「『私にだけ優しい殺人鬼概念』、連合だとよりどりみどりじゃないかなと思ったんだけどたぶんほとんどダメだよね?」
「何それ私そんな怖い概念知らないです」
ふと思い立った話題だった。SNSの話題は定期的に一周する。トガちゃんがメインで使っているSNSでは、こういうオタクっぽい話題は出ないらしい。「私それ知らなぁい」というので、「正しいことだよ、ろくでもないSNSに触ってない証拠」と全肯定しておく。
そもそも、この概念自体、トガちゃんの好みとは微妙にズレている気がする。『血の匂いがする人が好き♡』ではあるけれど、“私にだけ優しい”という一点を特別視するタイプには見えない。
たぶん、もっと振り切れているものが好きだ。全員に優しいとか、全員に平等に残酷だとか、そういう極端さの方が刺さりそうである。選り分けて甘い、みたいな湿度の高い執着より、もっと本能的で、衝動のままのものの方が良さそう。
「自分のことだけは殺さない殺人鬼がいちばんメロい? みたいなかんじ」
「こわ~い! 私、あかりくん殺さなかったよ。メロい?」
「メロいけど一度もナイフを下ろさなかったからなあ。運良く見逃されただけだから……」
治安悪い組織だから殺人鬼ならよりどりみどりだけど、普通にみんな、殺すから……。
「だびくんは俺にだけ優しいから可能性いちばん高いけど、これは俺の普段からの努力の綱渡りにより正解のクジを引き続けてるだけ。
弔くんは俺にだけ優しいけどこっちも選択肢ミスったら頭鷲掴みにされて物理破壊ルートがある状態を生き残ってるだけ。
せっせと関係値上げて役割を得て今の状態だから多少のドジもマヌケも許されてるだけで、案外いないもんだよな。『私にだけ優しい殺人鬼』」
「仁くんは?」
トガちゃんが興味津々という顔で身を乗り出す。そこで一瞬だけ考えて、でもわりとすぐに首を振った。仁くんはね、優しいもんな。俺もトガちゃんも仁くんのこと大好き。しかしそれはそれとして話は別だ。
「人格のどれかが責任取って始末しそうだから……。仲良しだから俺に甘くしてくれてるだけで、仁くんも普通にタチの悪い輩だからね。この前金持ち逃げしようとした下っ端、顔面の凹凸なくなるまで壁で削ってたし」
「あはは、こわ~い!」
トガちゃんが手を叩いてキャッキャと笑う。
ちなみにここは拠点なので、話題に出した“私にだけ優しい殺人鬼失格”の皆様もここにいます。本人を前にして言ったら悪口じゃないだろうの精神だ。
スピナーが納得いかないという顔で「なんで俺もいっしょくたにされているんだ」と言っていたが、「全てをステイン関連に捻じ曲げて殺しに来そう。『私にだけ優しい殺人鬼』にはなれません」と腕で大きくバツを作っておいた。否定できるか? できないでしょう。そういうことです。貴方は自己の価値基準を外部の大義に預けやすい男。そこが良いところなので伸ばしてください。しょっぱい顔してるの、可愛いね……。俺はスピナーのこと好きだからそれでチャラとしてくれ。
俺たちが騒いでる場所から少し離れて、仁くんとミスターがこちらを眺めていた。いや、眺めていたというより巻き込まれないように微妙に距離を取っていた、が正しいかもしれない。
仁くんが「高校の時にカースト上位のやつが俺の事話してるの、寝たフリしながらなんとか受け流したこと思い出した」と恐れの表情で言う。聞こえてますよ。そしてミスターが「ああ、あの寝たフリって結構わかるよ」と上位側視点で教えてあげていた。スクールカースト上位だったんだろうな……。
ヴィラン連合に『私にだけ優しい殺人鬼』になれる人材が一人もいないことだけ分かったが、後日俺の実年齢が発覚してからはより甘やかされるようになった。
たぶん実兄との関係が労しいため同情されているんだろう。なんとこの組織にも、同情という概念はあるんですよ。
仁くんの前で「あるきたくない、だっこ!」とふざけたら、おもむろに持ち上げようとはしてくれた。すぐに「なげえな、あとは自分で立て」と物理的に無理なので諦められたけど、抱き上げるくらいはしてやろうとしてくれたのだ。思ったより俺が長くて無理だったけど。
そして調子に乗った俺は弔くんにも同じウザ絡みをし、「おう、落ちないようにぎゅってやってやるよ」と五指を使う素振りで抱き上げられかけたので、「申し訳ありませんでした己で立ちます」と瞬時に謝罪と共に起き上がった。
この軽口が言える関係性ってだけでもだいぶ甘い対応していてくれていると理解しております。ありがとう……。本来なら予告なし顔面鷲掴みだっただろう。やっぱもしかして弔くん、俺にだけ優しい殺人鬼かもしれない。即殺されないあたりベタ甘対応してくれている。メロい。メロいか……? わからん……。
インターネットのオタクたち、本当にこれがメロいと思っているんだろうか。普通に、ヒーローとかそういう系の優しい人間の方が安全だと思いますよ、ほんと。
