薬も魔法もにんげんだって創れる

 一度俺を経由して送られてくる立派な装丁の嵩張る紙を、一通り毒や呪いを確認してからレオナへとパスする。
それを受け取った端から苦虫を噛んだような顔で砂にされていくので、俺のこの仕事にはなんの意味があるのかと気が遠くなってきた。
 俺は面倒だしレオナは機嫌を損ねるしで誰も幸せになれない。ラギーだけ「せめて焚き付けに使いたいッス!」とぴょんぴょん跳ねている。あらゆるものに利用価値を見出すとこ、本当に偉いと思ってるよ。ただこれ、想像以上に繊細なものだから捨てる時はやっぱり砂にするのが一番だと思う。粗大ゴミ出す時とかレオナのユニーク魔法、ホント便利なんだよな。殺傷能力高いけど。

「……めんどくせえな、事故った事にして断種するか」
「やめろって」

 自分の言葉の価値をしっかり理解してるレオナが言葉に出して言ったとなると、八割方やる気満々だ。もうこいつの頭の中にはどうやって断種してどう生きるかまでの粗筋が出来ているはず。

 第二王子への見合いは相応の立場の子女の少なさにより、15になる前くらいにはほぼ全滅となったが、レオナが20を超えてチェカ様も御生誕なされ、若干『王族の伴侶』への挑戦権が広がったらしい。
 そのせいで下手すると男爵家の子女の写真が送られてくる。舐められてるのか? なぜレオナが見ず知らずの男爵令嬢を娶る可能性を信じられたんだ。これなら麓の街の平民給仕の方が可能性あるぞ。そういうロマンス小説を読んだことがある。

「俺は俺で打ち止めにしときてえんだよ。余計な争いの種を撒きたくないって健気だろ、オニイチャン?」

 国の大切な第二王子なのに、扱いはあまり良くなかったのを覚えてるので何も言えない。にやにやと笑いながら肩につけられた真新しい噛み跡を舐めている気配を感じてため息をついた。
 俺がファレナ様の乳兄弟のように、赤子の時点で毒か呪いに負けていたら、レオナも今ここにはいないだろう。思い上がりだけじゃない、俺はいままでの自分の仕事に誇りを持っている。俺がレオナを生かしてきた。
 不幸な子供を作りたくないと言う気持ちをわかってしまうので、俺は常識的な一言以外の何も言えないんだ。

「断種? 去勢ッスか?」
「良かったなァ、これでシーツ交換も楽になるぞ」
「いやもったいねえ! 高値で売るんでやる前に出せるだけ出してください!」

 ラギーは今の今まで飲んでいた水のペットボトルをぐいっと差し出し、さすがにこれには引いたレオナが俺の背後に身体を隠す。おお、偉い偉い。ちゃんと護衛の後ろに行く優秀な護衛対象だよ。今後ともそう動いてくれ。

「王族の精液、なんに使うにしてもぜってえ売れるッスよ! レオナさんの顔写真貼って売りましょ!」
「こら、国が荒れる」
「わかりました、目線をいれます……」

 酷く悔しそうに言ってるが、全部ダメだからな? ラギーは四割くらいは本気だ。言ってみてわんちゃんあったら儲けようとする気概を感じる。

「オレは毎回『これ売ったらひと財産なのになぁ』って悲しい気持ちでシーツ洗ってるんスよ。可哀想じゃないっスか?」
「おいナマエ、お前が甘やかしたせいで調子に乗ってるぞ。どう始末つけるんだよ」
「この調子乗ってる感じが可愛いからな……」

 そんなもん売り出したら、一年後には王族の特徴を持った子供がわんさか産まれて、夕焼けの草原は歴史に残る戦場に変わりそうだ。

「それをやったとしても、真っ先に被害被るのは俺とレオナだぞ」
「お偉いさんがドンパチやってる隙に、レオナさんがオレのとこのスラム乗っ取ってそこから王位簒奪すりゃいいんスよ。そしたらオレの地元が王都になって地価が上がってハッピー。オレたちは王様の仲間! 腹を空かせて泣くなんて情けねえことなくなるんス。しあわせ」
「俺の分のクッキーもお食べ」
「わあい!」

 クッキーで頬袋パンパンにしつつ、何個か懐にしまってたので「個包装のやつあるからそっちにしろ」と棚からクッキー缶ごと渡す。あるだけ持ってけ、どうせ貰い物だしレオナも何も言わないので「やれ」って事だ。

「……ラギーにしちゃ良い考えじゃねえか」
「うそ、乗り気ッスか? 未来の教科書にオレの名前書かないでくださいね。世紀の大悪党にされちゃう」
「あ、悪辣さの自覚はあるんだ」
「舐めないで欲しいっス。オレは小さくて可愛いし賢いんでね、大抵のことはわかっちゃうんスよ」

 口元についたクッキーの食べカスをハンカチで拭ってやりながら、レオナが自分の精子の可能性を考えはじめたな……と分かった。
 実際、ラギーの言ったようなことをやる気はないだろう。レオナは子供が苦手だが、子供が憎いという訳では無い。
 自分の血を分けた子供が酷い目にあうとなると、正当に怒り手元に戻す程度には優しい奴だ。無差別に子供が増えたら自分がストレスとキャパオーバーで死ぬだろうことは、賢い頭で理解しているはず。

「王族の血は古くから管理されているから、俺の体液を使って新しくなにか魔法薬でも作れそうだな」
「いいっスねえ! オレ、レオナさんのそういう知的好奇心で自分を安売りする姿勢だいすきッス! 一枚噛ませて下さい!」
「おいナマエ、ラギーの躾をしっかりやれ。見てみろよこのツラ、ナマエが庇うって分かってて調子に乗ってるツラだぞコレは」
「安売りもだいすきもラギーの中では最上級の好意の言葉だから……」
「王族への敬意の話をしてんだよ」
「あとで叱っとくから……」

 ラギーも相手がファレナ様や、他国の王子であるドラコニアには全力で自分の気配を消して間違ってもこういう態度は取らないので、俺のせいだけじゃないと思う。
 これを許し続けてるレオナも、俺と同じくらいラギーを甘やかしている自覚が足りない。
 最後の見合い写真をレオナに渡すと一瞬で砂にされた。気分が乗ってきたらしく、今から材料の調達に向かうらしい。

「朝のシーツ交換、準備をしておけ」
「はあーい! 励んでくださいッス!」

 クッキー缶を持てるだけ抱えてにこにこのラギーが退室し、振り返ったレオナにのしかかられた。後ろ手で尾のファスナーを下ろすチリチリとした音が耳に届く。

「仕方ねえよなァ、断種までにいろいろ試そうぜ。オニイチャン?」

あっっ! 材料の調達! そういうこと!?