朝から怖い話
空が白み始めた頃に起き始めた天鬼に合わせて、俺もぼちぼち起きるぞ~のふりをしながら閉じていた目を開ける。徹夜です。今日も天鬼は天鬼のままで洗脳は無事に継続していてめでたい限りだ。
ぼんやりとした雰囲気の天鬼を「おはよ」と言いながら抱きしめると、「……おはよう」と掠れた声と一緒に抱きしめ返される。好感度は下がっていない模様。こちらもめでたい限りだ。
「……あなたの夢を見た。子供の声がして……影鬼は私を見て笑って頭を下げていたんだ。私も同じように返して……話しかけたいなと、思った夢だった」
なんで朝からそんな怖い話するの?
こっえ~~! それ現実のやつじゃねえか。俺が土井半助とエンカウントする度に、渾身の愛想笑いと会釈でやり過ごしてたことを思い出すんじゃない……!
「ああ、俺はドクタケ忍術教室の手伝いをしていたからな。子供たちの引率をしていた時のことだろう。……いつの記憶だろうな、出会ったばかりの頃は意識しすぎて俺が君に突っかかってたところがあるから、それよりもあとかな」
「どう突っかかってたきたんだ」
「優秀な忍者へ対する嫉妬ってやつだよ。仕方ないだろ、同い年でこうも実力がはなれてたらライバル心も芽生えるさ」
「あなたは充分に優秀だ」
「君と比べちゃうとなあ」
忍術学園で教師していた土井半助と、忍者を騙る狂った老人に忍術的な何かを教わっただけの俺では基礎能力の差からとんでもない格差が生まれちゃってんだよな。別に実際それで嫉妬とかはしてない。嫉妬というのは同じくらいのレベルのもので発生するものだ。初めから差があるものだと何も生まれない。
忍者を騙る(以下略)に教わったものだけでも大量雇用募集していたドクタケに戦忍として雇用されたし、見習いだった時は二十一番という番号だったけど正規雇用で影鬼という名前も貰えたし、そうなったら風鬼さんや曇鬼さんという由緒正しいドクタケ忍者の中でも喜車の術に弱めの先輩たちに擦り寄って本物の忍術も教わることが出来た。
ドクタケ忍者隊って基本、先祖代々ドクタケに仕えてる一族のものたちだから良い家柄なんだよな。いまでも「お前ちゃんと食べてるのか」ってお裾分けで米を俵でくれたりするし……。
寝転びながら取り留めのない話を続けていると、天鬼がギュウと強く抱きついて俺の胸に額を押し付けてきた。これがこいつの甘え方らしい。今から起きてもしょうがないから丁度いい。よしよしと背中を撫でておく。
「起きるには早すぎるから二度寝しよう。団子屋に行って城下を回ろうか、買い物がしたいな」
「……何か欲しいものがあるなら買ってやろう。給金は私の方が良い」
「いえいえ、こう見えて年々基本給が上がっておりますので……今は支給されている部屋だけど、戦が終わったら屋敷でも建てようか。二人で住むだけの小さなやつをさ、少し離れたところに建てるんだ」
「それは……良いな……」
理想の屋敷の話をしながら、寝かし付けるように無い話無い話をする。俺には下にきょうだいが五人もいるから、屋敷も伴侶も自慢したいな。立派に働いてる姿を見てもらうのもいいし、伴侶を得て仲良く暮らしてるんだぞと自慢もしたい。まだ幼いし遠いところに住んでいるから挙式の時には来れなかったが、今やってる戦が治まればここら辺の治安も改善して会えるようになるだろう。
どくたま達もほぼ毎日会っていた俺が行かなくなって少しは寂しいと思ってくれているかもしれない。特にふぶ鬼は俺がおしめを替えて子守りをしながら成長を見守ってきたからな。新しい家で新しい布団を買って、お泊まり会とか楽しそうだなあ。
天鬼は中々寝ようとせずに、ペラペラと喋る俺をじっと見ていた。寝てくれ~~! このまま行くと、俺の手持ちの札は親父の浮気で実家が大変編と、忍者モドキ一年生時のやらかし編しかなくなる。あとなんだ? ふぶ鬼のおねしょを庇おうとして俺がやったと言い張り、風鬼先輩から本気で心配された時の話とか? 手持ちが『恥』しかない人生だな。
「……人の話ばかりだ」
「え、ごめん。ダメだった?」
「いいや、逆だ。……あなたは誰かのことばかり想ってる、優しい人間だ。だから私はあなたを好きになったんだろう。
あなたのきょうだいに会ってみたい。どくたま達を招いてそのお泊まり会とやらをやってみよう。そのためには、早く忍術学園を滅ぼさなければな」
「……嬉しいよ、一緒に……みんなで頑張って、平和を勝ち取ろうな。早くきょうだいに会いたいよ、もう十年も会ってないから」
「家族が離ればなれになるのは、辛かっただろう」
身体をずり上げた天鬼が俺の頭を抱えるようにして言う。「少し寝るといい、いつもあなたが見守ってくれているから安心して眠れるんだ。今くらい、私が代わりに守ってあげよう」小さく小さく、私も辛かったという言葉が付け足される。
天鬼、もとい土井半助の人生に何があったのかはわからないが、戦が嫌いになるようななにかと家族が離ればなれになるようななにかがあったのだろう。あとで八方斎様に報告しとこ。
きょうだいもなにも、家族いないんすけどね俺。盛り過ぎたか~? と思ったが、まあなんだかんだで心の弱いところにまた潜り込めたみたいでセーフとしよう。
今寝たらやばいからとりあえず目を閉じて寝るふりだけして───────。
「朝だぞ、起きてくれ」
「ぶえっ」
三時間しっかり寝た。やっっっべえ~~~~!!
