愛と正義の『愛』担当の俺です 対戦よろしくお願いします

嘘は続くよどこまでも

 

 『愛』担当終了終了! 転がされたまま天鬼をみたら、もう欠片もなくなっていた。欠片たりとて俺のものにはなってくれなかったのでおしまいです。今更だけど、これって失恋っていうやつじゃないか? そんな体験できると思わなかったからちょっと嬉しいかもしれない。

 風鬼さんからはドチャクソ叱られたけど、許されたい。俺の衝動ってこれで……たぶん心中がしたかったんだよ、俺。

 子供を傷つけたら天鬼じゃなくて土井半助が出てくる。でも『天鬼』が子供を殺したら、土井半助はもう二度と忍術学園の先生には戻れない。土井半助が土井半助のままドクタケの軍師になったって、土井半助は辛いし天鬼は居なくなるしで俺の得はひとつもないだろう。だから、俺の死体ひとつでさ。返り血浴びた子供を見て天鬼は土井半助に戻れるし、子供は無事だし、俺は『天鬼』を連れて一緒に地獄にいける。家族に紹介したかったなあって、それだけ。

 結局天鬼は刀を振り切らなかったし、子供の声で自力で記憶喪失をなおしたから叶わなかったけど。

 これだけのことをしたんだ、俺は確実に処刑かなあ。ふぶ鬼は泣いちゃうけど、どうにか遠征忍務ってことにして誤魔化してもらおう。大人になったあたりでどこかでヘマして死んだって言っといて欲しい。

 長い『愛』担当だったけど、これでようやく開放される。そう思ったら気分も穏やかだった。いままでは、死ぬのが何より怖かった。でも今はなんか、そんなに怖くない。鼻歌だってうたえそうだ。人を騙し続けるのも、嘘をつきつづけるのも、本当は苦手なんだ。


 連行のため立たされて素直に従う。もう一斉検挙じゃんこれ。ドクタケ、忍術学園にどれだけ支払うんだろう。財政傾くぞこんなん。そんなことを考えていたら、「その人は違います!」と天……土井半助が駆けてきて、俺の拘束を解いた。


「えっ」

 お、俺がやばいやつだったらここで大暴れ開始するんすけど……?
 困惑してると、土井半助は俺の頬に手を当てて「顔に擦過傷、他には? 足は無事か」と聞いてきたので、「ヒビは入ってると思う……」と素直にこたえておいた。なに? なんなの?

「土井先生、彼はいったい」と、山田伝蔵殿が責任者代表みたいに 聞いてくる。ねえ、ほんと、俺はいったいなんなの?

「彼は……」

 俺は……

「えと、こちらで出会って……結婚したんです……」

「えー!!! 先生結婚したの!?」「だからさっき僕たちを庇ってくれたんですか!?」「御祝儀受付会場はここです!!!」

 えっっ 俺結婚したの!!?
咄嗟に納得しかけたが、これアレだ! 半端に洗脳溶けてるだけ!! 俺が作った嘘のラブ記憶だけ『現実』に侵食してる!!

 縛られたままの雷鬼さんが小さく「【騙す者騙される者。しかし若い二人の心は互いに惹かれ合い……~虚飾にまみれたそれを、愛とは呼ばず罪と名付けた~】coming soon……」と呟く声が聞こえた。あの……あの絵入本の作者の方ですか? 忍者辞めても食ってけるよあんた。

「やっぱ若いふたりが共にすごして何も起きないことはなかったな」
「俺はこうなると思ってた」

 ドクタケ忍者の他人事まるだしのコメントがぶつぶつ聞こえる。あんたら頭打ってないのになんでだよ! えっえっえー?

 俺の困惑をおいて、全てが勝手に進んでいく。「出会いは八方斎の策謀でしたが、天鬼としての私を親身に支えてくれて……」とか「将来のことも既に話し合ってて……」と、確かにね! 確かにそうだけどね! と否定はできない惚気話をされているし、あのあの、今回の件、俺の身柄引受で多額の身代金減額が決定されてません……!? そうなりゃ俺の事一瞬で見捨てるようちの殿! いやそれよりもなによりも、

「俺の身柄ひとつで済むやらかしではなくないか!?」

 少なくとも八方斎さまの首は落としとくべきでは?! さすがにそれは口に出さなかったが、俺の悲鳴に被せるように風鬼さんが「俺が大切に育てたんだぞ、幸せにしてやってくれよなー!」と男泣きをしはじめたので、俺の言葉は誰にも届かなかった。いや、向こうで爆笑してるタソガレドキの面々には伝わってると思うけど。もう出てってくれよ、なんなんだよタソガレドキ。本当にわからん、なんで手を組んでるんだこいつら。あと俺、風鬼さんに育てられてたのか……? 心の中で兄のようだとは思ってたけど……。


 かくして、記憶喪失で行方不明となっていた土井半助は記憶と伴侶を得て忍術学園へ帰還したのであった。

 俺? 俺は教員枠で採用されかけたのを必死でお断りして事務員Bになってます。給料はめっ~~ちゃ下がりしまた。記憶混在してる土井半助が週末だけ一人部屋の俺の部屋に来て布団並べて寝てます。

 隣でスヤスヤ寝てる土井半助が、寝相で放り出した布団をかけなおしてやる。ほんとうに、まったく、どうしようかねコレ。

「ふふ、」
「なんだ、寝たふりか」
「起きただけさ」

 寝ぼけてとけた声でくすくす笑って、土井半助は俺の頬を撫でる。

「あなたはずっと、こうやって私を守ってくれていたね」
「なんのことだか」
「わからなくていい。勝手に救われていたんだ」

 おやすみと口付けをされて布団に戻る。う~ん。
愛と正義の『愛』担当、第一部完!!! 第二部開始!!!

 俺の過去が俺を殺しにやってきてる。天鬼を口説きまくった過去が! 土井半助に乗り移ってやってきてる!! ど~~~しよっかねえコレ~~~! 俺もうドクタケにも帰れねえし、忍術学園は俺より強い忍者いっぱいの魔境だよコレ。
 今のところ『命じられて嘘をついていた部分はあるけど、二人で過ごした夜の数だけ真実があるよね……♡』という方向で生き延びているが、いつまで持つか。たすけて天鬼。このままだと俺……土井半助まで好きになってしまう……! いちばん問題ない流れか、コレ!? いや、俺がやったラブ洗脳完全解除されたら、俺だけ好きになった上で「伴侶を強制した異常狂人」として蛇蝎のごとく嫌われちゃわないか!? こ、こわすぎる…………。今後真面目に生きるので、どうにかしてくれ……ここから入れる保険持ってきてくれ……誰か……。

 俺の苦悩を夢見が悪いと思ったのか、土井半助が優しく腹をさすってくる。ぎぃ~~っ! たすけて天鬼、好きに、なっぢゃゔ……っ! 俺は、本当は、色に弱すぎるから……っ! 優しくされると、好きになっちゃう……!


 嫌われる前に逃げたい。たすけてくれ。無理か。そんなこといわないで……。誰に向けての命乞いかわからないものを繰り返して、今日もまた夜は更けていった。たすけてほんとに。