医の者の指示:みずをたくさんのみましょう

 廃ビル裏のゴミ捨て場は前の街と違って生真面目な人間が皆無なのか全部荒らされている。雑誌でも服でもなんでもいいんだが、ろくなものが無い。仕方ないので人に『お願い』してあらゆるものを譲ってもらいながら生きていたが、癖になってんだ、ゴミ捨て場みながら歩くの。

 最近ここら辺、不審者が出て行方不明者も増えてるんだって! あっぶな~~い!
 たぶん俺の実兄ですね。あと三日くらいで移動するんで、ご近所の皆様も出会い頭焼き殺しガチャの当たりを引かないように祈りながら生きていただきたく……と思っていたが、なんとこの世には俺たち以外の不審者と行方不明者の元が存在していたらしい。

 助けてヒーロー。ヒーローが来ねえからこの治安の悪い土地を選んだんだわ。おしまいだなこりゃ。

 

「……っ、うわ……」

 最初は獣の死体かと思った。毛皮に覆われた獣のようなシルエット、180センチはありそうな巨体。倒れたそれの腹部が裂けて、内臓じゃなく“人の手”が突き出している。しかもその手首には血がついてなくて、あまりに綺麗だった。

 ​───────違う。死体じゃない。死体“入り”だ。

 よく見たら、それは白い毛皮の身体の胸のあたりが縦に割けていて、裂け目から小柄な人間の死体が半分はみ出していた。女か男かも判別できない。顔色は青く、冷たい。

 そしてそれを“吐き出しかけた”まま倒れていたそれは、人間の顔がついていた。顔だけは驚くほど整っていて、情がなく、目も半開きで、肌は死人のように白い。でも、鼻筋や骨格は人間と変わらず、ただ一つ、人間じゃないのは​─────蹄のついた足と、毛皮に覆われた巨大な獣の胴体だった。

 ふっつーに怖い。怖かった。びっくりした。異形型? 異形型ですね? な、なぜ死体を……いれて……? 食べ……?

 

「生きてるか~……?」

 おそるおそる言葉をかけると、そいつはゆっくりと瞬きをした。生きてる。生きてんのォ!? どうしよう! 割となんも考えず行動した!

 ぐぽ、ぎゅぱっ。そういう音がして、透明で粘性のある液体が彼(彼女?)の胸から溢れ出て、収納されていた死体がこぼれ落ち、ついでに俺の顔面も謎の液体でぐっしょり濡れた。

「俺が何したってんだ」

「だせました」

 乾いた声だった。よく通る、けれど感情のこもらない、空っぽな響き。その白い異形型の人は、胸の裂け目をゆっくり閉じながら、体を半分だけ起こした。
 毛皮の奥で、粘膜のようなものがひくひくと動いて、内側から縫うように切れ目がふさがっていく。

「日常生活に突然のホラーはキツすぎる……どうした……何があったんだアンタは……」

「怖がらせる、申し訳ない。よしよし」

「この死体なに……」

「荷物です、移動する。しかしダメだった。無理な運用が続きました。処理場までの隠蔽手段として、出し入れを繰り返し、あるとき、体内で動かせなくなりました。死体が、詰まりました。出せなくなりました。しかたのない、私の個性と移動、違います。死体は分からない。見ても診察できない」

 たどたどしい口調で「なおせない、なおせない」と繰り返すその人は立ち上がろうとして自分の出した粘液に滑り、毛皮でモフモフと衝撃を吸収しながら天を仰いでいた。

診察……?

なおせない……治せない……?!

 こいつ、原作キャラなんじゃないか!? 絶対そうだろ! キャラ立ってるもん!!

「しをまつのみ」

「死ぬな死ぬな! あんたの力が必要だ!」

 うおー! この流れめちゃくちゃジャンプっぽい! 原作の燈矢くんもきっとこうやって仲間を集めて行ったんだな……! これが世界の強制力、辻褄合わせは完璧だ……!!