自慢じゃないが、人生において貧困を味わったことがない。No.2ヒーローの屋敷で教育方法に難ありと言えど健やかに成長した幼少期、実兄による連れ去り事件の間には他者の善意に全乗っかり出来る己の個性を駆使して、扱い自体は浮浪児と同じなのに次々新しい拠点を得て衣食住全てをそこらの人が快く我ら兄弟に貢いでくれた。
定住先を作ってもそれは基本変わらず、成長した実兄が暴力と強奪で手に入れた現金を「これ今日のお小遣い。ゲームとか漫画とか、好きなの買いな」と邪悪な献身で貢いでくれたので、俺の望む欲しいものは全て何の努力もなく手に入る、俺が前世である程度労働の苦しみを知っていたからこそ人生舐め腐りクソガキにならずに済んだというだけの非常に危ない生き物に成り果てていた。
毎日安全な拠点ですやすや休み、清潔な衣類を着て、食べたいものを食べる。そんな毎日を兄弟で過ごさせていただいてるわけですよ。ヴィランなのにな。
でもそういう生活を当たり前のように享受してきたので、連合メンバーの食生活を聞いたらもう……なんか……辛くってえ……!
弔くんの食生活がヤバすぎるというのは事前に知ってた。ゲーム友達だった時には既に食生活三食グミとかだった日もあるってわかってた。あの頃はダウナージョークだろと思っていたが、事実だったんだろうなと確信できてしまったのがキツイ。
上着で着膨れてるだけで本当にうすい……身体が……近接ファイターの身体じゃない……。
俺が何年もかけてどれだけカロリーもエネルギーも消費しても間に合うように食育を続けた燈矢くんは、こんなに薄くない。住む場所も無く逃亡生活を続けていた時は、同じものを食べているのに物凄い勢いで痩せて行ったので腹に虫でもいるのか、さすがに医療機関じゃないと確認難しいな……スカトロ(大)は俺も嫌だし燈矢くんも嫌だろうな……と、だいぶギリギリまで覚悟決めかけたが、鍛錬・個性使用・体内の怪我修復で毎秒人の何十倍もカロリーを消費する燃費悪すぎ人間になっていただけだった。
なので高カロリー高栄養を意識した食事を食べてもらいつつ体重を維持したおかげで、たぶん燈矢くんは原作よりガッチリしてると思う。実父の遺伝子が強いのでうちの男はみんなでかくなりがちだ。俺が細いのがおかしい。なんでだろうな、細身のせいで背が高いのもプラスにならずに「長い」という印象しか与えられないんだよな……。スタイル良くなりたかったな……。
思考を戻して、ソファに寝っ転がりながら死んだ眼で好きでもないパズルゲームをするという無為な時間の消費をしている弔くんを観察する。
横になったせいで重力に従いペッタンコになってしまったお腹だ……可哀想に……。薄っぺらいシャツをまくると、腹筋が割れてるのがわかる。鍛えているけど、これは単に肉が少なくて見えているだけ……。腹筋は全ての人間が割れている……。燈矢くんは“肉を削られるように痩せた”みたいなかんじだったけど、弔くんは“生まれてから一度も肉がついたことがないような薄さ”ってみたいだ……。子供を引き伸ばしたってかんじ……。
なで……さわ…さわわ…… 。
「おいオニイチャン、てめえのオトートがセクハラしてんぞ!!!」
俺が悲しみと同情と労りの撫でをしていたら、ギャンッッという勢いで耳元で怒鳴られた。ウワうるさ、と思う前に同じ部屋にいたせいで直通でクレームをいれられた燈矢くん、もとい荼毘くんが遠くに座ったまま「誘ってんじゃねえよアバズレ野郎」と普通にライン越えの罵倒で殺し合い手前に行った。お互いソファから立ち上がり全てを破壊するバトルが開始されかけ、黒霧の全力仲裁がフィールドを支配する。でも、それよりもさあ!
「弔くん薄すぎない……!? 今日グミ食べてる姿しか見てないけど朝ごはんと昼ごはん何食べた……!?」
「グミとぷっちょ」
「カロリー食べなよ!!」
「ねえよ」
「貧困」
「あ?」
荼毘くんが嘲笑と共に貧困煽りをいれるのでまた喧嘩がはじまったが、俺がいないところだと意外にも喧嘩せずやれているらしい。このフィールドにおけるデバフは俺だが、今のところ喧嘩での死傷者は出ていないので許して欲しい。3人くらい死んだら俺だけリモートワーク駄目かって聞いてみるね。
前々から思っていたけど、連合拠点には食べ物が本当にない。給料も出ない癖に食べ物すらない。法律が守ってくれないとこんな事になるんだな……。
これで弔くんだけは札束風呂に入り美女を侍らせているという流れならまだわかるが、弔くんはガチャガチャで8000円つかったから新しい服が買えないというタイプの、金もないし金の使い方もおかしい子供大人青年だ。
俺が…俺がごはんを食べさせるしかない……! インターネットが言ってた、日本人の多くは人になにかを食べさせることをアイラブユーの代わりにすると。これが俺のアイラブユーじゃい!
という訳で、別に頼まれてもいないけど勝手に食事担当になった俺だった。多めに作って冷凍しておけば、俺が居なくても弔くんも黒霧も勝手に食べてくれるだろう……。
ミスターあたりは俺のことを調理人採用だと勘違いしているらしく、食べたいものをリクエストしてくれるから助かる。弔くんに何食べたい? って聞いても、出てくるのは「なんか美味いの」だけだから……。好きな物をきいても無いとしか答えないが、ハンバーグとかカレーとかを出すと反応がいいので分かりやすい・味の想像がつくものが好きなんだとおもう。
ちなみにミスターのリクエストはだいたい弔くんの好みには合わないので、弔くん用に別の味付けをする必要がある。一番偉い人だから特別扱いだよと言って納得してもらっているので問題は無い。おじさんと若者の味覚ってズレてるって言うしな。
今日は何作ろうかな、一応なんでも作れるくらいには食材あるけど……と、最近買ったレシピ本を適当に開いて眺めていたらトガちゃんとトゥワイスが帰ってきた。
ドアベルが狂乱の動きをして鳴り響き、元気な声が飛び込んできた。
「あかりくん、ただいま。任務完了です」
「やったぜ! おれたちのコンビに任せりゃ百戦百勝ってもんよ! 見てごらんこの満身創痍!」
ニコニコのトガちゃんが血まみれの袋を引っ張ってきて、後ろからトゥワイスと個性で増やされた誰か(知らない顔)がもっとでかい動く袋を担いでくる。
「おー、おかえり。ご苦労さま。あとで処理するからでかい方は防音室にいれといてね」
俺がレシピ本をぱたんと閉じて顔を上げると、2人とも嬉しそうにこちらへ走り寄ってくる。
「聞いてよ陽火くん! 今日の任務、すっごく楽しかったんです。すっごい素敵な人がいたんですよ。たっくさんちうちうしました♡ 美味しかったです♡」
「おれは冷静に行動した! いやちょっと舞い上がってた!でも冷静だった! いや違うな!……とにかく大成功だ!」
報告の内容は混沌としているけど、2人が楽しそうにしているのが一番の成果だ。実働部隊が優秀だと助かるなあと素直に賞賛して、この賑やかな気の良い仲間たちのお腹の具合を聞くことにした。帰りになにか食べてきたのならいいけど、彼らもあまり生活環境が良くない。「ごはんたべた?」と聞いたらトガちゃんは元気に「はい!」と良い子のお返事をくれる。良かった、あんし……。
「昨日食べました! 昨日までマックでオマケ目当てのあまりがたくさん落ちてたから良かったのに、今日の朝突然終わっちゃったんですよ。困ります」
「なー! ちゃんと期間通りやってくんないと困るぜ、これで生活支えてるやつもいるんだぜ。そんなヤツいるかよ!」
「好きな物なんでもつくってあげるからね……早くいっぱいお金稼げるように頑張ろうね……」
この前までハッピーセットのオマケがヒーローカードで転売ヤーが本体破棄しまくってたってニュースがあったけど、それがここに繋がるのか……。
明確に食べたいものを言ってくれたトガちゃんのリクエストを採用して、ミートソースパスタを死ぬほど作った。みんなが食べ散らかしたあとの食器を、食洗機に入らないものだけ黒霧と洗いながら「俺は貧乏が憎いよ」と言ったら「じきによくなりますよ」と曖昧な慰めだけを貰ったが、俺はもう明日にはみんなが好きなもん好きなだけ食べれるくらいには財布が潤っている世界線になっていてほしい。そうなるためにはもっとヴィランとして活動すべきか……? 俺、嫌だよ。友達が落ちてるポテトとバーガー食べて「今日はご飯が食べられてよかった!」って笑う世界。これは本気で憎くなるだろ、こんな世界……。
