ガシャン・カシャン・キャアキャア・グチャリ

れいせい で ねばりづよい
ちょっぴりようすのおかしい あいぼう


 

 身体が動かない。金縛り、というよりは、もっと物理的な意味で押さえ込まれているのだと思う。

 耳元に熱い吐息がかかる。俺の身体を覆うようにしているソレは、ずいぶん大きいくせに、妙なほど重さを感じさせなかった。ただ、逃げ道だけを塞ぐようにそこにいる。暗がりの中では浅黒い肌をした大柄な男に見える。けれど触れている肌はひやりと冷たく、どうにも生き物らしくない。
 人肌というより、少し弾力のあるゴムを撫でているような質感だった。輪郭もところどころ曖昧で、目を凝らした瞬間だけ、肩の向こうに何か丸い影が浮いたような気がする。頬を舐めてくる舌だけが焼けるように熱く、触れられたところが痺れるように痛んだ。

 ​───────またこの夢か。

 何度も繰り返しているせいで、今さら恐怖も何もない。最初の頃こそ目が覚めるまで必死でもがいていたけれど、どうせ身体は動かないし、向こうが満足するまで終わらないのも分かっている。
 ひやりとした手が腹の下をまさぐってくる。自分ではまるでそんな気分じゃないのに身体だけは勝手に反応するし、夢の中の男は俺の上に跨って、一生懸命腰を振ってくる。

 とはいえ、実際に何かされているような感覚は妙に薄い。肌と肌が触れているはずなのに、そこだけ輪郭のない影を押しつけられているみたいで、あるのは重なる感触と、どういうわけか身体に起こる反応だけだ。
 最後まで付き合って、自動的に欲望をぶちまければ、それで終わる。

 これが俺の無意識下の性癖……。大柄の男に搾り取られたい欲があるのか……? いや嫌だな、そんなところから自己理解を深めたくない。
 しかも起きたあとに夢精しているわけでもない。となると、やっぱり何かしらストレスが溜まっているんだろう。疲れてるな、俺。

 そんなことをぼんやり考えていると、腹に跨っていた男の動きがふいに止まった。冷たい手がするすると上へ這ってきて、俺の首にかかる。けれど絞めるわけではない。太い指が頸を囲ったまま、そこにあることを確かめるようにゆっくり撫でる。

 手首のあたりへ目を向けると、一瞬、人間の腕にはないはずの境目が見えた気がした。太い黄色の線みたいなもの。瞬きをしたら、もう浅黒い肌に戻っている。
 なんだ今の。そう思って顔を上げると、男は俺が見ていることに気づいたらしい。暗闇の中で視線が合い、ニィ、と口角を持ち上げた。あ、こいつ表情あったのか。

「すき、だいすき、にどとはなさない!」

 何故か少したどたどしい低い声。耳で聞いているというより、頭の奥へ直接落とされているような響きだった。男はまた嬉しそうに身体を揺らし、冷たい身体を絡みつかせてくる。
 人間の形をしているはずなのに、抱き締められるたび、腕が二本より多いような錯覚がした。

「おまえはいっしょう、おれのもの」

 真っ赤な目が炎のように闇に浮かび上がっていた。

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