献身的聖者は愛の為に神を殺せるか?

聖都ラウゼンティアで「神殺し」! 聖王惨殺、全聖人の奇跡を奪った悪魔の正体とは!?

 

ラウゼンティア聖王国の首都、聖都ラウゼンティアにおいて、神の血を引く現人神として崇拝されてきた聖王が殺害された。犯人は同国の第六十二番と呼ばれる男性聖人。さらに事件と同時刻、聖都に滞在していた聖人たちが、相次いで奇跡を失うという怪事が発生した。病を癒やす手はただの手となり、神託は途絶え、神の祝福を求める民衆は途方に暮れているという。神への反逆のみならず、罪なき聖人たちから奇跡まで奪い去るとは、何たる所業だろうか。決して許されることではない。

なお、我が国では考えられないことだが、聖王国では聖人となった者は俗世の名を剥奪され、番号で呼ばれる。そのため、歴史に残る大罪人の名を記すことさえできないのである! 何とも皮肉な話ではないか。

犯人の第六十二番は、生まれながらに聖痕を持ち、幼少期から教会で養育された孤児だった。奇跡を起こした実績こそなかったものの、温厚で欲がなく、神官の教えによく従う模範的な聖人として知られていた。さらに事件当時は良家の令嬢との婚姻が進められており、幸福な将来が約束されていたという。それがなぜ、突如として神を殺す大罪に及んだのか。現地では婚姻への不満、隠された愛人、聖人としての序列を巡る嫉妬などが囁かれている。中には「奇跡を起こせぬ己の不遇を恨み、他の聖人からも奇跡を奪ったのではないか」との見方まである。もし事実ならば、何と卑劣な男であろう。己に与えられぬものを、他人が持つことさえ許せなかったというのか。

ある関係者は「何も欲しがらない、本当に聞き分けのよい方でした」と証言する。だが、温厚な仮面の下に何を隠していたかなど、誰に分かろうか。聖王国はこの悪魔を聖人として遇し、衣食住を与え、美しい花嫁まで用意していたのである。その恩を王殺しで返すとは、まさに飼い犬に手を噛まれる思いであろう。何も欲しがらぬ善人ほど、ひとたび欲を覚えれば際限がないということか。

事件は早くも各国で教訓話として広まりつつある。我が国でも、妙に聞き分けのよい者を見ると、こう囁くそうだ。「聖人面した奴には気をつけろ。腹の中では神の首を狙っているぞ」。もっとも、本人の名も分からず、動機も不明では、真相の解明は当分先になりそうである。

 

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