レオナ・キングスカラーは賢く優秀だが、産まれ落ちたその時に全知全能を授かった神の子という訳では無い。
むしろ言葉の覚えなどは普通の子供もより遅く穏やかな気性で、簡単に言えば愚鈍な馬鹿だと思われていた時期がある。持つ色も、ユニーク魔法も、気性も。何もかもが理想的な王子だった兄のスペアとしての意味さえ薄く、後ろ盾になるはずの乳母もほとんど平民に近い家柄だ。「第二王子は王族としての価値が低い」と侮られるのは、当然の流れだった。
とはいえ、家族というものから愛されていなかったと断言するほどレオナは拗ねてもいないし馬鹿でもない。
立場があるからこそ堂々と触れ合えないながら、父王と母は第二王子の為の離宮へ通い幼いレオナに視線を合わせて語りかけてきたし、兄もレオナと会う時は満面の笑みで抱きしめてきた。
レオナは拗ねてもいないし馬鹿でもないので、にっこり笑って「うれしいです」くらいは言ってやったが、この血の繋がった他人がやって来る度に、毒味の人間が死ぬので本当に迷惑だった。
第二王子を産んだことで王妃は次の子を望めなくなった。なので、第二王子が死ねば代わりのスペアを産む女が必要となる。一族から側室を出したい者たちはまだ諦めておらず、それがレオナの安全を脅かしていた。
第二王子の為の離宮は、もしもの時のために王宮から少しばかり離れている。思い出したようにお忍びで来られても、忍べるわけが無い。「そう言えば第二王子なんてものがいたな、殺しておくか」と、馬鹿共の嫌がらせを受ける生活にもうんざりしていた。そう笑顔の下で冷めた感情を押し殺していたレオナは、当時まだ五歳ほどであった。
かわいい、よいこ、だーいすき。おれのレオナ。
目を開けてはじめに見たものを親だと思うことを、インプリンティングと言う。きっと自分にとってのそれは、ナマエだった。
同じ年だが、3ヶ月早く生まれたからか。それともそういう血筋なのか。ナマエはレオナよりも一回り大きく、同じ年だとは信じられないと言われていた。ナマエ自身もそう思っていたのか、言葉を喋れるようになったら当たり前のようにレオナを自分の弟だと言ってまわるようになる。
「違うのよ、レオナ様はお前の乳兄弟でね……」と説明する乳母の言葉の『きょうだい』の部分しか理解出来ていないのだろう。首を傾げて、「わかんない」と不思議そうに繰り返していた。
レオナも第一王子を兄と認識する前は、この真っ白い同族の子供を兄だと信じていた。
本人がそう言ったからだ。
てっきり、乳母とは名ばかりで、父王が手をつけた下級貴族の母から産まれたと信じていた。実際のナマエには兄がいて、それがあまりにもナマエと同じ顔だったので「違う」という事実を突きつけられ、すんなりと「俺の欲しいものは何も手に入らないんだな」と学んだ。
どの群れにも俺の居場所はない。じゃあ俺の群れを作るしかないじゃないか。俺をかわいいよいこのままでいさせてくれない世界の方が悪いだろう。
言葉数が少なく、愚鈍な馬鹿と侮られ、兄王子の幼少期と比べられ続けていたが、それは『言葉には責任が伴う』と理解していた表れだった。
レオナの一言を勝手に大義名分とする輩はこの離宮にもいるし、レオナはまだ幼くて力が弱い。手を伸ばすだけで抱きしめてくれる人も、ここにいるだけで「だいすき」と笑ってくれる人も、今のレオナでは守れない。
愚鈍で馬鹿で何の役にも立たない第二王子の乳母と乳兄弟なら、わざわざ王族の不興を買ってまですげ替えなくてもいいのだ。それが分かっていた。
レオナのユニーク魔法が出現したのは、何がきっかけだったのか正直レオナ本人は覚えていない。
よくある暗殺未遂のひとつの中で、命の危険を感じたんだと思う。それもまたよくある事なので、だいたい年齢にして7歳くらいだったか……とあたりをつけることしか出来ないのだ。
それが命を奪い物を壊すことに特化していて、愚鈍な馬鹿のままだと暗殺兵器にでもさせられそうだとキャラクター変更を余儀なくされた。
ちなみに、ナマエは落として割った花瓶を「砂にして……隠して……」と頼み込みにきて、乳母は「粗大ゴミの処理に便利ですねえ」とおっとり笑っていた。この2人は本当に親子で、俺は本当に他人なんだなあと少し悲しくなったことだけ鮮明に覚えている。
7歳でもナマエはレオナを弟だと思い込んでいた。レオナ自身がそう振る舞っていたからだ。
甘ったれてわざとみゃあみゃあ鳴き、体の境が無くなるほど強く抱きしめる。城下の子供のように「オニイチャン」と呼んで、俺はお前のかわいい弟だと錯覚させる。
子供の戯言と許されているうちに刻み込んでおきたかった。どうせ本物にはなれない。俺の欲しいものは何一つ手に入らない。じゃあ違う方法で、違うものにして手元に置くしかないじゃないか。
10回目、50回目、何回目? 離宮の中にまで入り込んだ暗殺者のナイフが瞼の上を掠る。
レオナの肩を強く引いてナイフの前に躍り出たナマエが「許さねえ!!」と叫び、ナイフを奪い取って返す刃で首を切り裂いた。降りかかる血を、レオナのユニーク魔法が砂にする。誰の乾きも癒さない砂の雨がザラザラと降る。今更やってきた護衛に、ナマエの怒声が投げつけられた。
「この役立たず共、医者を呼べ!!」
まぶたの上を熱いものが何度も往復する。「可哀想に、可哀想に」と滲む血を毒ごと舐め取られる。
わざと斬られた甲斐があったなと思いながら、「いてえ」と甘えて喉を鳴らす。愚鈍で馬鹿な第二王子は命の危険を感じて覚醒しました。
この流れで行こう。役に立たない護衛も、暗殺者の方が多いメイドもまとめて放り捨ててしまおう。ユニーク魔法も何も無いのに、身を呈して敵に飛び掛り毒を舐めとって俺の痛みに泣いてくれる。こいつだけでいい。
見ろよ、これが愛だろ。これだけは俺のものだ。
