。時と場合見てイチャついてくれてりゃ良いんで。ま、末永くお幸せに」

 以上。ジャックの説明を俺なりにまとめると、そんなことがあったらしい。なんだ。要するに先輩から、ところ構わずイチャイチャしまくるなよ、とお小言を言われたってだけじゃないか。そんでジャックは「マーキング」とか「セクハラ」とかいう単語だけ強烈に食らって、俺にとんでもないことをしていたと思い込んでここまで謝りに来た、と。なるほどね。話は分かった。分かったけど。……獣人属視点だと、イチャイチャしてたの、か? 俺たち。

「悪かった、自覚もしねえで、勝手に……!」

「いやいや待て待て、イチャイチャしてたのか!? 俺、獣人視点で何されてた??」

「お、おれ、が」

 膝の上で握りしめられた拳が震えている。怒り? 怒り? 頼む、羞恥であってくれ~~! ジャックがキレた場合、俺に勝利の目は一縷もないのよ。
 そもそもこいつのタックルにこっちから全力で突っ込んでも一ミリも動かなかった実績がある。怖い。とりあえず怖いので、そのでっかい拳を上から両手で包んで見えなくした。見えないものは無いものなので……。

 すると触れた瞬間、ジャックの全身がびくりと大きく震えた。何事かと思ったが、それまで引っかかっていた呼吸が少しずつ整い、途切れ途切れだった言葉も、ゆっくり形になっていく。なんだ。落ち着くのか。じゃあ握っとこ。

「……俺、が、シャワールーム帰りのブラディに、勝手にマーキングした」

「マーキング、とは?」

「……自分のにおいとか、つけて、俺のものだって、いう……」

「俺ジャックのものだったの!?」

「ちげえ」

 違ぇから、ごめん。そう続けた声が情けないほど掠れた。あとはもう鼻をすする音ばかりだ。
 俺が両手を押さえているせいで顔を隠すこともできず、行き場をなくした涙がそのまま頬を伝い、ぼたぼた落ちて俺の手の甲に当たる。マジ泣きじゃん。ええ……そんなやばいことなの……?

 俺の認識ではシャワー上がりに毎回でかい狼が無言でぶつかってくる、くらいの愉快な習慣だったんだけど。獣人社会では思ったよりずっと意味が重かったらしい。

「いや、よくわかんないんだけど」

「……」

 ぐすん。ぐすん。やめてくれ、その音。完全に俺が子供を泣かせてるみたいじゃん。ものすごくいたたまれない。いや、あの、違うんだって。責めたいわけじゃなくて。むしろ今まで聞いた話を全部並べてみた結果、俺の中では別方向の疑惑がものすごい勢いで育ってるんだけど。

「試しに『ブラディが好きだ』って言ってみてくんない? たぶん悪いようにはならないと思うから」

「……」

「ジャックがそれ言ったら、『俺もジャックが好きです』って答えて、お前が今ここで泣いてる理由が全部合法化する訳だけど。どう?」

 ようやく顔を上げたジャックは、信じられないものを見る目で俺を見つめていた。

 いや、そんな顔されても。俺だって普通の友達とこんな距離感にはならんよ。友達が帰ろうとしたら寝ながらピィピィ鳴いて引き止めて、シャワー上がりを狙って自分のにおい付けて、触られたら呼吸落ち着いて、挙げ句それが恋人だのつがいだのにする行為だと知った途端に男泣きだろ。

 ここまで材料並べられてなお「友情ですね」で片付ける方が無理あるわ。自覚したんならラッキーじゃん。知らないまま卒業までタックル続けるより百倍いいだろ。ほら、何固まってんだ。いつもの男気見せてみろ。

「……ぴぃ」

 正面から聞こえた、聞き覚えのある小鳥みたいな声にとうとう笑ってしまった。起きてても鳴くんじゃん。俺はジャックの拳を包んだまま、逃げ道を塞ぐようににやにやしてその続きを待つ。そら言え。今さら逃げんなよ。いつまででも待っててやるからさ。

 

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