灰皿の上の約束

 俺の個性『灯火』は、ちょっとしたものを燃やす程度の小さな火種と、光の濃淡で人の精神を少し前ばかりハッピーにしたりバッドにしたりするだけのかわいらしい弱個性だ。

 正義感の強い、いわゆる“ヒーロー”特攻で、『かわいそう! 助けてあげたい!!』というバフをかけられるので、人の善意に寄生して生きるのにすごく便利。
 あと、何故か俺の知らないところで拡散されて悪用されて、全部俺が悪いことになったりしている。これについては俺は被害者だと強く主張しますよ。
 謎の組織の会報誌が毎回届くから、暗にプライバシー握られてんだぞこっちは。助けてくれない日本のヒーロー側に問題ありませんか? 救ってくれよ、困ってんだぞ。知らない間に数百億人のフォロワーを背負わされても困惑でしかない。
  勝手につけられた神様ネームの“あかり”を偽名にしているが、ヴィラン連合には“あかり”=“あかり教”ということをまだ伝えていない。 だってそうすると、“あかり”=“火継”って公安が勝手につけたヴィランネームも芋づる式にバレちゃうし……。
 荼毘の弟が火継って、なんか良い感じに言葉遊びでキメました! みたいで、恥ずかしいし……。なので、テレビに流れる流行りのカルト教団あかり教のニュースを眺めながら「お前と同じ名前の宗教じゃねえか。やっぱ異常者って、名前も被るもんなんだな」と全方位罵倒レイシスト発言でケタケタ笑ってるボスにもまだバレてない。
 だいたい、テレビが大袈裟に言いすぎて『あかり教の象徴的教祖』がとんでも大ヴィランにされてることが問題なんだ。
 俺、自分の個性隠してないのに弔くんが気づいてないんだぞ。このちっぽけな灯火で連日世間をお騒がせするカルト教団とイコールで繋がるわけないよな。俺は無罪です。……この前ガチ叱られ発生したからバレたら怖いな。次は拳でぶっ叩かれそう。

 というか、自分の名前棚に上げ過ぎでは……? 死柄木の、弔さん……? そのネーミングセンスってたぶん、『先生』だよな。先生のセンスが悪いのは弔くんの責任じゃないか……。いや、あかりってどの角度からみても一般的な名前なんだけどな?!

「あー、そうだ。お前に似てるキャラみつけた」

 一通り気分よく俺を罵ったあと、床のカバンからおもむろにiPadを取り出して電子書籍のアプリを開いて見せてくれる。知らないカバンから、知らない人のiPadを出しましたね。たぶんこれ強奪品。パスワードの解除ができているってことは、命とパスワードの交換をした後に、命の保証を反故にされてた人間がこの世に1人いたって事だ。
 元の持ち主は読書家だったらしく、アプリのページにはたくさんの書籍が並んでいた。前世の友人が「おじさん世代の命が散りすぎて、曇り人は若者ばかりだ……。こんなにも曇りレベルが高いのに……!」と嘆いていた漫画も、今の世界にも存在している。ただし僕のヒーローアカデミアという作品が抜けた場所には、俺の知らない冒険活劇が連載されているらしい。

 弔くんが見せてくれたキャラは、前世でも今世でも大人気の鬼退治漫画だった。
 俺は読んでいないから話の流れは分からないが、特徴的な眼のキャラが、思いっきり人の死体を持っている。おかしい。弔くんが指さすコマにこの悪役っぽいキャラしかいない。  

「めちゃくちゃ人間食べてない?」
「人を食ってるのは同じだろうが」
「なんて真っ直ぐな悪口だ……」
 人を食う。意味、人を人とも思わない図々しいやつ。そんなまさか……。