バレたバレた。忍術学園のみならず、タソガレドキにもバレて何故か結託してる。いや、タソガレドキは普通に忍術学園を調度良いタイミングで裏切るだろうけど、一体なんでそことそこが仲良くやってんのかは分からない。政治的やり取りでもあるのか? 忍者隊の組頭が特定の忍たまと接触してるという情報が回ってきたが、まさかお気に入りの忍たまみつけて面白いからちょっかいかけてる……なんてなあ! そんなアホなことあるわけないか。タソガレドキの組頭と言ったら、冷酷な殺戮絡繰と言われるような男だ。そんな! まっさかあ! 普通の人間みたいなことするわけないかあ~~!
「いや~……すげえ事になってんな~……」
いままでいろんな戦場に出たし、戦忍なので普通に姿表して敵と接戦もしてきたけど、一応プロなのでこんな正面からドンパチすることになるとは思ってなかった。あの煙、焙烙火矢か? どれだけ持ち込んでるんだよ。忍者のたまごが対軍規模で武装すな。
天鬼が一度会った子供たち……忍術学園の六年生だろう、彼らとの遭遇の後から事が大きく動き出した。忍者のたまごだし、一度確信に近い情報握ったらこうなるかあ。
それにしても、上級生だけじゃなくて一年生も出るとは思わなかった。天鬼……土井半助への揺さぶりのためか。そこまで冷酷なことをするのか、今更だが忍術学園への認識を変えた方がいいかもしれない。確かに土井半助なら、生徒が危険な目にあったら無意識で……天鬼の意識を振り払って、自分を取り戻すだろう。俺は土井半助をあまり知らないが、『あまり知らない』俺でも簡単に想像出来るくらい、彼は『教師』だった。
わざと生徒を目の前で傷つけることで、確実に土井半助を目覚めさせて奪還する、か……。大川平次渦正、さすが伝説の忍者だ。人の心が無い。
煙の届かない木の上で忍たま大暴れの地上を見下ろしていると、あちこちから梟の鳴き声が響く。ぜ~ったいタソガレドキの黒鷲隊。あいつらの矢羽根だろコレ。
来る前に愛玩として飼ってる梟を放っておいたので、一般通過お喋り梟に矢羽根の邪魔されて戸惑ってくれてるらしい。これはみんなが真面目な話をしてる途中で、とつぜん知らない人が「最近調子どう~!? あたいはね~! うんち! 右から来るぞ気をつけろ!」とか捲し立ててくるイメージだ。見知らぬ狂人が混ざってたら忍者だって怖い。梟の鳴き声を正確に矢羽根へ昇華させてる分、本物の鳴き声にも『そういうふうに聞こえる、意味を読み取れる』問題が発生する。即座に対応できてないから、若いのしか居ないなここ。ドクタケでいう風鬼さんや曇鬼さんクラスの中堅はいない。若手のための比較的安全な練習場扱いされてる上に、直前の術完了してるな。な、舐められてる……! みんな舐めがちだけどドクタケってほんとはほんとに強いんだからな……! 戦争で勝ちまくってんだぞこっちは……! そのせいで兵の補充が足りてなくて満遍なく人手不足。お先が暗いが給料は良い。
俺がここに居るのがまだバレてないっていうのは、押都長烈殿は別働隊なんだろう。雑渡昆奈門と共にいるのかもしれない。あの人がいたらとりあえず俺は邪魔なので……の理由で縛られて転がされてただろうから、いなくて良かったというか……超強い人の側に超支援型の奴が付いててもうおしまいですにゃんというか……。ええ……もしかしてだけど、このあと雑渡昆奈門と山本陣内と高坂陣内左衛門と押都長烈がオールスター全員集合するの……? 諸泉尊奈門もいるか……あいつはあいつで手加減出来ないタイプの未熟者だから嫌なんだよな……。喧嘩慣れしてない奴が勢いで喧嘩相手殺すのとかと同じことしそう。
嫌だなあ……と現実逃避をしていたら、三位一体を体現した子供たちが爆走していくので木から飛び降りて先回りしておいた。出入口は複数ありますよ、そりゃあね。
緑豊かな木の上とは一転して、冷たくてゴツゴツの岩をくり抜いた基地。これは何年前だったか、結構前に領地の犯罪者を集めて掘らせたものだ。この為に作らせたものでは無いだろうが、こういう場所がドクタケにはいくつもある。いくつもあるせいで管理が疎かになって山賊の根城にされてたりして治安が終わっていく。うちの国、ダメでは? でも給料がいいから……。
天鬼は八方斎様と軍議をしている頃だろうし、よほど運が良くないと子供たちと天鬼は会わないだろう。ここも敵が来ても良いように複数の道を用意して迷路にしてるから、俺が先回りして子供を回収して忍術学園の門にでも転がしておいてやれば良い。
「前もあったなあ」
五年前は向う見ずなチビたちを逆さ吊りにして門の前に転がしたけど、半年くらい前にもあったな。放棄拠点を見回ってたら住み着いた山賊に何人かの忍たまが捕まってて、見捨てたら恨むとか言われて仕方なく助けてやったんだ。そのまま腕だけ縛って門の前に転がして、子供の声で土井半助が出てきたから会釈して逃げた。生徒が拘束されてたら身の安全確認を優先するだろうと思っての行動だったが、思った通り怪しい俺よりも生徒の方を優先してた。俺は土井半助なんてそれくらいしかしらない。
ああ、でも、
「楽しそうだったな」
やわらかく笑う男だったな、土井半助は。俺は天鬼の笑い方の方が好きだけど、幸せそうに笑う男だった。
考え込んでいると人の気配が増える。と言っても知ってる気配だ、ドクタケ忍者がぞろぞろと移動していく。いつもは八方斎様に付き従っている風鬼さんが、珍しく別行動をとっていたらしく俺を見て駆け寄ってきた。
「影鬼、お前ここにいたのか!」
「ええ、はい。あ! サボってないですよ! 臨機応変に対応ってやつで……」
「バカ、そんな心配してない!」
慌ててると、風鬼さんは俺の頭を掴んで無理やり下げさせた。えっ! 叱られ案件なら心の準備するから先に言ってくれませんか!?
「八方斎様がいつもと違う」
「はあ……アイライン変えましたよね……」
「そうじゃない! ああもう、とにかく、影鬼! お前は、」
強めに拳で肩パンされたので、やっぱりこれ叱られ案件か!? ビビりながら顔を上げると、風鬼さんはいつも以上に困ったような苦しそうな顔をしていた。あれ、本当にどうした。俺が面白鉄板トークとして話した「背中の的に師匠のクナイが刺さらなかったら茶碗にいれた飯が貰える」を聞いて「お前それ全然おもしろくねえよ、つれえよ」と顔中くちゃくちゃにしてた時と同じ感じだけど、ええ、なに、なんかそういう『普通』からみてズレてる事が発生してる? 気をつけてるはずなのに。
風鬼さんは俺の装束を掴んで強くゆさぶってくる。なんか必死だ。なんでだ?
「影鬼、お前はこれから、思った通りに行動して良いんだ。お前が、お前の考えで動いていい。義務とかじゃない、どう思ったかで動け。衝動で行け。じゃないとたぶんダメだ」
「ええ~……?」
「俺だって俺が何言ってるかわかんねえけど、今の八方斎様は前とは違う。そんな八方斎様が命じたものだけど、影鬼おまえ、すごい良くなってるぞ。カリカリに痩せて傷だらけで貼っつけた笑い方してたガキだったのが、お前最近すごいちゃんと笑えてるんだ。だからみんな、良かったなあって」
俺を揺さぶり続けてる風鬼さんのサングラスもどんどんズレていく。素顔を出さない事が家訓のひとつにもなってるのに。初めて眼ぇ見たよ俺。一生懸命話してくれてるのに、俺のために必死になってくれる人がいるんだと思ったらなんかそれだけで腹の中がいっぱいになってきた。
「お前が衝動で動いた結果で何があっても、俺が味方になってやる! だから、」
「わかった! わかったよ! だーいじょぶだって、俺もプロよ? そんなに心配しないでくださいって!」
笑って、掴まれていた手を外す。ずれたサングラスもなおしてやって「ありがとう、言われた通り思うままにやってみるよ! 八方斎さまにどやされる前に先に行って」と手を振った。「いいかあー、俺は味方だからなあ」と二回振り返って先に走っていく背中をずっとみていた。
俺がどう考えて、何かを成して、それが八方斎さまへの反逆になる可能性があるんだろうなあ。そしてそれを味方してくれるって。ダメだよ。風鬼さんには奥さんもふぶ鬼もいるから。お父さんがそんなリスクを負ったらいけません。
産まれたばかりのふぶ鬼を抱かせてくれて「家族が一生食うにこまらないようにするんだ」って言ってたの、俺おぼえてるんで。真っ先に俺の事見捨ててくれないと困るよ。
「ありがとう、『兄さん』」
しばらく考えて、遠くから光と子供たちの声が聞こえる。複数人の気配が凄まじい勢いで近寄ってくる。そろそろ行くかと立ち上がって、ゆっくりと光の元へ向かった。天鬼はところどころ、土井半助の顔をのぞかせる。伴侶になっても良いと思ったのは 天鬼だ、彼が土井半助に戻ったら、愛した人の死と言えるのかもしれない。でも、土井半助は楽しそうだった。もう夜に魘されることも無いだろう。子供たちに囲まれて慕われて、地獄の底で積み上げた石にのって、ようやく這い出た陽だまりだ。帰る場所があるのだ、土井半助は。帰る場所がない天鬼だけ、俺のものにしてもいいかな。俺と一緒に、共に居てくれないか。魂だけでいいから。
影鬼は優秀なドクタケ忍者なので、忍務に忠実に邪魔な忍たまを排除する。
逸初はもう二度と死にたくないので、危険なタソガレドキ忍者の前には出ない。
智仁は何も無いので、バカなので、衝動で、
天鬼が子供たちに振るった刀の前に、背中から飛び込んで自分を盾にするしかできないのでした。めでたしめでたし、とっぴんぱらりのぷぅ。
