「燃えて死ねよ」
動かない、動けない男たちが蒼い炎に包まれて黒い灰になって消える。実兄の楽しげな殺戮祭りを背後の安全なところから「すごいすごい」と手を叩いて褒め散らかしていた。
やって参りました、ここはアレの実家である零細敵組織! 個性の本来の使い方ではなく、やばいものの運搬として出入りをさせられていたアレは遠くに捨てられてもここに帰って来れちゃうんですよね……。とどめを刺さなかった己の迂闊さを恥じて欲しい。
そこに、個性:ゴースト。つまりオバケが出来ることはなんでも出来てしまうオバケくんの『金縛り』で出会い頭に身体を捕縛。特に鍛錬もしていないただ強個性というだけのオバケくんの個性を弾けないのは、こいつらが本当に弱いという証拠だろう。めちゃくちゃ殺人をするから一応一般人であるオバケくんは連れてくるか迷ったけど、連れてこなかったら俺の個性の効果が無くなって心神喪失が復活して死にそうだから「悪いやつらをやっつけよう!」と言いくるめてつれてきた。早めに個性の遠隔操作方法を手に入れたいな……。
「知り合い残ってた?」
「少し、しかし、小さい子はいない。遅かった、悲しいことに」
『売れ残り』だけ残って、あとは在庫処分したばかりか。もう少し早く来ればよかったかなと思うけど、タラレバの話をしてもしょうがないか。
「じゃあアレはその人たち避難させてて、オバケくんは俺と一緒にきてとやくんのお手伝いね。がんばれる?」
「うん、うん、俺がんばれる! 悪いやつらやっつけるの手伝うよ! サイドキックする!」
「本当に助かるなあ、オバケくんがいないと大変だった」
「えっへへへ」
ママを目の前で剥き出しのまま荼毘に付した時から順調に精神がバグったオバケくんはちょっとだけ精神が退行しているらしい。外見で年齢があまりわからないけど、だいぶ無邪気だ。なんか幼気な子供を誑かしているような気になるから心苦しいけど、本当にこの個性:ゴーストって強いんだよな……。壁1枚なら通り抜けられるし、少し浮けるし、金縛りで行動制限かけられるし、恐怖で混乱させられるし、幻覚をみせられる。本当に、ヒーロー向けの個性だ。
特に声を殺してもいないので、侵入者に気づいたやつらが階段を駆け下りてくる。その階段の下にいたオバケくんが冬の木枯らしのような音を喉から零すと、それは金縛りを誘う呪いの言葉に変わる。そして動けなくなった男たちを燈矢くんが階段を一段一段登りながら燃やすという作業だ。俺は1番安全なところから2人を「すごい! たすかる! がんばって!」と鼓舞する係を担当しております。
燈矢くんとオバケくんは友達じゃないけど、燈矢くんの弟は俺でオバケくんの友達も俺なので一旦俺を介さないと円滑な意思疎通が不可能だからです。燈矢くんはオバケくんを威嚇するし、オバケくんは燈矢くんに怯える。
これにアレを足すと、燈矢くんはアレを威嚇するけどアレは燈矢くんの機嫌を気にしないので逆に燈矢くんがストレスで弱るという図になって車移動の時『川渡り問題』みたいなものが発生した。運転席俺固定、助手席燈矢くん固定じゃないと誰かが弱る。車移動がメインなので拠点の確保が急務となった理由がこれだ。俺たちのストレスのない平和な日常の為に、零細ヴィランたち、安らかに死んでくれ。
カツンカツンと古い階段を叩く足音。染みるように火が床を這う。ぬるりと濡れたように広がる青い光。ただ足跡のように火だけが上がりそして消える。
金縛りにかかった男たちは、まばたきと唾を飲むことくらいしかできていなかった。筋肉がこわばり、息が上がっても、動けない。喉の奥で「やめろ」と鳴らしても、季節外れの木枯らしに遮られて誰の耳にも届かない。
火は突然広がるのではなく、粘るようにゆっくりと、まるで考えているかのように、迷いなく喉元に達し、頬を舐め、眼窩を抉る。最初の男の瞳が、焼ける音もなく潰れていくのを、眺めていた。猫が戯れに食べる気もない獲物をいたぶるようだなあ。
また1人焼きつくされる。皮膚が、肉が、骨が。順に薄くなるように、欠けていく。苦悶も、悲鳴も、痛みも、声にできないまま、ただ焼かれる。
空気を割く音もなく、鮮やかな蒼い光が男の腹をくぐると、内臓が音もなく破裂し、下顎ががくりと落ちて崩れた。まだ生きているのか死んだのかも分からないまま、男の輪郭が曖昧になり、突然白い灰に変わって崩れ落ちる。
次の男の背中から上にかけて、炎が弾ける。水分が一気に蒸発する音がして、皮膚が風船みたいに張って、裂けた。血の色が見えた瞬間、蒼い火がすべてを飲み込む。崩れる音が続く。火は止まらない。
チカチカと点滅を繰り返す安い明かりを塗り替えるように蒼が輝いて綺麗だ。まるで踊ってるみたいだなあ。あと人間も焼けると結構美味しそうなにおいがするということがわかった。焼肉食べたい。俺だけ特に何にもしていないが、アレと『売れ残り』の人達から聞いた情報に照らし合わせてあと何人殺せばいいかの計算だけはしっかりしている。あと一人、一番偉いんじゃなくて一番逃げ遅れただけのやつで終わる。
監視カメラが何個もあったから、何が起こっているのかは分かっているんだろう。屋上の小さな小屋は、ドアの向こうに無理やり家具を重ねて開けられないように涙ぐましい努力がされていた。本来ならただの事務所なんだろうな、逃げるなら出口に向かえばいいのに、どこにも行けない場所に取り残されている。子供が2人と異形型が2人というのは舐めてかかりやすかったのかもしれない。逆に考えれば良かったのにな、こんなところにわざわざくる子供がまともな要件で来るはずないのに。
カチン、ドン、ドサドサ。
「鍵開けたあ」
えっへへへと笑いながらドアの向こうから通り抜けてきたオバケくんのおかげで、特に力ずくになる必要もなくドアを開けられた。鍵を開けて、積み上げられた家具を倒す。それだけで終わった必死の抵抗だ。机の下に隠れた男が金縛りで動けない身体のまま指先だけを震わせて、抵抗の意思を見せた。
のそのそと歩みを止めることなく近づいた燈矢くんがふと、そいつの顔を覗き込んだ。
何か言った気がしたけれど、音は聞こえなかった。いや、そもそも言葉だったのかも怪しい。ただ息を吐いたような仕草のあとで、火が爆ぜた。
全身から同時に吹き出した蒼炎が、骨の芯まで焼き尽くし、男を塊のまま炭にする。
こうして全員が消えた。
燈矢くんが、ゆっくりと振り返る。火が消える。残光が尾を引いて、髪がかすかに揺れる。
その顔には、満面の――というには少し湿った、でも確かに笑みが浮かんでいた。
火傷で歪んだ唇がひきつって、精神の歪みも表してるようなニタニタとした笑顔で、場違いに甘ったるい声がする。
「陽火くん、俺、上手にできただろ」
ちゃんとおねがいきいただろ、ほめて。とホカホカになった身体で擦り寄ってくるのを受け止めて「とやくんに頼んでよかった! ありがとう、たすかる!」とハグしたまま頭をわしわし撫でる。耳元からは満足そうに「陽火くんの本当のおねがいを聞けるのは俺だけだもんな、これからも便利に使って。なんでもやってあげる」と実兄が言うにはあまりにも歪んだ献身の言葉が垂れ流されて聞こえるが、実際本当に助かった。事業の売買でもするつもりだったのか、わかりやすい位置に大切そうな書類が並んでいる。トカゲの切られたしっぽが猫のおやつになったって誰も気にしないだろう。
こうして俺たちは元零細敵組織の拠点であった廃団地を我がものにすることに成功したのだった。解体間近の廃団地を買って改装した人がいただけですよ。
怪しいやつらが出入りしていた治安の悪い廃団地は修繕されて、【すみれ平団地】という名前をつけられて普通に人が住んでいる。異形型個性の人が多い気がするが、偶然偏っただけだろう。団地の中に作られた小さな公園では子供たちが遊んでいるし、地域の祭りに積極的に参加するような協力的で穏やかな住人が多く住んでいる。平和でハッピーな団地だ。
地下には怪しい謎空間もあるし出口は複数用意されているし、俺と燈矢くんはその地下で快適に生活している。人の善意に寄生する形であるのは変わらないけど、規模がでかくなったおかげで全部を隠して貰えるかたちになった。
かつてここに暮らしていたという老婆が最初だった。手に皺を刻んだ白髪の人で、「昔は教師をやっていてねえ」と語る彼女は、自分の息子が異形型だったという話をしてくれた。
息子はもういない。この団地にだって良い思い出なんてなかった。ただ、子供がいたときの記憶だけがある。だから追い払われるように引越しをさせられたあとも時折やってきて、誰も近寄らない治安の悪い廃団地を眺めていたという。──────じゃあもう一度ここに住めばいいのでは? 家賃の代わりに管理を『お願い』と、目の前の灯火を揺らして管理人を手に入れた。俺はただ、あげただけだ。温かな光を、そっと、瓶に詰めて。
それだけで、その人は“すみれ平団地の管理者”になった。
笑うようになった。顔が明るくなった。近所のスーパーで「団地が新しくなったんです、見にきませんか」と人を誘うようになった。話がうまく、言葉に説得力があった。元教師ゆえに人徳があった。人が人を呼んだ。
やってきたのは、どこかに歪さを抱えた人ばかりだった。
異形型、訳あり、家庭不和、障害、孤独。社会が彼らを切り捨てた結果、ここに流れてくる。ここでは、そういうものが“見えなくなる”。
個性の影響で外見が変わっていても、生活に制限があっても、周囲と同じように笑って生きていける。
団地の空気は、まるで保護色みたいに彼らを包み込んだ。
俺が灯火を分け与えれば与えるほど、この場所は安定していった。精神の不安定さが静まり、夜眠れるようになったと言う者、食欲が戻ったと言う者、死ぬのをやめた者。
俺の炎は、もともとそういう力を持っていた。明るさと、温もりと、ちょっとした幸せを錯覚させる力。そしてそれが揺らぐ事で与える不安と恐怖を煽る力。
ここにいずれ日本中をめちゃくちゃにする怖い怖いヴィランがいるなんて、誰も想像もしないだろう。そのヴィランに囚われている可哀想な子供がいたなんてありえないだろう。
こうして俺たちは一時的な安住の地を手に入れて、たくさんの無自覚な支援者に守られることになったのだった。平和な数年間を過ごさせていただいております。これならいつ原作が始まっても安心!
「ところでさあ」
「どうしたの」
「俺を神とする宗教の信者が3000人を超えたらしいんだけど」
「待って知らない、前提が分からない」
「あ、言わなかったっけ。俺を神とする宗教が法人化してね……」
「陽火くんを神とする宗教があることを前提にしないでくれ」
「詳しくはこのパンフレットの概要を読んで貰って」
「面倒がらないでオニイチャンに詳しく話して……」
なんか俺、カルト教団の教祖としてヴィランネーム付けられて指名手配されてるんだけど、正体隠してるのにこうなるのなんなんですか? 日本のヒーローは優秀すぎて困る……。あと俺別にそんなに悪いことしてない……。息子2人大型ヴィランってこれだけでエンデヴァー曇りきるような気もするが、どうだろうな。そこのところ。原作が始まる日がちょっと怖い。
