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 ピノックに似合う服……と部屋で私服を広げていたけど、しばらく悩んで分かったのは、オレの服の趣味とピノックに似合いそうな服の系統が真逆だということだけだった。
 ついでにデュースの私服も引っ張り出してぶちまけてみたけど、こいつの雑誌に載ってる好青年コーデみたいなやつも違う。清潔感はあるし別に悪くはない。でも、ピノックに着せたい方向性じゃないんだよなあ。あと、奥から出てきた金刺繍で昇り龍が描かれたジャケットは何なんだよ。どこで買って、どこに着ていくつもりだったんだ。一張羅か? それ着た日は絶対に隣を歩かないからな。

「これとか似合うんじゃないか?」

 早速、オレが脳内の『ない』コーナーに突っ込んだばかりのジャケットを取り出して、デュースがわくわくした顔でこっちを見た。ふざけてんのかと思ったけど、この顔はマジだ。デュースは本気で、ピノックに昇り龍を背負わせようとしている。

ニール、タッパあるから厳つい格好が似合うだろ。ライダースーツとか着せるといちばん似合うと思うけど、エースはマジカルホイール持ってないよな」

「ちょっと待って」

「うん?」

「デュース、お前なにピノックのこと名前で呼んでんだ? 挑発か?」

「ひえっ」

 オレがマジカルペンを床に置いてファイティングポーズを取ったことで、デュースも速やかに拳を握った。やめろ。お前のそれはオレと違って普通に迫力がある。「ひえっ」って声を出したやつが同時に出していい闘気じゃないだろ。
 しかもなんで迷いなく構えるんだよ。そこは「待て、誤解だ」くらい言え。こっちは惚れ薬のせいでだいぶ面倒くさいことになってるんだから、マブならもう少し丁寧に扱え。

 ステゴロになったら勝てるかっていうと、たぶん無理だ。目とか潰せばワンチャンあるけど、デュースはマブなので無理。向こうは喧嘩の元プロなので、オレみたいな平和主義の穏やかな男は勝てない。勝てない勝負は、しない! とりあえず深呼吸をする。吸って、吐く。吸って、吐く。よし。ぜんぜん落ち着けない、解散!!!

「名前で呼ぶな」

「そこは譲らないのか」

「譲る譲らないの話じゃないの。オレが今、ピノックのことをめちゃくちゃ好きなのは知ってんだろ。だったら、他の男が急に下の名前で呼んだら嫌に決まってんじゃん」

「いや、僕は前からニールって呼んでるが」

「前から?」

 しまった。追加情報で普通に傷ついた。

「お前……オレが惚れ薬飲んで死ぬほど繊細になってること忘れんな……マジ……ショックで泣き叫んでも良い? いいや、泣こ。うわああん、マブに寝盗られた!!!」

「ち、違う! それは僕に失礼だ! ニールはちょっと好みじゃないから!」

「ちょっとぉ!?」

「いっぱい! いっぱい好みじゃない!」

 服を広げたベッドの上に大の字で転がってわんわん泣いていると、デュースがスマホを出して、画面をめちゃくちゃスワイプしているのが見えた。
 今のオレは、惚れ薬の影響でピノックが好きになっていると自覚しているから、まだギリギリ正気でいられる。これがもし普通の恋だったら、かなりシリアスな展開になっていた。
 オレ主人公のつまんねえ映画みたいなやつが始まって、デュースとピノックが実は前から仲良くて、オレだけがあとから割り込んできたやつみたいな顔をして、最終的にはオレが身を引く。で、ラストシーンはピノックとデュースの幸せなキス。エンドロール。オレは死ぬ。

 うわーーー、苦しい。これ嫉妬ってやつ? マジで? こんなの、みんな平気な顔してやってんの? 本気で恋をする前に惚れ薬を引っ被っておいてよかった。予習無しにこれがはじまったらほんとに死んじゃってたかもしれない。だってめちゃくちゃ辛い。
 好きなやつが自分以外と仲良さそうにしているだけで、こんなにしんどいのは聞いてない。名前で呼んでるだけだろって分かってる。ピノックは今のところオレの彼氏でもなんでもない。分かってるのに、普通に嫌だ。めちゃくちゃ辛い。ガチの恋ってこんなになんの!? 嫌なんですけど。助かりたい。

「ほら!! 幼なじみ!!」

「写真全部寄越せよ」

「怖……」

 デュースが眼前に突きつけてきた画面には、小さいデュースと小さいピノックが写っていた。二人とも浮き輪をつけて川に入りながら、片手にアイスを持っている。なにこれ。夏休みの思い出じゃん。そんなの急に見せられて無事でいられるわけないだろ。致死に相当だろこんなの。

「なにオレに許可なくおさななじんでんだよ……!」

「母さん同士が友達で……」

「許せねえ……」

「頼むから解除薬飲んでくれ……」

「やだ」

 ぐすぐす泣きながら、デュースのスマホからピノックの写真を探して、オレのスマホに送る作業に専念した。
 幼少期ピノック、ミドルスクール時代ピノック、ちょっと写り込んでるだけのピノック。全部いる。送る。保存する。惚れ薬が抜けたあとに見たら無駄に容量食わせたゴミ画像になるだろうけど、今のオレには必要な資料だった。というか多すぎでは? 幼なじみってこんなに人生に介入してるもんか? デュースが死ぬ時の走馬灯に、ピノックが必ず登場するレベルで情報が濃い。なんなんだよホント。

 途中で金髪を逆立てたデュースの自撮りが何枚も出てきた。惚れ薬を被ってない時に見たら、たぶんめちゃくちゃ面白かったと思う。でもそんなことに気を取られる暇もなくて、せっせとデータを奪い続ける。オレの勢いに手が出せなくなったデュースは、少し離れたところで「変なとこ触るなよ」とだけ言って諦めていた。個人情報の管理が緩すぎる。
 こいつこそ惚れ薬を被ればよかったんじゃないか? 恋をしたら自分がどうなるのか、絶対に事前確認しておいた方がいいタイプだろ。たぶんオレより情緒がめちゃくちゃになるし。

「画像からデュースだけ削るアプリってねえの」

「ない」

「うっうっうっ、ノイズ……」
「僕の写真を奪ってるくせに僕をノイズ扱いするのやめてくれ……」

「効果きれたら全部捨てるし、今は許して」

 送った写真を片っ端から開いて、デュースを削って、ピノックだけにして保存する。
 小さい頃のピノック、普通にかわいい。どの写真でもだいたい何かのロボットを持っている。表情は今とあんまり変わらないのに、手元だけは大事そうにしているのがいい。
 エレメンタルスクールの時のピノックもかわいい。この頃から背が高い。ひょろっと伸びていて、背の高さに体重が追いついてない感じがする。細い腕も、少し余った袖も、集合写真で微妙に端へ寄っているところも、全部それっぽくていい。
 ミドルスクールのピノックは、もう少しかっこよくなっていた。髪は今より短い。隣に写ってるヤンキーに合わせて染めたりしてないところに、自分の意志の強さを感じる。好き。いや、隣のヤンキーとツーショットを撮ってるのはマジでムカつく。ムカつくけど、幼なじみがグレても態度を変えずに付き合っているあたり、心が広いんだなと思う。好き……。は?? これヒロイン役デュースになる流れじゃねえ? くそビッチがよぉ。

「アバズレが……」

「どうして!」

「いや、ごめん。一瞬バグった。デュースはピノックのこと恋愛感情あって見てないよな?」

「勘弁してくれよ。見てないから……。手のかかる弟みたいな気持ちしかない」

「義兄さん」

「頼むから解除薬飲んでくれ……」

 心底疲れた顔をしているデュースを見て、申し訳ないなあという気持ちがちょっとだけ湧いた。まあ、誤差くらいの申し訳なさだけど。だって仕方なくない? オレだって好きでこうなってるわけじゃないし。
 数日間だけだし。むしろオレにマジで好きな人ができたらこれが恒常化するかもしれないんだから、今のうちに慣れておいてほしい。

 とりあえず明日はピノックのことをニールって呼ぶ。オレの手持ちじゃダメだったから、服も買いに行く。それまでちょっとババアの乳首色ジャージで歩いてもらうことになるけど、たぶんピノックが着てるならオレは全部受け入れちゃうだろうなあって思った。寒色似合うねって納得しそう。いや、ババアの乳首が寒色かどうか知らないけど。

 てかミドルスクール同じならデュースもババアの乳首色ジャージ着てたってことか? くっそウケる。
 今それ見たら「ペアルックじゃん!!」って嫉妬で気が狂うから確認しないけど、効果が無くなったら絶対見せてもらおっと。