成り損ない朽縄

いつかさよなら

『アナタ、アナタ。俺のたったひとつっきりの宝物な人間。俺は馬鹿じゃないから、ちゃんと知ってるのさ。ずっと一緒にはいられないんだろ? 知ってるよ。大丈夫さ』

 クリスピンの足元へ身体を寄せ、ハブネークは大きな頭をその膝へ押しつけた。撫でてもらえる位置はもう覚えている。少し待てば、案の定、大きな手が頭の上へ落ちてきた。

『もともと言葉だって伝わらないんだ。好きだってことくらいは分かってもらえても、大好きと愛してるの違いなんか、きっとかすりもしない。だからさ、アナタにつがいが現れたら、俺を捨てておくれね』

「よしよし」

『テレビで見たのさ。俺は賢いから知ってるんだ。アナタと呼んで、お前って返してもらうのは、人間のつがいの作法なんだろ? だから俺は、大好きな人間のアナタを、アナタって呼ぶんだ。なあ、アナタ』

「なんだよお前は。ご飯はまだだよ、甘えんなって」

『愛してるよ、アナタ』

 クリスピンの手のひらへ、もう一度だけ頭を擦りつける。こちらを見て笑っている顔が好きだった。呆れたように眉を下げるところも、しょうがないなあと言いながら結局撫でてくれるところも、ぜんぶ好きだった。

『だから、いつか捨ててね。アナタのつがいが来たら、ちゃんと俺を捨てておくれ。きっとそのときの俺は、今みたいないい奴ではいられないからね。アナタを取られたくなくて、嫌なことを考えて、意地悪なことをして、アナタが大切にしているものを嫌いになってしまうかもしれない。俺は臆病だからさ。大事なものをなくすのが、ものすごく怖いんだ』

「はいはい、後で遊んでやるから待ってろよ」

『だからアナタは、ちゃんとつがいを守るんだよ。俺がどれだけ嫌がっても、どれだけアナタのそばにいたがっても、俺を置いていくんだ。俺はきっと悲しいけど、それでいい。アナタが幸せなら、それが一番いいんだ。世界で一番素敵なアナタ』

 クリスピンは何も知らず、宥めるように頭を二度撫でて、それからまた自分のしていたことへ戻っていった。

『いくらでも待つよ。待つのは嫌いじゃないから。アナタがあとで来てくれるって知っていられるなら、いくらだって待てる。待たなくていいことよりも、千倍幸せなことさ』

(シャーシャーガラガラ。「よしよし」シャーシャー。「なんだよお前は。ご飯はまだだよ、甘えんなって」ガラガラシャーシャー。「はいはい、後で遊んでやるから待ってろよ」シャーシャーガラガラ。)

 通じるわけがないでしょう。蛇の声なんて。

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