最小の動きで最大の結果を
ドクタケ忍者隊 風鬼はうだつのあがらない中堅忍者である。
忍たまのよいこに仕事を邪魔されたり、息子のふぶ鬼に落胆されたり、上司の頭を支えたりと、おとぼけやられ役の名を欲しいままにしている。
……という訳では無い。ドクタケという国の忍者隊首領の右腕として、実力は確かなのだ。自分より強い忍者が目立つだけで、そもそも忍者とは目立ってはいけない存在。そう考えると、十分以上に優秀な忍だ。
とはいえ、風鬼は自分の内面を忍者らしいとはけして思ってはいない。そりゃあ人生まるまる忍者として、ドクタケ忍者隊首領の右腕を自称他称して生きている。妻子もいて家庭を守り、同僚たちとは時にぶつかりながらも上手くやり、幾多の戦場を経て五体満足で帰ってきているあたり、プライドはある。
が、カリカリに痩せた子供が貼っつけたような笑顔でにこにこしてたら裏を読んで労しくもなるし、それが本当に何度人に蹴られてもしっぽを振って寄ってくる犬のような子供だと可哀想でたまらなくなる。
普通の忍者はだからどうしたこのご時世よくある事だろと放置して、そのままどこかで誰かの捨て駒にでもするのが当たり前のことなのだろう。
風鬼にはそれが出来なかったから、自分を忍者だと思い込んでいた老人に中途半端に教わった表面上の忍術を全部正しいものに覚え直させて、暴力を受けることに慣れすぎて自分を省みなくなってしまった性根を叩き直し、産まれたばかりの最愛の息子の世話を命じた。可愛いだろう小さいだろう、お前がいなけりゃ死んじゃう命だ。ちゃんと世話してやってくれ。この子はお前を兄と呼ぶぞ、兄ちゃんだ、弟を守ってやれよ。
風鬼は影鬼の過去を、彼が軽口で語る全然笑えない笑い話の一部でしか知らないが、子供の世話がとても上手いのをみていると何となくわかる。きっときょうだいは多かったのだろう。刀の持ち方がしっかりしている、きっと誰かに習ったことがある。文字や箸の持ち方が綺麗だ、礼儀作法を学べる家だったのだろう。良いところの、家の子供だったのだろう。本人が言わないことは何も聞かなかったので、全て憶測だ。こんな風に情に脆いのは、忍者の三禁の色にひっかかる。風鬼は影鬼を、息子のように思っているのだ。年はたった十一しか違わないから、きっと向こうからしたらせいぜい年の離れた兄貴だろう。だが、我が子が生まれた頃に世話を始めた子供だ。父性爆発時に目をかけてしまったのだ、ひっくるめて、我が子の枠にいれてしまった。
子供たちの前に白刃が振られる、その瞬間バカが躍り出てきた。お前バカアホボケ前からいけそれやるなら刀抑えるように前からアホアホバカボケ。
思考と同時に、身体が自動で今行うべき最善を行動する。袖口に仕込んでいた分銅鎖を腕と一緒に大きく振り抜き、狙うは軸足。巻きついたそれを一気に引っ張りあげると同時に手繰り寄せた。風鬼ごと、曇鬼や霜鬼が力を合わせて引っ張りあげる。ずぞぞぞぞと痛そうな音をあげ、実際「いっでえええ」と情けない悲鳴を上げながら目的の者は手元に転がされた。
「バカお前! 教えたはずだ教えたはずだ教えたはずだ!! 忍者は生きて帰ることが仕事だと! 教えたはずだ! 衝動で動けと言ったが死んでいいとは言ってないだろうが!!」
「だ、だってさあ~……」
仲間達が腰を抜かして「死んだと思った」「風鬼、分銅鎖上手くないか?」と軽口を叩いてる。それどころじゃない。間抜けな顔をしたこのスカポンタンの頭をバシバシと叩きまくる。
「お前、人は死んだら死ぬんだぞ! わかってるのか! ふぶ鬼泣かせたら殺すぞ! あの子はお前が死んだら泣くんだぞ!」
「一セリフに全ての矛盾が込められてる! ごめんごめんごめんなさい! 怒んないで!」
「俺しかお前を叱らねえから仕方ねえだろ! 」
「いっでえ!」
最後に一発拳を脳天にぶち込むと、背後から山田伝蔵が「まあまあ、落ち着いてくださいよ」と仲裁の形で現れて、そのまま後ろ手を拘束された。ふと気づくと、天鬼は子供たちに囲まれている。ああ、あれはもう天鬼ではないな。土井半助にもどったのか。
ドクタケとしては痛手でしかないが、風鬼としてはこれでよかったと思う。あの子供たちはふぶ鬼の友人だ。息子の友人を息子の先生の手で殺させて、家に帰ったあとに「父ちゃん今日はどんな仕事したの」と聞かれたときに、いつものように「ドクタケのために一生懸命働いたさ」と笑って答えることなんてできない。飲み込める悪事と、飲み込めない悪事がある。これは後者だ。
自分と同じように縛られている影鬼も、天鬼をじっとみていた。本当は、衝動に任せて二人でどこかに逃げて欲しかった。天鬼は天鬼のままになるけど、二人ならきっとどこへでも逃げられただろう。そこで、本当は騙されていたと伝えてやれば良い。
この時代だ、全ては視点を変えれば悪にも善にもなる。忍術学園は絶対悪ではないし、ドクタケも絶対善ではないと伝えれば、天鬼は影鬼の話を聞いただろう。部外者の自分がそう思えるだけの信頼関係が二人からは見えた。
「天鬼、居なくなっちゃったな」
「そうだな」
「そっか、じゃあ『愛』担当おしまいってことで!」
「お前、それでいいのか」
「仕方ないって、はじめから無いものだったんだからさ」
影鬼の顔にべたりと笑顔が張り付いていく。最近、本当に良くなってると思ってたんだ。こいつの本当の笑い方は、目元だけで笑うような……話を聞いてるか聞いてないかわからないような顔だから。やっぱりダメだったかと悲しくなって、風鬼は縛られながら肩を落とした。
