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 デートの予定はショッピングして、カフェに行って、ほんとは映画とかも良いんじゃないって話したけど「エース、俺と一緒にマジカルプリンセス~秘宝の森はおとぎのお城!?~見てくれる?」と食い気味に言われたから「きっも」と普通に言っちゃって無しになった。惚れ薬もこれには耐えきれなかったらしい。

 さっきまでオレをいいように誑かしてたくせに、「確かに女児向けだけど内容は硬派でむしろ古典的な良さがさぁ……」って凹んでる姿をみて、ようやくオレはオレらしくなれた気がした。そうそう、こういう感じ。なーんでオレがニールにドギマギしなきゃなんねーの。こっちの調子まで全部持っていかれてたまるか。

「続きものだろ。途中から見たってわかんねえし、ニールの部屋にないの? オタクってそういうの沢山集めるんだろ? 同じCD箱買いしたりさ」

「オタクに対するイメージが偏ってる~~。陽キャの中の俺たちってそんなんよね」

「ねえの?」

「シリーズ全て集めてるしなんなら談話室に共有のやつがある」

「じゃ、言って」

「へ?」

 察しが悪いニールにいらついて、わざと繋いでる手を強く握ってしがみつくように自分に寄せた。目を白黒させてキョドってるニールを見るのは気分がいい。そうそうこれ、こういうの。オレ、こういうのがしたかったんだよね。

「『部屋に遊びに来て』って言えよ。そしたら次の約束も出来るだろ」

「オッフ」

「なに動揺してんの? トモダチの部屋行くなんてふつーじゃん。他寮なんて招待されないと入れないし、呼んでよ。オレもそのなんとかプリンセス? 見たいし」

「わあ……おっぱい当ててきて趣味に理解示そうとする攻略対象のギャルだあ……」

「おっぱいねえだろテメーー二度と他の女とオレを比べんなっつっただろ」

「痛い痛い痛い捻じるなごめんってえ」

 こいつ、すーーぐギャルゲーの知識でどうにかしようとしやがる。それってオレのこと見てないってことじゃねえの。そういうの、普通にムカつくんだけど。一通り腕をねじったあと、仕切り直すみたいにまた手を繋いだ。そうしたら、その瞬間ぱっと離されて、「あ、やりすぎた」と思った。
 怒らせたかもしれない。そう考えただけで、ざっと気分が落ちる。惚れ薬を被ってから、オレの体の反応がいちいち極端だ。たぶん血圧にもよくない。普通に健康被害が出てる。

 けど、ニールはすぐにもう一度オレの手を取った。さっきみたいに普通に握るんじゃなくて、指を絡めるようにして握りしめてくる。恋人繋ぎだ。さっきまで下がりきっていた気分が、一瞬で戻る。戻ったどころじゃない。上がりすぎて、また変な声が出そうになった。

「ね、怒らないで。俺の趣味理解しようとしてくれたんだよね、嬉しいよ。部屋綺麗にするから、遊びに来てくれる?」

「掃除とか、オレも手伝うし」

「ほんと? 優しいね。いつ空いてる?」

「あしたも、あいてるし」

「俺に早く会いたい?」

「うん」

「エースってほんと、かあいいやつ」

 さっきまでオレが優位だったのに、またすぐニールに主導権をとられた。取り返したいけど、でろでろに甘やかされてるな~って感じが嫌いじゃないから悩む。

「惚れ薬のせいだし、今だけだから。明日はまだ効果残ってるだろうけど、約束先にしたら、オレたぶん行かねえもん。ニールのこと好きなうちに行った方が、たのしい」

「エースって好きな人には健気になるタイプなんだなあ」

「かわいい?」

「かあいい」

「へへ、もっと言って」

「かあいいかあいい。ちょっと勿体ないくらいだ、捨てられた時泣いちゃうかも」

「すぐ捨ててやるから覚悟してろよ」

「鬼か~~?」

 ニールなんて期間限定で好きなだけだし。意外とでかい手とか、生意気にも香水付けてるんだなあとか、イグニハイドのキメラっていう服が気に食わないなとか、オレと歩幅合わせてくれるとことか、よく見るとまつげ長いんだなって気付きとか。
 今のオレには全部宝物みたいな感じだけど、きっと一週間もしたら全部「きっしょ」だけで終わるし。それってすげえ勿体ないと思うんだけど、こう思うオレも全部偽モンだし。

 本当なんてひとつもないから、恥も何も無い。泣いたりわがまま言ったりキモい態度とったり。全部無罪。オレだけのせいじゃねえもん。ニールにも責任の一端があるから、いいの。

「とりあえず古着屋いこ。マジカメで売ってるやつ目星つけたから、お前マネキンな」

「それって時間かかります?」

「オレが満足するまでかかります」

「ひえ~~」

「こーいうのちゃんとしないから、ババアの乳首色ジャージしか手札がなくなったんじゃねえの」

「あまりにも正論過ぎて泣いちゃった」

「……そんな悲しい?」

「オタク仕草が陽キャに通じなくて草」

「それはわかる」

 オタクの言葉、難しい。「泣いちゃった」って言うから慌てて顔を覗き込んだのに、ニールは普通に笑っていた。泣いてねえじゃん。なんだよ。
 草ってのは知ってる。面白いってことだろ。じゃあ今の「泣いちゃった」も、たぶん本当に泣いたわけじゃない。なんかの比喩だ。惚れ薬のせいでこっちはいちいち心配すんの。お前が泣いたらやだなってくらいに好きになってんだから、紛らわしい言い方すんな。

「全身真っ赤な服でも着せてやろうかな」

「俺色に染めてやるって?」

「そ。惚れ薬の効果が切れたらそれ見せてもらって、めちゃくちゃ笑う」

「おもしろ。じゃあ俺はエースのこと全身真っ黒コーデにしてやるよ」

「絶対センスないじゃん。いらねーー」

「本気の拒否すんなあ?」

 ああ、でもそれいいな。全然似合わない格好して、笑って、そしたら普通にトモダチになれるかも。そしたら、ニールと一緒にいる理由になるかも。

 惚れ薬でずぶずぶなオレの気持ちは、一週間後のオレの邪魔になるかもだけど、それは一週間後のオレに対応してもらう。
 今のオレはこんなバカみたいなことでも、未来の約束を作れて嬉しいから、恋ってのは大変だ。全然嫌じゃないのがほんと、困る。