世界で一番超絶可愛い俺のザングース

(そして部外者は舞台に戻る)

 突然走り出したザングースを追って、Nがたどり着いたのは森の中にある小さな墓地だった。まだ新しい石の墓標が並ぶ一角、そのひとつに黒いコートが掛けられている。ザングースはその前で立ち尽くしていた。さっきまであれほど必死に何かを探していた足は止まり、爪も尾も動かない。ただ墓標を見上げたまま、やがて喉の奥から低く長い声を漏らした。遠吠えのようにも聞こえた。けれどNには、その声を言葉として聞き取ることができなかった。それは恨み言でも、誰かを責める声でも、意味のある言葉ですらなかった。ただ純粋な泣き声だった。悲しい、悲しいと、それだけを全身で訴えるような声だった。

 Nは何も言わず、その姿を見ていた。やがて背後から「ザングース! 」と女性の声が響く。聞き覚えがある。育て屋にいた、あの女性だろう。足音がこちらへ近づいてくる。Nは帽子のつばへ指を掛け、いつもより深く被り直した。自分がここに残る理由はない。彼を迎えに来る人間がいるのなら、なおさらだった。Nは踵を返し、墓地の外へ向かって静かに歩き始めた。

 ポケモンは解放すべきだ。人間による隷属を断ち切り、人間に利用されることも、傷つけられることもない世界へ戻さなければならない。それが正しい。そう信じている。人間と共にいるから傷つくのだ。別れがあるから悲しむのだ。ならば最初から結びつかなければいい。人間とポケモンが互いを所有するような関係そのものをなくしてしまえば、このザングースが今こんな声で泣くこともなかったはずだ。

 けれど、それなら彼は人間を憎んでいるのだろうか。Nは歩きながら、ふと考えた。あの泣き声のどこにも憎しみはなかった。裏切られた怒りも、縛られていた恨みも聞こえなかった。ただ、いなくなった誰かを恋しがっていた。愛しているから、あんなふうに嘆いているのではないだろうか。共にいなければ傷つかなかった。けれど共にいなければ、あれほど誰かを愛することもなかったのではないだろうか。

 彼と、亡くなった誰かは、どんな関係だったのだろう。主人とポケモン。トレーナーと手持ち。そう呼べば、それだけのことに見える。けれどザングースは何日も待ち、知らない土地まで探しに行き、最後には墓の前で言葉さえ失って泣いていた。もしかしたら、そんな名前では足りない関係だったのかもしれない。

 トモダチだったのだろうか。

 Nは一度だけ足を止めた。振り返りはしなかった。背後ではもう、女性の声とザングースの泣き声が重なっていた。

 会って、話がしてみたかった。

 あのザングースがそこまで愛した人間に。

 そうしたら、何かがわかったかもしれない。

 僕はもう、後戻りできないけれど。

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