2026-08

さいつよ

神獣会談②

褒め褒めダンスを二度も見せてあげたので、私は満足してその場へ座った。 レオンハルトもこれ以上私へ文句を言う元気はないらしく、岩へ背中を預けたまま、自分の左脚を眺めている。外套を切って作った布が二本の枝をしっかり押さえ、さっきまで好き勝手な方...
さいつよ

「その時女神は仰られた。力を授かりし者よ、汝が力は汝がためにあらず。弱き者の前に立ち、来たる災いをその身にて受けよ」 ――『女神聖典・守護篇』第二章十七節

山へ入ってから、まだ一刻も経っていなかった。昨夜に比べれば視界はずっといい。雲は厚いが雪は降っておらず、木々の隙間から白っぽい昼の光が差し込んでいる。足元の雪も、陽の当たる場所では表面が少し緩み始めていた。 その代わり、一度踏み抜けば脛まで...
さいつよ番外

ルキウス・アエミリウス・フィロンの一度目

ルキウス・アエミリウス・フィロンが医術を学び始めたのは、本人がその道を選べるほど大きくなるより前だった。生まれたときのフィロンには家名がない。母はアエミリウス家に属する奴隷で、主人のルキウス・アエミリウス・メナンドロスは、長く診療を続けてい...
オリジナル

武力には乙女心をぶつけよう!

グレゴリーが不機嫌そうな顔をしている。正確には、あれは少し悲しんでいる時の顔だとバリーは知っていた。 眉間に皺が寄っているのも、口元がへの字になっているのも普段と大して変わらない。何なら黙って座っているだけでも、これから誰かを殴りに行く前と...
さいつよ

神獣会談

小さな人間は、まだ泣いていた。さっきみたいな大声ではない。息を吸うたび鼻がぐずぐず鳴って、袖で顔を拭ったあとにも、目の端から勝手に涙が出ている。 あれだけの悲鳴を上げたのだから、こっちが怖いのはまだ変わっていないと思う。それでも逃げようとは...
さいつよ

救助隊の朝

村長宅へ集まった頃には、朝食の時間をとうに過ぎていた。 昨夜から一度も眠っていない者も多い。ブラムウェルも夜中に山へ入り、いったん戻ったあと少しだけ横になったが、眠ったというより目を閉じていた時間があっただけだった。 髪にはまだ湿ったところ...
さいつよ

一方その頃 洞窟にて③

ひっくり返ったまま四本の足を縮め、私はぶるぶる震えた。 決して寒いわけではない。怖い。いや、怖いっていうか、申し訳ないけどキショすぎる~~! タヌキがじゃないよ! タヌキは悪くないよ! むしろ可哀想だよ!  でも周りに散らばってるその氷の粒...
さいつよ

ただのレオンハルト

目が覚めた時、最初に思ったのは、寒くない、だった。次に、全身が痛いと思った。頭も、右肩も、腰も痛い。何より左足がものすごく痛かった。 目を開けても最初は白いものしか見えなくて、俺はしばらく自分がどこにいるのか分からなかった。頬へ触れているも...
さいつよ

一方その頃 洞窟にて②

朝、目を覚ましたとき、洞窟の中には誰もいなかった。正確には、誰もいないように見えた。 お父さんもお母さんも叔父虎も、ガブもヴァウもナーヤもいない。いつもなら誰かしらの身体が私の上か横か下にあるのに、今日は寝床の草が少しへこんでいるだけだ。夜...
さいつよ

『異(略)』③

夕食が終わる頃には、外はもうすっかり暗くなっていた。冬の山は日が落ちるのが早い。王都ならこの時間でも大通りには魔石灯が並び、店もまだ開いているけど、セデ村では家々の窓から灯りが漏れているくらいで、その向こうは何も見えなかった。 俺たち使節団...