百の嘘重ねて真実一つくださいな
丹念に無い話無い記憶を積み上げ続けて、この戦が終わったら俺たちここら辺に家建てるんだ……と土地を選ぶほどに将来設計固めきった今日この頃だが、さすがに忍術学園が騒がしくなってきている。待って、俺、もしかしてこの忍務一生ものなの? 一生天鬼と生きるの俺?? いや、まあ、殺されないなら別にいいけど……。『強いものには逆らうな 長いものには巻かれとけ 命あるだけ有り難し』が我が家訓だ。逆らわないし巻かれるし命があればそれで良い。
天鬼は天鬼で軍師の仕事に忙しく、俺は俺で忍術学園への警戒を命じられているので、ここ数日は俺が朝にダッシュで愛の告白とお仕事気をつけてね♡の挨拶するくらいしか出来ていない。毎日会わないと気持ちって薄れるものだからな、こういうこまかいところからほころびは生まれるのだ。
最近は笑うのに慣れてきた天鬼がフッと口元を綻ばせて「そんなに私に会いたいか」と言うので「そりゃそうだろ。きみだって明日から俺が来なくなったら泣いちゃわないか?」と軽口を叩き合う。少し考えた顔をして「泣きはしないが……そうだな、あなたが恋しくて仕事が手につかなくなるかもしれない」と冗談を返された。冗談……ですよね……? 軍師殿の仕事が手につかなくなると、末端の我らが大変なんスわ……。
忍術学園内部の様子はわからないが、何故かタソガレドキが堂々と内部にいる。えっ、手を組んだんですか? 土井半助の後釜にその若いの入れるんですか?
諸泉尊奈門はまだしも、雑渡昆奈門もいるから近付けない。あの人、昔戦場で会った時に速攻撤退決め込んだ俺に無意味に殺気飛ばしてしたヤバい奴だから苦手なんだよな……。強い人に殺すぞ言われたら、それはもう殺し返さないと生き残れないだろう。あの時は逃げられたけど、次同じことがあったら俺は四肢落とされても喉笛に喰らいついてぶっ殺すからな。俺を殺すやつだけは絶対殺すと決めている。
六年生があちこち移動して土井半助の行方を探してるが、状況はあまり芳しくないらしい。表に出していないから上手いこと情報秘匿出来てるようだ、最近ドクタケも忍術学園にちょっかいをかけてないからこそ警戒から外れているのか。
俺だったらまずドクタケ方面に調査隊向かわせるんだけどなあ。普段と違う行動してたらそこから疑うべきだろ。教師の何名かはこちらを警戒して偵察に来てるが、そっちが本命か? いや、でもここは生徒に学びの場として……。
考えながら、振り向きざまに手裏剣を投げつけた。額の真ん中を狙ったそれは、最小の動きで避けられて返す刀で目潰しが投げつけられる。ドクタケのオシャレサングラスで目を守り、刺激臭のする煙幕は事前に警戒していたおかげで鼻口を覆って回避出来た。
「はい松千代万殿み~つけた!」
「は、はずかしい~~!」
偵察隊の教員を追い払う作業、結構奥の方にも侵入許しちゃってるねえ!!
敵として会いたくない、会った時点で情報抜かれてる敵堂々一位の松千代万が草むらから飛び出してそのままダッシュ撤退を決める。ただでさえ殴り合いでも勝てない体格差なのに、素早いし気配遮断が異常に上手いんだよあの忍者! 忍術学園本気じゃん! 偵察のプロ中のプロが本陣手前に来てるわ!
きゃあ~! と悲鳴をあげながらも本気で追う俺を一切近付けさせず、秒で気配を消して闇に消えていく松千代殿の追跡を早々に諦める。昨日は斜堂影麿殿だったか、あの人もまったく気配を出さずに背後に居たりするから怖いんだよな。違うタイプの潜入偵察のプロを次々動員してくる。
まだ天鬼のことはバレてないだろうが、ドクタケが怪しい動きをしてるぞというのはバレているだろう。一夜城の方は秒読みか。山田伝蔵の息子の方も、卒業生連れて動いてるんだよな。あいつはフリーだから今の所属を割るのも面倒だ。ちゃんと就職しろ! ドクタケは良いぞ、給料と福利厚生が手厚いから……ちょっと四方八方の国と喧嘩して全方位敵まみれってだけで、最近だと新入忍者の為の研修とかあるし……俺の時は蠱毒システムで生き残ったやつだけ正式雇用だったけど、だいぶマシになってる。
「あそこは大黄奈栗野木下殿の管轄だから心配だな」
あの人、穴太衆の頭目だから健城作業でいてもらわなきゃ困るんだが、性格がとにかくドクタケ向きじゃ……忍者向きじゃないんだよなあ。飴売りやっててくれないか? 必要時呼ぶから……彼こそフリーの忍者しててくれよ。
俺のそんな心配はあっという間に的中したし、天鬼と忍術学園の生徒が接触したのだった。
はやいはやいはやいはやい! ちょっとばかりこっちが偵察に来てるタソガレドキ忍者とどつきあってる間に物語進めるのやめて! 押都長烈殿、蘇利古の雑面というビジュアルが怖すぎて夜に会いたくない忍者一位にしてるのに普通に人の隣で「土井半助はここか?」とか聞いてくる。敵対組織の小頭が一般戦忍に気軽に話しかけないでくれ~~~! しらないひとですさようなら。怖すぎて逃げて追いかけられてボコボコにされながら必死に帰宅したら、天鬼が「土井半助を知っているか」と言ってきて、鼻から魂抜けかけた。やめて。怖い話しないで。
「ああ、忍術学園の教員だったはず。それがどうしたんだ」
「私をそう呼ぶ子供たちがいた」
「似て……るかなあ? 俺もタソガレドキの忍者に土井半助について聞かれたけど、謀反か行方不明かして探されてるのかもしれないな。一応顔は知ってるけど、間違えるほどでは無いと思うが……」
天鬼の顔を無遠慮にペタペタ触りながら言い含める。遠くからしか見たことがないけど、あれの髪はこんなにサラサラしてなかったなあ。もっとぼさついた髪をしていた。それに表情も全然違う、あっちはもっと軽薄だった。俺の好みじゃないなあ。
ドクタケのちょっと良いシャンプーのおかげで、天鬼の髪は来たばかりの頃よりサラサラになってる。俺が夜な夜な丁寧に乾かして油をつけて育てている髪です。だって土井半助の分かりやすい特徴のひとつに、ぼさついた髪ってのがあったからな。変えられる特徴は変えておくに限る。
半眼でむっすりした顔がデフォルトになってる今は、あの快活でにこやかな好青年とイメージが被らないだろう。全然違うよ。背格好だけは似てるから、会いたい人を探しすぎて間違えたんじゃないかな。
事実を言い換えて嘘には真実を混ぜて捏ねる。本当本当、土井半助より今の天鬼の方が好きだよ。遠くから見ていた時はお人好しで幸せそうなやつだと思ってたからあんまり好きじゃなかったけど、いまの毎晩魘されて苦しそうに寝てる天鬼だったら好きになれる。俺が背中を撫でると穏やかになる呼吸も、嫌いじゃない。
「土井半助だったら好きになんてならなかったから、絶対にきみじゃないよ。変な勘違いされてるね」
「そうか。……そうだな、よくある手だ。子供を使って油断を誘おうとしたのだろう」
「そんなの今更ひっかからないってのにね、忍術学園おそるるに足らずだ」
「ああ、まったく」
のすっと体重をかけてきた天鬼は、俺の耳元に口元を寄せて「もう寝よう。あなたが私を甘やかすから、一人で寝るのが怖くなってしまった」と猫のように身体を擦り合わせる。それに合わせて児戯のような口付けを繰り返した。いま舌を入れたら噛みつかれるかなと、何度目になるか分からない考えを振り払う。
「この大仕事を終えたら、初夜のやり直しをしようか」
「……抱いてくれるのか?」
「抱かせて欲しいってのが本音。だってさあ、祝言を上げたばかりでこうなっちゃったから、まだ二人でふうふらしいことを全然出来てないんだよ」
恋人だった期間も、所属が違ったから堂々とは一緒にいれなかったからね。
無いこと無い記憶無い思い出を繰り返し積み上げて、この愛を本物へと偽造していく。
二人の家を建てて、二人で住んで、家族にも紹介して、幸せに暮らそう。どこにでもある、一般的な幸福ってやつを手に入れましょう! ほんと、天鬼だったら伴侶にいいなって思ってきてるんだ。だってこいつは強いから、そう簡単に死なないだろう。いつ死ぬんだもう死ぬのか手のひらの上で冷えていく、産声もあげない肉塊に名前をつけて埋葬するなんてもうこりごりだ。家族は強い方がいい。だから俺、天鬼だったら好きになれそうなんだ。八方斎様が繋いでくれた縁だと思って、本当に大切にするって誓うよ。
「俺さあ、きみが思ってるより、きみのこと好きだよ」
特に言うつもりのなかった言葉が勝手に出たけど、天鬼は前よりも自然になった笑顔で「……知っている」と肯定してくれた。
早く諸々、終わらないかなあ。家の場所は目星をつけたんだ、引っ越すためには荷物を減らした方がいいかもしれない。押し入れの中に詰め込んだ凧も駒も簪も手紙も鞠も人形も着物も嘘つきな犬張子も役ただずの御守りも無意味な札も溶けた飴も何もかも、片付けてしまわないと。寺にでも寄付するか、手紙以外は活用できるだろう。手紙はどこへ送ったらよかったんだっけ。地獄だっけ。忘れちゃったな。
