ちょっとした十年前のはなし
「長男が生まれましてねえ!」
「五億回聞いた」
「えっへっへへぇ!」
ドクタケ忍者隊若きエースの風鬼に、数日前長男が生まれた。ふぶ鬼と名付けられた赤ん坊は大きく生まれよく泣く元気な子で、この様子だとこのまま健康に育ってくれるだろう。産まれたばかりの子と妻のためにも、これからもバリバリ働くぞい! とやる気に満ち溢れては、同僚の曇鬼にうんざりとした顔をされている。
「近々また大量雇用がはじまるってよ」
「戦か?」
「いや、逆だな。平和なうちに少しでも使えそうな人材を集めるんだと。今回は三十二番までだ」
「前回より増えたなあ」
「年齢制限引き下げたらしい」
君もドクタケ忍者になろう! なんてポスターを貼って、応募してきたもの達は正規雇用までの間は番号で呼ばれる。まったくもって人権というものがない。
この雇用で本当にドクタケ忍者になれるのは一握り以下だ。だいたいは、焙烙火矢を作る作業中に一緒に飛び散るとか先遣隊に同行させて飛び散るとかして居なくなる。まったくもって人権はない。
「あそこにいるのがそうか。いやあ、汚いなあ」
「浮浪者の集まりだからな、道端で死ぬよりマシかもしれないと来てる連中だ。今回は……あのひょろ長いガキ、あれだけは可能性があるな」
「どれどれ」
曇鬼に指さされた先を覗き込んだ風鬼が見たのは、言葉の通りの『ひょろ長いガキ』だった。背だけが伸びて、身体に肉が付いていない。あまり飯を食べさせられてなかったんだろうなというのが一目でわかる。
「あいつは読み書きができて、少しは忍術の心得があるらしい。鍛えたら使えるようになるかもしれないと八方斎様も仰って……おい、どうした」
「ひん……」
「うわ、泣くな!」
「子供があんなに痩せっぽちなの、いまの父性じゃ俺、耐えられねえよ……!」
「父性」
「我が子が生まれたばかりなんです、子供が腹いっぱい食べられない社会に耐えられない……!」
「ここドクタケなのに」
「ちょ、ちょっとあの子供俺のとこで使えないか八方斎様に聞いてくる……!」
「行動力」
見習いがまとめて収容される大部屋からあぶれ、二十一番とシールの貼られた痩せた子供が落ち葉の上にゴザを敷いて寝床とし、そこらのキノコを火で炙って食べているのを「子守りなどの雑用に」との名目でドクタケ忍者隊風鬼が引き取ったのは、それから数刻後のことだった。
