生存報告だけでも頼む

 俺の仕事は、毎日黒霧ワープゲートで10時に出勤し、そこからはひたすら事務作業。採用予定者の確認、予定の擦り合わせ、拠点の掃除から雑用まで全部込みだ。
 燈矢くん──いや荼毘くんは現場担当だから、日中は基本的に別行動。夕方までに拠点に戻り、一緒に帰宅するのが俺たちの生活リズムになっている。

「最近困ってること。報告のテンプレがないから、みんな好き勝手に報告したりしなかったりすること」

 俺が掃除して絨毯を敷いたおかげで、寝転がれるようになった床に弔くんが転がっている横で正座になる。
 燈矢くんの「病み」期に置かれたゼクシィ(ここ数年の彼は、俺との婚姻を結びたがる系の病みにかかることが多い)を、弔くんは死んだ魚みたいな目で読んでいた。

「わかる」

 弔くんの低い声に、背後からミスターの「わかる……」というしみじみした追随。ゼクシィは連合の空気に似合わなさすぎる。

「定期連絡がないやつがいると、生きてるのか死んでるのか捕まったのか、全然わからなくて困るんだよね」

 幹部格で唯一、自主的にきちんと報告してくれるMr.コンプレスの溜息混じりの愚痴に、俺は全力でうなずいた。

 報告がある時はあるで、みんなバラバラに電話してくる。窓口は基本的に俺か弔くん。けど弔くんは作戦中以外はほぼ出ないので、日常連絡はすべて俺に集中する。夜行性の連中だから、午前3時に電話なんてこともしょっちゅうで、「連絡ありがとう、それはそれとして許さん」って気持ちになる。
 しかも同じベッドで寝てる燈矢くんも毎回律儀に起きてきて、「陽火くん寝れなくて可哀想、俺がなんとかしてあげるからな」と現代語訳で「相手を殺す」という殺戮の宣告をする。さすがに一応報連相が出来ている人材をこんなことで無駄に消費したくない。

「なので、彼らを俺の部下として採用します」

 先日の面接で俺が別枠にキープしていた2名の履歴書を、弔くんの前に置いた。ゼクシィは放り投げられ、今度はミスターが受け止めて無言で捲り始める。彼の眼差しも一瞬で濁った。やっぱりゼクシィはこの空間に似合わない。

 俺が個人的に欲しいと思った2人は、戦闘力はなにひとつない。なので、今の即戦力を求めるヴィラン連合では採用には至らない個性と性質だが、事務全般が足りない俺には必要な2人なので下さい! 報告の件は弔くんも面倒だなって思ってるだろ? なんとかするので! ください!

「1人目は景浦ツムギ、22歳男性。17年の引きこもり生活で連合加入理由はヒーロー社会への不信感。
個性は『コード・クラフト』。アプリ構造やプログラムを脳内生成して端末やサーバーに直接書き込めるってやつ、オリジナルアプリ作り放題個性ね。これで報告と連絡のアプリを作ってもらいます。もらいました。こちら確認お願いします」

 参考としてこういうのつくってみて~と軽く言ったらその場で作って「できまひた」と渡してくれたので、彼は天才ですよ。ここで手離したくない……!

 アプリ名はステータス・リンク。デフォルトはAlive(生存)でこれを押すだけでとりあえず『生きている』という一番大事なことは伝わる。

 基本は健康管理アプリに擬態しているけど、既存のSNSやツール系などにもそれに合わせた形でUIを自動変化させて擬態が可能。通話機能もあり、スワイプひとつで任務完了・失敗の報告が可能。詳細報告のテンプレートもメールの形で設置。メッセージ録音機能もあるので文字が読めなくても安心。「誰でも、どんな状況でも、ワンタップで連絡できる」を理念に設計された、とにかく最小限の動きで情報連絡が出来るものだ。「へえ~」とうちのボスはまったくピンと来ていなそうだが、ここからが凄いから聞いて欲しい。

「全てのデータは景浦くんの個性を介したアプリで共有されるため、送信データは即座に暗号化。個性による擬似コードでしか内容が読み込めない上に他者が解析を試みるとコード自壊とデバイス内部破壊。接触者が装備している全ての端末にウイルス混入して情報全部奪うようになっております。アプリにはクラス分けがされていて下クラスの構成員が他者のアプリを開いたら、同じようにコード自壊するようになってる」

「なんでそいつ引きこもってたんだ? ネット社会を通じで世界を爆発させられるだろそれ」

「20過ぎてアプリ開発し始めるまで自分の個性を『演算能』だと思っていたらしい。計算がめちゃくちゃ得意な人なんだなって」

 これは試作でボスに見せるためのものなので特に自壊システムは入れられていないが、実際に「このようにこあれます」と見せてもらった時は普通にスマホが爆発したので、簡易爆弾扱いくらいにはなると思う。

「そしてもう1人が月城リラ、28歳女性。三年前までモデルをしていて今は無職。連合加入理由は「多数決の結果」。
個性は『シナプス・クラウド』で神経回路とデジタル空間を直接接続。膨大な数の仮想人格を生み出す個性。脳自体が生きてるサーバー兼コアになってるから、ツムギくんとリラさんが力を合わせた結果、ヴィラン連合だけの独自通信システムが完成されるというわけ」

「多数決ってなんだよ」

「各SNSで数千のアカウントと数千のAI人格が同時存在していて人格めちゃくちゃになってるんだって。ランダムで数千のうちの何人かが出る解離性同一症だけど、主人格のリラさんの統率下にあるから危険行為や離反はなさそう。加入に賛成した人格が過半数超えたから、本人も『仕方ない』って納得してるし」

「お前が手元に集めたがるやつ癖が強すぎる。ひとりギルド会議かよ、まともに会話出来んのか?」

「面倒見るから、ちゃんと面倒見るから……!」

 いまはアプリの維持に必要って形だけど、そのうち数千のアカウントを一気に使って世論を動かしたりわざと炎上するやつとそれを攻撃するやつ擁護するやつを全て自演で行って話題を固定するのに使ったりしたいから……!! 何年も前から『生きている人間』のフリをしている数千のAI人格アカウントを持ってるような奇人、もう二度と出会えないだろ! 絶対二人とも公式キャラだって!!

 ミスターも「いいんじゃないかな、裏方を外部委託するってのも金も警戒も必要になるし。おじさんはもう、連絡の取れない若者にお電話してくださいって言ってウザがられる生活をやめたい。早くこのアプリ正式リリースして欲しい」と悲しい声をあげていた。真面目な優等生が割を食ってる状態だ。絶対今までの人生飄々と生きてきたっぽいのに、倫理がめちゃくちゃな連合の中では常識人枠なせいで……。
「ミスター可哀想」と労りのつもりで言ったら「あかり、君のお兄さんがいっちばん連絡しないんだよ……」と言われた。へえ……俺には1時間おきくらいでメールくるから知らなかったな……。

「じゃあ明後日までに作らせて来いよ」
「業務が別すぎて他部署への理解がない上司の悪気のないパワハラだ……」
「うるせえな逆らうな」

 いや、弔くんはゲームをよくやる分アプリ開発に時間がかかると分かっていて無茶ぶりしてきている……。純粋なパワハラだ……!
 邪悪すぎるが、言外に俺直属で採用が認められたことは分かったので団地の空き部屋を連合作業分室としてアプリ開発作業に入ったのだった。そして今後アップデート込だが基本システムは全て完成した状態で翌日に提出された。早すぎて追いつけない。なんなら俺が設備と開発内容を説明してその日のうちに、2人が6時間くらいで作っていたので、この2人もしかして映画とかのキャラだったのかもしれない。天才すぎる……。

「おつかれ~。顔出せなくてごめんね、差し入れもってきたからこれ食べて今日は終了で……」
「完成しまひた。リラしゃんのおかげえす、生きてるサーバーってすっげえ」
「できました、もう終わった、完成だよ、はい終わり、できた──できました。ツムギくんが全部やりました、まあやるじゃん、驚いた、すごい、素晴らしい、彼はすごい、才能がある、すごすぎる」

「俺の部下が有能過ぎる」

 ちなみに俺への給料が出ていないということは彼らにもまともな給料が出せないので、こっちはこっちで法人化して情報収集ついでに『AI会話アプリ(エロチャ有り)』を開発したんだけど、3ヶ月後には死ぬほど儲けてヴィラン連合への極太資金源になったのはさすがに想定外だった。どうしようなコレ、許されるか? まあいっか、ヴィランだし……………。