登場人物

人材派遣会社スモールアップル

表向きは人材派遣会社、実態は依頼された人間を殺害する企業。青いリンゴのロゴは、果実から樹液まで有毒なマンチニールを表している。営業部、調査部、実行部、処理班、経理、総務、医務室などが、依頼の受付から殺害、死体処理、警察や病院への根回しまでを分担している。税務署がうるさいので、税金はできるだけ真面目に支払う気持ちでいる。同規模の同業他社を襲っては吞み込んで規模を拡大してきたので、日本では最も大きな殺し屋派遣会社になっている。従業員はフリーのスカウトや自主入社よりも、元はライバル企業の職員だった者の方が多い。

アップルファイト・プロレスリング

略称はAFP。所属選手からは「アップル」「リンゴ」と呼ばれる。設立当時の社長が「子供にも覚えてもらえる、明るくて強そうな名前」として命名したが、社員からは絶妙に古くさいと評判である。人材派遣会社スモールアップルが地域貢献と社員福祉の一環として運営する中規模プロレス団体。地方興行や商店街イベント、学校訪問、チャリティー活動に力を入れており、親子連れからの支持が厚い。所属選手の多くは、警備員、倉庫作業員、建設作業員などとしてスモールアップルから派遣されていることになっている。

【本来の姿】
大柄で顔の目立つ殺し屋たちへ、体格や傷、長期不在を不自然に見せないための身分を与える偽装組織。巡業は遠方での仕事、海外遠征は国外任務、負傷による欠場は治療や潜伏の口実として使われる。リングでの訓練は実戦能力の維持にも役立ち、団体のトラックや控室は武器、人員、遺体を運ぶ際の隠れ蓑にもなっている。

アップルスター芸能プロダクション

略称はASP。所属者からは「アップルスター」「スター」と呼ばれる。名前は設立時に「リンゴだけでは芸能事務所だと分かりにくい」という理由でスターを足しただけであり、所属者からは古いを通り越して安っぽいと不評。俳優、アイドル、モデル、タレントなど三十名前後を抱える小規模芸能事務所。所属人数に対して実力派が多く、主演級の正統派俳優から悪役専門の名脇役まで幅広いが、本人の意向を尊重する方針から仕事量は少なめ。特に強面のキャラクター俳優が異様に充実しており、ドラマや映画では殺人犯、暴力団員、用心棒などを演じる一方、素顔は物腰の柔らかな者が多いとしてバラエティー番組でも人気がある。所属者には「売れない頃に社長へ拾われた」「この事務所でなければ芸能活動を続けない」と話す者が多く、大手事務所からの引き抜きを悉く断ることでも知られている。

【本来の姿】
容姿が目立ちすぎるため一般人として身元を隠すことが難しい殺し屋へ、「顔を知られていて当然の職業」を与えるための偽装組織。美貌や愛想によって対象へ接近する者、芸能関係者を対象とする任務へ適性を持つ者、一度見れば覚えられるほど特徴的な顔貌を持つ者などが所属する。また、体格はプロレスラーに向かないものの人相の悪さから周囲の警戒を招きやすい社員は、悪役俳優として積極的に露出させることで「あの怖い顔の俳優」という社会的認識を先に作っている。所属者自身も自分が目立つことを熟知した熟練者が多く、芸能活動そのものも偽装に留まらない水準で行っている。なお、所属者が語る社長との感動的な出会いや事務所への恩義の大半は、移籍や過度な取材を防止するため広報部が作成した設定である。本人がインタビュー記事を読んで初めて自分の過去を知ることもある。

 


 

楯岡博文たておか ひろふみ/第三業務室
バディを組んだ人間へ異常な幸運をもたらす「幸運のお守り」。気が利き、穏やかで友人も多いが、プライドは非常に高く、舐められたと感じると子供の癇癪のように激怒する。一応同業者相手には一旦耐えるが、的確な嫌がらせをしてくる執念深さがある。また、こいつが嫌った相手には不幸が連続するため、呪いをまじないに変えて幸運を与えているのではという説がある。本人は自分の力をあまり信用していない。伊坂以外とも組めるが、私生活まで入り込んでくる伊坂を結局は受け入れている。現在は恋人なし。過去に男性一人、女性二人との交際経験があり、すべて相手から告白されて始まった。好みのタイプは「あったかい人」。性格ではなく、体温が高いという意味。

 

伊坂恭平いさか きょうへい/第三業務室
素手で殴るだけで人間を殺せる、痩せ型の殺し屋。自責、他責、自己憐憫を巡回した末に「俺はなんて不幸なんだ!」と嘆く。友人はほぼ楯岡一人で、楯岡を「自分の幸運」と呼び、同行なしの仕事を極端に嫌がる。楯岡と二人きりの時だけ「博文」と下の名前で呼ぶ。交際経験も告白経験もなく、童貞。髪は中学生の頃から自分で切っているので、たまにとんでもないことになる。普段飲まないのに飲み会だと雰囲気で飲み、即泥酔し人のカバンの中に吐く悪癖があり、そのせいで納得の五分の四殺しを受けた。最近読んでいる本はハリーポッターシリーズ

 

鑿目玄翁のみめ げんのう/第二処理課
身長百九十センチを超える大男。工具を使った殺害と死体の切断・解体を得意とし、実行と処理を兼任している。下品な冗談が多い一方、面倒見がよく、頼まれれば車を出し、病人には果物を届ける。遊びの関係ならトップとボトムのどちらを担当するか相手に選ばせる程度には柔軟だが、恋愛感情を向けられると豹変する。「おまえ、俺と家族になるんだな。なら今すぐその家を捨てて、俺の家で生活しろ」と監禁コース、物理的にも精神的にもクソ重い男。長方形の二階建て豪邸に住み、共用部分、自室、ガレージ以外はほぼ空。家族を住まわせるための何もない八畳間が八室用意されている。いまはまだ誰もその部屋に住んでいないが、かつてはどうだったのかは誰も聞かない。

 

御六名無おろく なむ/社長
スモールアップルの社長。両脚を失っており、電動車椅子で各部署を巡回する。顔付は若いが「すっごく改造している」らしい。年齢不詳。穏やかで柔らかな態度を崩さないが、「見えないものは存在しない」という方針で伊坂の心の傷などは処理しない。社員を道具として正しく配置し、殺人企業を一般企業のように運営している人物。

 

首藤環しゅどう たまき/第一特務課
細い紐やベルトによる絞殺を得意とする、上品な装いの女性社員。伊坂にクロコのバーキンへ吐かれた恨みを忘れておらず、伊坂を五分の四ほど殺したし、この日から伊坂をゲロ坂と呼んでいるし、伊坂が他責の姿勢を見せたら容赦なく攻撃を加える。

 

車折美嘉しゃおり みか/第一特務課
車両への細工や交通事故に見せかけた殺害が得意。必要な瞬間だけブレーキを効かなくするほか、自分で対象者を轢くこともある。派手な外見に反して機械操作と運転が巧みで、下戸。楯岡を恋愛対象として普通に「あり」だと思っている。公的な免許は実は持っていない。全て偽装。

 

針生小鞠はりお こまり/第一特務課
小柄で学生にも見える若い女性。注射器や針を使った殺害を得意とし、笑顔のまま相手の最も痛いところを突く。伊坂をからかうこと自体も楽しんでいるが、危険な仕事へ楯岡を連れていきたいという同行枠争奪の当事者でもある。後先考えないタイプのドS。いずれ痛い目を見るだろう。

 

鷹無イン・ウー/第二処理課
鑿目の同僚。作業終了後、解体した死体と一緒に記念撮影をする鑿目の写真係を務めるなど、第二処理課の日常へ順応している。基本的に記録係を担当している。

 

逆井叶多さかい かなた/第三業務室/アップルファイト・プロレスリング
極端な不運体質を持つスモールアップル所属の殺し屋。幼少期から別組織で育てられ、組織合併の際、十六歳で能力を買われて引き抜かれた。当時は冷酷で荒れた性格だったが、楯岡の直属部下として教育され、現在の落ち着いた気質になった。昔について楯岡から「年齢的に思春期だったからな」と言われるたび、本気で恥ずかしがる。 恵まれた体躯のため、アップルファイト・プロレスリングに所属している。本人が望まないことばかり叶う性質から、今や立派なスター選手。リングネームは本名と同じ「逆井叶多」。相手の力を流す投げ技と関節技、劣勢から僅かな隙を奪う逆転勝利を得意とする。百八十センチの体格と整った容姿から女性人気も高いが、最大の支持層は粘り強い試合運びに魅せられた年配男性。『月刊リングスター』の「息子にしたいレスラー」で二年連続一位に選ばれている。

 

裂谷昂さきや こう/第二処理課
死体が人間の形を失っていく過程に性的興奮を覚える、色白で肋骨が浮くほど痩せた青年。体力がなく、遺体を動かすだけですぐ息が上がる。作業中は洗浄の手間を省くため、全頭マスク、手袋、長靴以外は身につけない。社長から感染防止用のゴムエプロンを支給されているが、「擦れて自分のDNAが零れる方が危ない」という理由で着用せず、面談のたびに軽く叱られている。普段は物腰が柔らかく、生きている人間には非常に親切。整った顔立ちと儚げな雰囲気から社外にファンとストーカーが複数いるが、本人は相手にも優しくするため危機感がない。心配した同僚たちが適時処理している。日頃の行いが良いので、本人の知らないところに影の守護者が複数いる。

 

蜂屋弥一郎はちや  やいちろう/第三業務室

強襲合併によって吸収された同業他社から移籍してきた、日に焼けた肌と根元の黒い金髪が特徴の若い殺し屋。忍者の末裔で、足音を立てずに高速で移動すること、狭所や高所への侵入、対象へ一気に接近して短時間で殺害し、そのまま離脱する仕事を得意とする。前の会社では若手ながら実行部の一軍として扱われ、単独任務の成功率も高く、警備の厳しい案件や時間制限のある依頼を優先して任されていた。特に「入ったところを誰にも見られず、殺したことが発覚する前に出る」仕事には強い。一方で性格はかなり軽く、初対面の相手にも冗談を仕掛けるため、スモールアップルへの初出勤では刺客を装って登場し、自己紹介を終える前に伊坂から殺されかけた。名前だけは見た目に反して古風だが、蜂屋家では代々男子へ古い名をつける習慣が残っている。一人暮らし。現在の部屋には大家へ無断で押入れの奥から隣室の床下へ抜ける隠し通路を作り、さらに床下を掘り広げて小さな地下室まで増設している。本人は「忍者の家なら普通じゃないっすか?」と言っているが普通ではないし、そもそも賃貸なので退去時にどうするつもりなのかは誰も知らない。

 

氷影 黒太ひかげ こった/元第三業務室/アップルスター芸能プロダクション

人の意識から外れることに長けた隠密型の殺し屋。近くにいても気づけば視界から抜けているほど存在感が薄く、相手が注意を逸らした僅かな隙に接近して殺害する仕事を得意とするが、生まれつき顔だけがどうしようもなく陽側の美形。明るい髪色と華やかな顔立ちで人混みにいても目につくため、隠密能力と容姿が致命的に噛み合わず、現在は顔の目立つ社員へ身分を与えるアップルスター芸能プロダクションにも所属している。芸名は「綺羅々星 聖也きららぼしせいや」。スモールアップル入社時の新人教育を楯岡が担当しており、極端な人見知りだった当時から面倒を見てもらったため現在もかなり懐いている。親しい相手には「拙者」「ござる」などのオタク口調で喋るが、初対面や仕事相手の前ではほとんど出さず、困ると曖昧な笑顔でやり過ごすので芸能活動を始めてからも長らく露呈していない。趣味は漫画、ゲーム、コスプレで、特に忍者が好き。忍者の家系では一切ないが仕事着には本格的な忍装束を採用し、本人は自分を忍者系殺し屋だと思っている。忍装束は同じ型を複数所有しているため、本物の忍者の末裔である蜂屋が前職から持ち込んだ仕事着に公序良俗上の問題が発覚した際、未使用品を譲ることになった。本人いわく「魂は忍びにござる」。忍者の末裔から見るとただの忍者好きである。

 

綺羅々星 聖也きららぼし せいや☆/アップルスター芸能プロダクション

アップルスター芸能プロダクション所属の若手俳優。明るい髪色と目を引く華やかな顔立ち、笑った時の親しみやすさから、爽やかな好青年、年下の御曹司、新人医師、若手刑事などの役を多く演じる。芸能界入りの公式経歴は「コミックマーケットでコスプレをしていたところを現事務所関係者にスカウトされた」。モデル仕事と広告出演を経て俳優デビューし、当初は整った容姿を生かした端役が中心だったが、深夜ドラマで演じた主人公の人懐こい後輩役で注目を集め、その後は青春ドラマや恋愛映画を中心に出演。普段は明るく爽やかな役柄が多い一方、本人の気配の薄さを監督に面白がられて出演したサスペンス作品では、物語終盤まで存在感を抑えた犯人役が高く評価され、以降は静かな悪役や二面性のある役も増えている。主演作は多くないが出演本数に対する知名度が高く、「出番は少ないのに妙に覚えている俳優」と評されるタイプ。事務所の方針で仕事量そのものはかなり抑えられている。読書好きを公言しているが読むものの大半は漫画。衣装、特撮、時代劇、ゲームなどにも詳しく、デビュー後に私物のコスプレ衣装が発見されたことをきっかけに、現在は隠すより売った方が早いという事務所判断で「顔だけ見ると陽キャなのに中身はかなりのオタク」という方向で売られている。本人もイベントや漫画の話を振られると楽しそうに話すため、俳優ファンとは別にオタク層からの支持も厚い。2.5次元舞台『BLOOD CROWN -Requiem-』では、舞台オリジナルキャラクターであるノア・クロフォード役を好演。原作者がその演技をいたく気に入り、後にノアが原作へ逆輸入されたことで知名度を大きく伸ばした。本人はもともと俳優志望だったわけではなく、インタビューでも「事務所に向いていると言われたので始めただけです。ここじゃなかったらたぶん俳優はやってないですね」と語っている。

 

斑乃 萢緒まだらの やちお/第六業務室所属

スモールアップルで現在最年少社員。義務教育を受けられる環境になく、読書習慣もなかったため漢字や書類作成は苦手だが、本人にはきちんと覚えようという意欲がある。素直で指摘も真面目に受け入れるため、年長者の多い職場では何かと可愛がられている。