三年寝てた間によほど高性能の点滴を受けていたか、治療系個性持ちの誰かがいたのか、何らかのご都合主義か、ことが起こる前に鍛えすぎてたおかげか、ちょっと前に目覚めたという燈矢くんは少し体力が落ちたくらいでピンピンしていた。といっても、全身にガタが来ていて前よりも火力が落ちてるし身体も全部ダメになっているらしい。
「みてよ陽火くん俺すごい火が出せるようになったんだぜ。ねえ見て、ほら普通より熱いんだすごいんだ。見て。ねえ、見ろよ。おいこっち見ろなんで無視すんの」
「安全運転させてくださ~い。久しぶりの再会なんだから落ち着いたところで話したいのは俺だけなかんじ?」
徒歩移動はさすがに無理だったので、そこらの人から車を貰って移動してるけど隣のメンヘラ彼女(実兄)が車内で炎出して恫喝してくる。普通に事故るからやめてほしい。
前世で習得済の運転技能が役に立つタイミング、車校行く以外であったんだな……。安全運転しておけば目立たないからいいだろうとは思っていたけど、燈矢くんが想像以上に見た目も声もやかましいから軽自動車だと不信感漏れ出てしまう。あと運転席見られると終わる。年齢にしては背が高い方だけど、普通に俺9歳なので……。案の定、驚いた顔をした白バイに止められて粛々と指示に従った。
「き、きみ! 個性じゃないよね? 子供……だよね?」
人の良さそうな優しそうな警官が心配そうに駆け寄ってくれたので、窓を開けて返事をした。
「『お願い』みのがして」
「ああ勿論だ! ここは私に任せてくれ。さあ、早くいきなさい」
「ありがとう」
はい終了。胸の前に出していた小さな灯火。俺の個性が消え掛けるように揺れていたが、警官と離れた瞬間いつもように元に戻る。
「……陽火くんの個性って、火をつけるだけじゃないのか?」
「火をつけるのは副産物ってかんじだね、そういや燈矢くんがいなくなってからいろいろ分かったんだった。聞く?」
「きく」
俺を見ろ俺の話を聞け俺を認めろとメンがヘラってた燈矢くんが大人しく傾聴の姿勢になったので、治安が悪い方向へ向かって車を走らせながら話を続ける。
俺の個性『灯火』。ちいさな炎を出すだけ。
轟家に生まれたにしては火力も無い、まあ一般家庭によくいるタイプの個性だった。これは個性発生当時に病院で出た結果。燈矢くんも俺の個性っていったらここまでしか知らない。
ただこれ、物理的じゃなくて人のメンタルに影響を与える炎だったんだよな。
強い光を放つ灯火は誰が見ても「安心」「落ち着く」「癒やされる」と感じ、ストレスや恐怖、怒りを緩和する。炎の光の強さで相手の精神が安定する効果がある癒し系なだけのよわよわ個性。
だが、陰り、消えかけた灯火は見る者に「この火が消えてはいけない」という衝動を起こさせる。それは同時に「この存在が壊れてはいけない」「守らなきゃ」「願いを聞かなくては」という強い依存に繋がる。誰かが追及や攻撃を加えようとすると、その者自身が「やめたくなる」ようになる。消極的洗脳とか思考誘導が個性の本質だった。
自ら望んで俺を守護する選択を選ぶようになる弱者の聖火。もちろん戦闘能力はないから、やっぱりエンデヴァーが望んでるようなものにはなれない。
まあ、親が違ったらメンタルケア特化型のヒーローとか目指しても良かったかもな。必要だろ、そういう存在。
「今使ったのは人の善意にタダ乗り出来る催眠って感じかな。
俺がよほど悪いことをしてない限り、相手に正義感があって弱者を守りたいと思えば思うほど効きがよくなるんだよ。ある意味ヒーロー殺しかもしれないな、この個性」
みのがしてとか助けてだと効きやすい。そして自分の自由意志で選択して行動するから個性にかけられたという自覚もない。勝手に黙秘してくれるし勝手に誤魔化してくれるから、妖怪でいうとぬらりひょんとかそういう存在っぽいな。
俺の説明を聞いていた燈矢くんはさぞかし雑魚個性と思っているだろう、火力崇拝人間ゆえに。そう思っていたけど、俺の考えと反して燈矢くんは「陽火くんに似合うやつだ。優しい人しか使えないやつ」と毒も棘もない感想をくれた。
驚いて横を見ると、火傷でひきつれた上に金具で固定されてる見覚えのない顔なのに、赤ん坊の俺を可愛がってくれていた時みたいに『お兄ちゃん』の顔をして笑っている。
「……そういや言い忘れてた」
「なんだよ」
「おかえり、とやくん」
直後、横から抱きつかれた俺は思いっきり運転を誤って計3台を絡めた衝突事故を起こし、全てを誤魔化すために燈矢くんの炎で辺りを灰燼に帰して逃走を続けたのであった。これ俺も殺人に関与するに入ってますか? まだ己の感覚としては被害者の気持ちなんですが。
また別の人に借りた車はオープンカーで目立つのですぐに変える予定だけど、燈矢くんはご機嫌に「陽火くん、楽しいなあ! 俺たちおんなじ地獄に落ちようなあ!」と笑っている。俺も地獄に落ちるんですか? まあいいけど……。
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轟家 without なつくんふゆちゃん母さん だけ見逃して、エンデヴァーと焦凍は一緒に地獄に引きずり込む予定らしい。もうそれエンデヴァーと焦凍だけ殺す! と言った方が楽じゃないか? どうしても轟家の枠というものを強調したいの? そう……。あとあの、なんで俺も地獄に……? いいけどさ……。
かつて小さな宗教施設だったところを頂いて拠点にして、俺と燈矢くんは潜伏することにした。全身ズタボロの3年寝込んでた燈矢くんと、普通の9歳児の俺二人で何ができるかって言うと何も出来ないんスよね。普通に生活してるだけでも衣食住どうすんだよという。
たぶん俺が居なかったら、燈矢くんは暴力と強奪で生きてきた……生きれるかあ……? まだ後遺症かなにかで夜な夜な熱が出てるし、自分一人だとまともな飯も食べないで過剰鍛錬で焼けて帰ってくるような精神年齢13歳の16歳が……ひとりで生きていけるかあ……?
公式、そこのところどうやってたんだよ。くそっ、俺がヒロアカを全部履修さえしていれば謎も解けただろうに。誰かこの空白期間を埋めてくれる支援者とかいたのかな。
おじさん曇らせの部分と映画とヤクザが出てきたあたりまでしかわからない……! ヒロアカのおじさんがもっと曇っていたら情報も増えたのに……! ジャンプにおけるおじさん曇らせはONEPIECEが強すぎる。おじさんの曇らせと尊厳陵辱について楽しげに毎日数間語ってくれていた友人、あいつこそが転生者になればよかったのに……。いや、ダメか。世界に対する毒にしかならない。俺の方がまだマシだという自信はある。
おじさんじゃなくても名誉曇り人の称号を受けてる若者の情報も多少は得ているが、それは進撃の巨人のライナーが強すぎるんだよな……。確かいたはずなんだ……ヒロアカでも名誉曇り人が、確か……へそからビームを……何言ってんだ俺は……? 爆豪くん(この子はある程度覚えている)も曇り人の素質があったけど「光が強すぎる」という理由で却下されてた。却下すんなよ、たぶん彼物語の根本にいるやつだろ。
テレビではNo.2の身に起こった悲劇を連日報道している。数年前に長男を失ったあと、三男まで誘拐されて行方不明に。炎に焼かれた裏路地からは三男の通学鞄だけ半分燃えた状態で見つかったらしい。本人の状態がわかるものは何一つなく、エンデヴァーは自ら捜索隊を組んで息子を探し続けているんだそうだ。
それにしては全然俺の情報が引っかからないが、仕方ないだろう。俺は『善意の第三者』を量産して彼らが勝手に情報を秘匿してくれてるし、そもそもエンデヴァーが使える人材って彼に倣って火力至上主義ばかりだ。誘拐された子供の捜索が出来るような個性を持ってる人たちは、日本ではなかなかヒーローにはなれない。
そこら辺はアメリカに先をいかれているんだよな。いや、犯罪の方向性の違いか? 向こうは誘拐や行方不明者が多いから、専門チームが作られてる。アメリカ合衆国ヒーロー庁直属の特殊部隊。目的は「失踪者の捜索と保護」のTRACE-0。格好いいんだよな彼ら……日本もああいう戦うことだけじゃないヒーローのチームってないかな……。災害救助系のヒーローたちも結局戦えば普通に強い人達が敢えてそれを選んでるだけだから、戦うに向いてない個性の人達はヒーローになりにくいんだ。
俺が遠い海の向こうのヒーローに思いを馳せていると、燈矢くんがドロっとした目をして「陽火くんはいいなァ」と全然そう思っていないであろう声で言った。少し目を離したらまたメンがヘラってる。
「陽火くんは探してもらえていいよなア、俺は簡単に諦められて忘れられたのに、お父さんは陽火くんのことはずっと探してるんだぜ? そこまでしてヒーローの建前を守りたいんだ。一生懸命探しています心配しています大切な我が子ですってさぁ。俺は覚えてるぜ、陽火くんの個性がわかった時のエンデヴァーの顔。俺と同じものを見る目だった。最高傑作にくっついてきたオマケの、どうでもいいものを見る目だ。
俺はオマケでも大事にするから安心してくれよ、グリコのおまけだって大切に集めてたの知ってるだろ? エンデヴァーと違って俺は本当に陽火くんのこと大事にしてるんだ、こんな口だけのやつとは違う。そうだろ? なあ、おい、こっちみろ。おい、おい!」
「長い長い長い、疑ってないんだから勝手に怒るのやめてって。そもそも俺が家よりとやくんの方選んだからここにいるんだろ、逃げる気ならいつでも逃げられたんだぞ俺は」
「……そうなの?」
「そうだよ」
親切な人から貰った応急処置セットで、新しく出来た燈矢くんの火傷を処置していく。勝手にヒートアップしたせいで体温がめちゃくちゃ上がってるけど、これ内部燃え続けているんじゃないか? 内蔵の構造どうなってんだよ。
「とやくん、あの時俺が居なけりゃ死んでた命だろ。死ぬまでそばにいてあげる」
「ほ、ほんとに? ……ずっと一緒にいてくれんの」
「いいよ」
「無理やり引っ張ってかなくても、俺の事、選んでくれる?」
「いいよ」
「お父さんが帰ってきてっていっても、俺のとこにいてくれる?」
「いいよ」
燈矢くんの顔がギュッとなって黙り込んだ。なんだと思ったけど、もしかすると涙腺焼けてるから涙でないやつか? ドライアイ用の目薬もらって来なきゃだな。
「陽火くんだけだ」
噛み締めるように言って抱きついてきた燈矢くんの背中を、いつかと同じように「いい子いい子」と撫でる。肌一枚向こうが燃えるように熱い。熱が出てるなあ……。
燈矢くんが居なくなった時も、エンデヴァーは今と同じように探してたよ。たぶん、俺よりも必死だったんじゃないかな? ニュースに出てるものしかわからないけど、燈矢くんは過去とはいえ期待していた息子だし関わってきた分、俺に対するより深い情があったと思うし。
ただ、骨が出てきちゃったからなあ。DNA鑑定で、死んだと思われちゃったから諦めてしまったんだと思う。ヒーローって常に命の選別する立場だから、普通の親とは違って諦めの良さが出てしまったんだろう。
俺も腕のひとつでも置いておけば殺されたというパターンでそのうち諦めてもらえただろうけど、多分今頃自称誘拐犯からの身代金要求とかが山のように届いてるんじゃないかな。愉快犯とか、普通に頭がおかしくて自分がやったと思い込んでるやつとか。
No.2の息子なんて恨みを持つものでも金目当てでも価値があるから、生きてる状態で攫われたらギリギリまで生きてると思って探してしまうだろう。生かすことで利用価値が出来るから。
父さん曇らせで無限に違法児童ポルノとか違法スナッフフィルムとかが山のように事務所に送られてそうだな……。まあ……うん……そんなに話したことないし、父さんって呼ぶよりエンデヴァーっていうほうが多かったくらいの関係だし、早めに諦めてもらって……。最後にエンデヴァーもとい父さんと話した会話ってなんだったっけ。父の日に学校で書かされた手紙をあげたくらいか? 今のご時世片親家庭も多いんだから配慮が足りないよな。
なんて書いてたっけ……。忘れてるくらいだからまあ……いっか。
