最愛の伴侶の着物に包まれて微睡んでいた。
いまの天鬼には分からないことが多い。失われた記憶の穴の中に最愛の伴侶の存在が落ちてしまったのも『分からないこと』のひとつだ。
八方斎様に救われてドクタケ忍者隊の軍師になったが、それ以前に出会っていたという伴侶は、覚えていないのが申し訳なくなるほどに真っ直ぐに愛を示してくれた。
私が生きていることを泣いて喜んでくれた。覚えのない男の涙が頬に落ちてきて、感じたのは歓喜だけだった。
あの経験を経ても、私は、必死に生きた上でちゃんと人を愛せる、まともな人間に成れていたのだ。愛と正義のもとに生きるまともな人間になっている。覚えていないけど、まともだったはずなんだ。人を愛せるし、人から愛されるような大人になれていたんだ。
私が生きていて、それが泣くほど嬉しいと言ってくれる人を得られたんだ!
死ぬほど欲しかった物がいつのまにか手に入っていた。この幸福がどれほどのものか、影鬼はわからないのだろう。いや、かつての自分はもしかしたら言葉を尽くして伝えていたのかもしれない。
影鬼が語る数多の思い出のほとんどは、時が経っても思い出すことが出来ていない。私が怪我をした事から心配性になってしまった影鬼は、私が寝付くまでずっと起きて見守ってくれている。それがあまりにも幸せすぎて、少しだけ、夢を見た。
子供の笑い声が聞こえる。遠くに影鬼がいる。私を見て、はにかむように笑って小さく頭を下げた。私も同じように少し頭を下げる。 「話したいな」と思った。私の顔は、きっと笑っている。近くに行きたいな、話したい。彼のことが、知りたいと。─────きっとこれは、出会ったばかりの頃の夢だろう。起きたら伝えよう、ここから少しずつ、たくさんの思い出をとりかえせるはずだから。
