簡易キッチンで包丁を握る弔くんを、背後から「手は猫さんにしてね、猫、猫だよ」と言ってたら「うるせえな!!」と、流れるように腹に包丁の切っ先を突き付けられた俺です。わかる。確かに狭いキッチンででかいのが背後から覗きつつブツブツ言ってたらうざいよな。でもあまりにも手つきが心配でさあ!
最近自炊的なものの存在に気付いたらしい弔くんは意欲的だ。思いついたら俺が何を作るか計画して買っておいた食材を荒らし、何かを錬成している。
その日々の結果として、俺が個人購入した業務用のオーブンレンジで卵を爆散させた。家庭用だったら即死だっただろう、業務用で良かった……。業務用の強化ガラスでしか救えなかった……。
この日から俺から弔くんへの調理的信頼はゼロになったが、本人はどこ吹く風で気が向いたら今日のように何かを作ろうとする。今日は、なんだろ……なんか肉切ってる……肉しか切ってないけど何作る気なんだこれ……。塩コショウくらいは出しといた方がいいかな……。
俺が敵意は無いよ! のアピールでホールドアップしてる中、小首を傾げて睨みあげるという、ブチ切れてる猫の威嚇みたいな顔をした弔くんが、普通に包丁の切っ先でシャツをぐりぐりしてくる。穴開けないでください……。俺が悪かったです……。
「流れるように包丁突きつけられた……」
「ガキ扱いしやがって、舐めんなよ……」
「誤解! 俺は誰にでもお手て猫さんにしてねっていうから。だびくんにはもう全て省略して『にゃー』って言ってる」
「お前ら兄弟ほんとうにキショいな」
ほのぼのきょうだいエピソードなのに、俺たちのキショさで怒りをズラせたのでセーフとする。そんなキショいか……? 自宅拠点だとたまに実兄がご飯作ってくれるけど毎回「にゃーして」「はいはい、にゃーしてる」と穏やかな時間を過ごしているのに……? 俺のオニイチャンは成人済なのに俺のキショさに付き合ってくれて優しいなあ……。
───────というのが、最近でいちばん弔くんを怒らせたエピソードだ。最近というか、最大だな。最大激怒エピソードがこれ。
「アホ犬、座れ」
「わ、わおん……」
記録更新されちゃったなあ…………??
なんか雰囲気が違うぞ、というのは俺でもわかる。大激怒の姿だ。なに……なにかしたか……? 思い当たる節が複数あるから何も分からない……。
ボスの指示に従う一瞬の間に想定される叱られ内容が脳裏を駆け巡る。
この前すごい暑い日に、俺の手持ち仲間紹介で弔くんを案内した事があった。
外気温に秒でブチ切れてずっとぐちぐちぐちぐちイライライライラしてたから、良かれと思って同行していたアレの中に突っ込んだけど、それへの思い出し激怒かな……?
アレの中は体温より低めの温度って聞いたから、一応俺も腕突っ込んで確かめたんだけど……。
でも「外気温より低いから入れてもらう?」「35度、ゆえに、5度は低い。2時間程度なら」 って説明したし。いや、確かに「イカれてんのか?……いや、頭が狂っているのですか?」って珍しく丁寧に分かりやすい語句を使って威嚇してくれてたな……。
「確実に伝わるように言葉をなおしてくれた」
「揺れるが、仕方ない。収納」
「てめえ無きょ…………」
「たぶん『無許可やめろ』と言いたかったのかな……出したとき大暴れしそうだから早めに現場向かおう。怒りの発散場所が必要だ」
やっちゃったあとにヤバいと思ってすぐ車を“借りて”移動したんだけど、到着してから吐き出したら床にべっちゃべちゃで倒れた状態で「俺を入れる前にできることあっただろ、たとえば車移動とかさぁ……」 って言うだけであまり怒られなかった。だけどもしかして、衝撃が強くて感情が追いつけなかったから怒っていないだけだったのかもしれない。追いついちゃったか……怒りが……。
いや、でも似たような日があった時に弔くんも「あっっっっぢぃなァ……おい、『車の手配をしてください』」ってAIにものを頼むみたいに、絶対に指示が通じるようにわざわざ言葉を整えて依頼してくれるようになったし! 実際これではそんなに激怒メーター上がってない気がする!!
あとはなんだ? ふと昆虫食に興味を持って、街路樹からセミを捕まえてきたことか?
フライパン出してカリッと焼いて食べるかと準備してたら「ミンミンミンミンうるせえな見せびらかしに来るんじゃねえよ逃がせ」って怒ってたし。
でも「見せびらかしてんじゃないよ、食べる」と丁寧に説明したら、怒らず「なんで??」って不思議そうな顔になってたな……。
「やめろよお前、衛生感覚狂ってんだがらいつものフライパンで焼くだろ。拾い食いすんなアホ犬。……おいオニイチャン、お前オトートにメシ代やってねえのか? 腹減りすぎて今セミ食おうとしてんぞ……ああ分かった分かった、すぐ来い」
「報連相がしっかりしてる」
「すぐに保護者の方が来るからセミは捨てろ。ほらグミやるからこっち食え」
あの日はむしろ、いつになく優しかったな。グミ3粒もくれたし。その後すぐに、見たことないほど焦った様子の荼毘くんがBARの階段転がり降りながら「あかりくんどうして」と、焦燥した様子で深刻に話を聞いてくれた。
「お腹減ってたの? セミは食べちゃダメだよ……汚いよ、やめよう? 食べたいものがあるなら用意してやるから。最近頑張ってたから疲れちゃった? お休み貰おう?俺から言ってあげるから……」
「ナッツみたいで美味しいって聞いて興味を持ちました」
「ナッツ食えよ。ピーナッツでもマカダミアでもなんでもコンビニにあるぞ。それ食え」
あの日の俺はよほど愚かに見えたのか、実兄は俺を憐れみ嘆いたし、弔くんに至っては「これで買え」とくしゃくしゃの万札を握らせてくれた。だからこの件は激怒メーター溜まるものじゃないはず。あかりくん愚かメーターしか上がってない!!
本当に理由が分からない! 今日だっていつも通り黒霧ワープ出勤で元気に「おはよう、今日は天津丼作ろうと思うんだけど甘酢あんと醤油あんどっちがいい?」と挨拶した瞬間に冒頭ですよ。
「アホ犬、座れ」
「わ、わおん……」
わおん。叱られが発生したことしか分からん!
「思い当たる節が何も無い……」
「床!!」
「くぅん」
隣に座ることは許されなかった。大人しく床に座り直すと弔くんは「殺人以下は誤差って言い張る分際で、真面目なツラしてんじゃねえぞ……」と、やはりキレてる。
そしておもむろに俺にスマホを投げつけてきた。狙いが手なのでまだ“殺すぞメーター”は上がりきってないみたいでセーフ。殺すぞのレベルが高かったら額とか眼とかに投擲武器としてぶん投げられていたはずなので。
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NomiGraphy-sinya @✖✖●●✖✖
【階段の下に揺れる灯】 取材の帰り、雨宿りのつもりで階段の下にある小さなドアを開けた。 看板もなく、外からは営業しているのかどうかも分からない。 それでも、足元から微かに漏れる光に引かれてしまったのは、記者としての癖か、あるいは単なる好奇心だったのか。 店内は想像よりも狭く、十席ほどのカウンターとわずかなテーブル。 静かな音楽と氷の割れる音だけが、空気を形づくっていた。 バーテンダーは若かった。 この仕事について日が浅いのか、手つきはどこか危なげで、グラスの縁を指がかすめるたびに氷が小さく鳴った。 だが、それを不快に感じることはなかった。 むしろ、彼の柔らかな口調と慎重な仕草が妙に心地よく、気づけばこちらが話をしていた。 慎重さと不器用さの狭間にある誠実さ──それがこの店の空気をやわらげているのかもしれない。 彼の胸元で、小さな炎が揺れていた。 それは装飾の一部かと思ったが、どうやら彼の“個性”なのだという。 淡く橙色に灯るその光が、グラスの縁に反射して店内を静かに照らしていた。 不思議なもので、その炎を見ていると、心の緊張が少しずつ溶けていく。 まるでこのBARそのものが、夜に漂う温度を持っているようだった。 カクテルは驚くほど繊細で、味の輪郭がくっきりしている。 技術というより、感覚の鋭さでつくられた一杯だと感じた。 調合の不安定さすら、彼の手の中では「人間味」として完成している。 帰り際、彼は「また、疲れた時にどうぞ」とだけ言った。 その言葉の通り、階段を上がる頃には、不思議と肩の力が抜けていた。 夜の街が冷たく感じないのは、きっとあの炎のせいだろう。またこのBARに、足を運ぼうと思う。 #階段下のBAR #取材メモ #若きバーテンダー #放浪酒飲み旅 141リポスト 110いいね 91ブックマーク |
「拠点だって言ってんだろ!! バズられてんじゃねえよ!!!」
「ごめんごめんほんとごめん全面的に俺が悪いです本当に申し訳ない悪気だけはなかったんです許して」
この前の客か~~~~~!!! うっかりCLOSED出し忘れてたせいで、黒霧がいない時にきた客だ……! 入ってきちゃったから追い出す訳にもいかず、俺なりにちゃんと接客したんです! 写真禁止は言ったけど記事禁止は言ってなかったなぁ! SNSといっても取材許可とってくれ、頼むから……正当な叱られが俺に向かってるから……!
「お前のとこの珍獣パレードの……サーバー女の方、あいつから連絡来たんだけど何言ってんのかわかんねえんだよ……! アプリ男の方もなに言ってんのか聞き取りにくいしよォ……!」
会話でのコミュニケーションがちょっと難アリの二人だから……! 俺の頭飛び越えて最高責任者に緊急連絡いれる方を取ったんですね、たぶん俺にもメールで事後連絡来てるなこれ。正しい判断です……これは重大インシデントなので……。ていうか俺の部下って珍獣パレードって呼ばれてるんだ……?
「良かったな、部下が優秀でよ……」
「はい、部下の皆が実に優秀でございまして、その働きに助けられております。おかげさまで、わたくしなどは本件のように日々支えられてばかりでございます……」
ツムギくんが趣味で作っていた連合関連ポスト自動収集振り分けシステム内で、インターネット巡回をしているリラさんの人格がこの投稿を発見、その場でAI人格アカウント数千で一斉に報告申請してアカウント凍結させたから、リポストがあまりまわらずに済んだらしい。良かった。ネットに強い部下手持ちに入れてて本当に良かった……!
「次は無いからな、わんって返事しろコラ!」
「わん!」
平手で頭をバシンと叩かれて許された。俺が、俺が愛想良くて人の精神安定させる個性なばかりにご迷惑をおかけしました! 大変申し訳ありません! 次からは誰か来たらすぐ荼毘くんをよんで、消します! 人が来た事実そのものを!
